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聴講リポート「ジョブ型雇用の理想と現実」村上臣さん×志水静香さん対談

LinkedIn News編集部LIVE!として10月2日に開催された、LinkedIn日本代表の村上臣さんと、Funleash代表の志水 静香さんの対談から、自主リポートとして書き残してみます。

Funleash代表の志水 静香さんのご経歴は以下です。

志水さん0


専門領域は、経営戦略人事,HRM,リーダーシップ開発,組織開発,タレントマネジメント,D&I(ダイバーシティ&インクルージョン),エグゼクティブ・コーチングなど。

今回のLIVEでは、ジョブ型雇用の深堀が展開されました。
偶然ですが、最近の気になるコンテンツを通じて、目に耳にしていた共通キーワードが、このLIVEでも出てきました。その共通点を大切にしつつ、今回もポイントを振り返っていきます。

●Funleashに寄せられる人事の声

Funleashの社名由来は、Fun(一人ひとりの可能性を生み出す愉しさ)+Unleash(解き放つ)の造語とのこと。
そのメンバーの皆さんは、別の組織で仕事をしているという珍しい構成。メンバーそれぞれの知識や知見を共有しながら、日本企業を人事面から元気づけることを目指して活動されています。
様々な企業の人事担当者や経営者からの相談を受けられる志水さんへ、LinkedIn村上さんから「コロナ禍で企業は変化しましたか?」という質問からトークがスタートしました。
この問いに対して、以前から企業の人事は他社からの学びに取り組んできたとされ、今こそオペレーション人事から戦略人事へと変革を実行したいという声が多く寄せられているそうです。
そして今、Funleashへの一番多い相談は下記の2つだそうです。

・次世代リーダーが育っていないが、どうすれば良いか?
・ジョブ型雇用は本当に導入すべきか?

●議論の先行だけではダメな理由

相談で寄せられるサクセッション・プラン(後継者育成計画)を考えるにあたり、様々ある研修にすぐ飛びつかずに、潜在能力を発揮できる「機会」を作ることが必要だとされました。

その具体策として、人事の視点では「人を知る」ことを重視して、
・社内で活躍中の人や、苦戦中の人はどこにいるのか
・その人材がどこで活躍できるか、
について考えることが重要とのこと。

また、「ジョブ型雇用の対比はメンバーシップ型雇用ではない」との解説には、驚きの声が多くあがりました。

ここで人事労務管理についての欧米型と日本型の比較に、1枚のスライドが紹介されました。
スライドでは、人事・報酬・転勤異動・保障・解雇・能力開発などについて比較しつつ、解説内で注目されたのが、「欧米型と日本型は前提となる思想が、かなり異なる」という点。

欧米型_日本型

さらに、志水さんから欧米と日本を比較して指摘された下記の点が重要です。

欧米では、流動性ある社員の定着のため、会社が莫大な投資をしている。
日本では、人件費の削減や生産性UPのためだけの議論が先行している。

この点についてLinkedIn村上さんは、
「いかに良い機会と報酬パッケージを与えるかが、企業の価値に直結してきた」と注目されました。これらの観点を踏まえて学ぶと、議論だけ先行すると見失ってしまう本質があることに気付かされます。

志水さん1

●欧米でも限界や課題はあるという事実

トーク中盤では、日本ではあまり知られていない欧米の2つの姿から雇用や育成について深堀されました。

その1つ目が、「ジョブ型雇用は欧米でも限界だと言われている」という点。
理由としては、欧米でのジョブ型雇用は細分化された20世紀型のものであり、
変化が激しい今の時代においては、job descriptionのメンテナンスが既に難しくなっており、creativityが失われている現状があるとのこと。
今までにない新しい仕事がどんどん生まれている中では、考えてみれば当然と思える学びでした。
その上で、先輩が後輩を指導するという、日本ならではの企業文化も素晴らしいものだとされ、ハイブリッド型(例:報酬はジョブ型/育成は職能型)の雇用も日本向けとして推奨されました。

欧米に関する2つ目のポイントは、「リーダー育成はグローバル共通の課題である」ということ。
世界の経営者1万人の調査でも「リーダー不足」の回答が多く出ているとのことも、日本だけがリーダー育成に課題があると誤解されがちだと感じます。
但し、日本と欧米を比較された中での以下の点は、正しく現状認識しておきたい点です。

【日本】
 ・若いうちにキャリア構築への色々なチャンスを得にくい
 ・上層部に人が詰まっている組織が多い
 ・CEOの年齢も15歳ほど欧米より年上
【欧米】
 ・20代から自分で決断する経験やビジネス上の修羅場を経験させる
 ・CEOに40代前半から登用される機会も多い

この点については、LinkedIn村上さんの日系企業から外資系LinkedInに移られたご経験も例に、「若いうちに失敗しても何とかなると考える思考の重要性」で話題が盛り上がりました。
そして、社員を子ども扱いせず、社内でのみ通用するような特殊能力を高める研修ではなく、主体的に自律的なキャリアを選べるための取り組みも重要とされました。

今回この「修羅場の経験」という話題の際に、自分がビジネス上で育ってきた環境について思い起こしました。そして、自分の力を試し・伸ばす為に、本当に多くのチャレンジ機会があったことを再確認する時間となりました。その全てがあったからこそ…の今だと感じます。

●運を切り拓くというマインドセットへ

終盤ではLinkedIn村上さんから、世界22か国でアンケートした結果による話題が出されました。
仕事で成功するために重要なことは?というアンケートに、
各国とも1位回答は、努力すること。2位は、ビジネスネットワークや人脈であった中で、
日本だけは2位回答が「運」だったそうです。

なぜ「運」なのかという点への考察では、仕事の機会も環境も、会社の決定や与えられるもの次第。選べるものではない、という考えが日本ではあるとのこと。

このマインドセットを変えるための秘訣として、志水さんからは、
各国の優秀なリーダーは、自分が長けていること、足りないことへの自己認識力が高いことも紹介されました。
私たちが一歩踏み出す為には、
自分が得意とするものや好奇心を尊重しつつ、自分ひとりで決めて動くことは簡単ではないからこそ、自分と違う価値観の人から学び続けることが大切であり、
この小さな一歩を積み重ねることで得る自信から、自分で決めて運を切り拓くことが可能になるとされました。

このリポート冒頭に触れた、最近の注目の共通キーワードは
「自分の出来ることから挑戦する」ということであり、今回ここに加わったのが「切り拓く」というアクションでした。
切り拓くために、挑戦したいと考えていることを積極的に発言して、それを周囲と認め合えること、その基本に立ち返ることが重要であることは、欧米も日本も同じとのことでした。

最近では、「日本の問題点は・・・」という切り口の議論を多く耳にします。今回のLIVEを通じて、グローバル共通の課題と日本独自の課題、それらをごちゃ混ぜにせずに、日本にとってのハイブリッド型などの模索が必要な理由について考える良い機会になりました。