見出し画像

聴講リポート「AI時代の『自分の価値』」村上 臣さん×平野未来さん対談

LinkedIn News編集部LIVE!として10月27日に開催された、LinkedIn日本代表の村上 臣さんと、シナモン代表取締役社長CEO 平野 未来さんの対談から、自主リポートしてみます。

▼ シナモン代表取締役社長CEO 平野 未来さんのご経歴は以下です。

画像1


2016年にシナモンを日本で始動され、現在は人間の事務作業をAIがサポートするシステムの必要性、そしてその成長の可能性を追求し続けておられます。
AIの社会実装やサービスは浸透しつつある一方で、AIに対する脅威論や懐疑論は根強く残っており、AIは我々の生活の何を変え、その結果人間はどんな付加価値が求められるようになるのか。AI時代の「自分の価値」の見つけ方など、多くのヒントがあったLIVEを振り返ってみます。

●今のAIってどんな事ができる?

まだ未知の領域で漠然とした不安や懸念が多いAI…そういった印象が変わりそうな内容が、この日のLIVEには沢山ありました。
その1つが、平野さんがCEOを務める「シナモン」の社名由来についてです。この参加者からの質問へのお答えは、なんと「最初は適当につけた」とのこと。
とはいえ、社名に込めておられる想いからは、AIへの負印象もある中で、カタカナの長い名前ではなく、スパイスの王様と呼ばれるシナモンに肖り、「幸せな人生のスパイスになるような存在」としてこの社名を変えずにいる、とのお話は、温かみのあるメッセージだと感じました。

ここから本題に入り、「今の社会でのAI活用の現在地は?」という質問には、以下のポイントが伝えられました。

・技術的には出揃ってきており、今後の活用を考えていく時期
・残念なのが、AIが単なるコスト削減手段として検討されること
・AIを成長手段として扱うと、成果は大きく変わる
現在のAI能力としては、手書き文字も理解できる
・契約書など、フォーマットが非定型なものも理解できる
・手書き×非定型なものは、まだ難易度が高い

この中でも、コスト削減とするか成長戦略とするか、という観点については、分かりやすい具体例が紹介されました。

あるアニメ制作会社では、20分の動画を作るために5,000枚のセル画を必要。その「色を塗る工程」のコスト削減への考え方で、
人件費の安い海外へ作業発注する、または、色塗りの出来るAIを活用するという、2つの選択肢があるとのこと。
ここでAIを活用すると、国内から海外へ流れるお金の削減だけでなく、スピードも圧倒的に上がり、単なるスタッフ数の削減よりも大きなコスト最適化が可能とのことです。

また成長戦略として、ユーザー体験につなげることが重要だとされました。
そのカギとして、「エキスパートである人間とAIが一緒に働く」という観点がとても重要とのことです。
この理由は、平野さんから伝えられた「人間とAIの具体的な違い」が分かりやすいと感じました。

【人間は】
抽象的に考えて仮説を立てることに長けている。
設定外の例外時の処理を考えて対応できる。
【AI は】
抽象的に捉えて考えることはできない。
設計されたことに対して高いパフォーマンスを発揮できる。

AIとの共生という点では、人間がエキスパートとして能力を発揮するとのお話でも「まさに隣の席にAIがいるようなイメージ」だと、村上さんもコメントを添えておられました。
このように具体的なシーンを想像していくことで、漠然とした不安を持つだけでなく、AIと共生にどのような視点が必要か、理解も深まりそうです。

画像4

●AI活用の可能性について

次に、「トレーニング」「面接」「営業」というシーンでのAI活用の将来性について話題が拡がりました。

Q: シナモンで、今チャレンジされていることは?
A: 新人のトレーニングでもある、カルチャーフィッティングに注力中。今まで文化というものは、一緒に働いてわかることだったが、トレーニングのコンテンツとしてMTGの録画共有や資料活用の可能性が広がっているので、今後は効率化も期待できると思う。

Q: 採用面接フローはAIによって自動化されるか?
A: 基本概要の説明などは活用の可能性は高いが、人とのコミュニケーションを通じて相互理解を得ていく採用面接では、完全なAI化は適さないかもしれない。

Q: 営業活動ではAI活用されるか?
A: 既に米国ではAI導入が進んでいる。具体的な内容は、コミュニケーションの最適化の目的。例えば、営業と顧客の会話において、双方が話す割合がどの程度が最適(商談が成立しやすいか)などの分析は進んでおり、それを参考に、話す量やスピードなどの指標の為にAIがサポートするそうです。

これらの話題には、村上さんから声紋による感情分析の発展なども触れられ、それらを総合的に活用していくことで、将来的に採用面接シーンでも用途が広がるかもしれない、とされました。
このような具体的な内容からも、AIが人間の仕事を奪うというよりも、最適化へのサポートとしての期待が大きい印象を受けます。

●自分が本当に得意な仕事の見つけ方

後半では、村上さんからの質問として「2児の母でもある平野さんの働き方について」が話題になりました。現在、平野さんのお子さんは保育園に通われています。
その1日を通したタイムスケジュールは、普通の働くママの生活そのもの、という印象でありつつ、その中でも個人的な共感ポイントは、家事のDelegationでした。
Delegationとは、他の誰かに仕事を任せることを意味しますが、家事や日頃の仕事でも、得意不得意を考慮してDelegationを徹底されているとのこと。(もちろん私も、家事Delegationしています。)LinkedIn村上さんがご家庭内では縫い物を担当されているお話も、素敵なエピソードだと感じました。

女性でも全ての家事をパーフェクトにできるわけではないので、家事というテーマから得意不得意を共有することで、お互いの距離が近づくシーンは多そうですね。

そして仕事においても、「得意なことの見つけ方」について深堀され、平野さんと村上さんからいくつかのポイントが伝えられました。

・努力して出来る仕事は、すごく得意な仕事ではない
・息を吸うようなレベルでの強みが、得意な仕事になる
・日本の文化は苦手を克服することが良いとの傾向がある
・自分のことは実は半分くらいしか理解できないもの
・強みを知る方法は、周りに聞いてみるのが一番
人より簡単そうにやっていること、に注目してみる
・自分の強みを周囲からのフィードバックから知ることは重要

画像3

●個性が際立つ多様性や未来について

最後に質問された「次の10年で成し遂げたいこと」について、平野さんからは「frictionlessな(摩擦の無い)働き方を実現したい」とのお答えがありました。これはつまり、嫌なことを無くすということで、その具体的な内容として下記が伝えられました。

一般的に使われる、ナレッジマネジメント(Knowledge Management)という、知識や経験を共有・活用する経営手法に対して、
「ナレッジアンマネジメント(Knowledge Unmanagement)」を実現していきたいそうです。
その真意は、今の人間の働き方は、機械やシステムに合わせる働き方であり、産業革命時代から変わっていない。これからは、既存の仕組みに対して合わせるための管理ではなく、勝手に最適化されていくことで、本来の人間それぞれの個性が際立つことになる。結果として多様性や得意を伸ばすことを実現できると思う、とのお考えでした。

今回のLIVEトークを振り返ると、
私たち大人は、子供が育つ環境には「個性を活かして」「強みを伸ばして」と、理想を持つ機会が多いですが、いつの間にかそれを抑えていくことが当たり前になりがちだと感じました。
いま改めて、今までにない働き方の選択肢によって、子供との時間や距離が近くなりつつあるチャンスを活かして、「大人の自分にとっての本当に得意なこと」を探したり、他の人と伝え合ったりしたいと感じました。そして、自分の生き方のエキスパートが増えていけば、未来も変わる気がしています。