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コンセント(同意)の基本についてお話しします

コンセント(同意)について

こんにちは! 映画ライターの森田真帆です。実は、このたび私は渡米して CONSENT EDUCATER の資格を取得してきました。皆さんは、コンセントって何かわかりますか? 交際関係や仕事、友人関係などさまざまな場面で必要な<同意>のことを英語でCONSENT コンセントと言います。なぜ私がこの<コンセント>に興味を持ったか、きっかけとなった出来事をふたつご紹介したいと思います。

A子さんの場合
A子さんは、グラビアなどで活躍していたタレントさん。とあるインディー映画でとても重要な役柄に抜擢されました。初めての俳優業で当日、張り切って現場に行ったところ、受け取っていた台本には記載されていなかった性的なシーンの撮影があるとプロデューサー、監督から打診された。嫌だと言いたかったが、今後の業界での仕事がやりづらくなると事務所のマネージャーから言われイヤイヤ演じた。

B子さんの場合
とある飲み会に参加して、酔っ払ってしまった自分を男性の1人が送ってくれた。酔っていて記憶がなくなってしまい、起きたらその人が隣に寝ていて、自分は裸だった。

実はこの出来事以外にも、たくさんの小さな事件がわたしのまわりで起きました。自分が関わっているリアリティ番組でも同意について考えることがたくさんありました。あるワイドショーで#metoo の活動をする女優たちを笑って「枕営業くらいあるでしょう」と笑っていたことに傷ついたり、「フジテレビ批評」と言う番組に出演して、#metooの話をしたときも「女が気をつけるべきだろ!」というリプライをたくさんもらいました。

正しい<CONSENT>はいろいろな場面で役立ちますが、主に性的な行為の前に互いの意思を確認することを<sexual consent>(性的合意/性的同意)と言います。#MeToo運動が始まって以降、この性的合意の重要性が注目され、CONSENT EDUCATIONはアメリカを中心に教育機関や職場などで広まっています。

私自身、このCONSENT EDUCATIONについて知ったとき、もし1人でも多くの人がこの勉強をしていたら、先に紹介したような悲しい出来事は少なくなるのではないかと感じました。女性だけが気をつけるべきだとか、そういうことではなく、CONSENTは全員が学ぶべきだと思います。

日本には「いやよいやよも好きのうち」なんて言葉もあって、<同意>がとても軽く見られてしまいがちです。特に日本のエンターテインメント業界においては、きちんとした<同意>をとることが難しい状況であることも多いです。

そんななか、昨年からハリウッドでオンライン&オフラインでの約1年間の勉強期間を経て、CONSENT EDUCATER (同意のスペシャリスト、教育者)の資格を取得しました。

自分の息子や彼くらいの年頃の若い人たちにも、まわりの映画業界に数多くいる友人たちにも、それ以外の人たちに向けて、1人でも多くこの<同意>について自分の知識をシェアしていきたいと思っています。一人一人の意識が変われば、きっと世界は変わってくる! そう信じています。

というわけで今回は、<同意>においてとても大切な基本の考え方をnoteにまとめてみました

そもそもコンセントってなんでしょう??
コンセントとバウンダリーのこと(境界線)

同意について話す前に、バウンダリー=境界線という言葉がとっても大切になってきます。

自分の体は、自分のものであり、自分の体に関する決定権は全て自分にあります。彼氏のものでも、親のものでもありません。自分の境界線は、100パーセント自分で決める権利があります。

自分が嫌なことって自分次第。知らない人に髪を触られるのが嫌、急に体をベタベタ触られるのが嫌、ピアスを開けた理由を聞かれるのが嫌。バウンダリー=境界線は自分で100パーセント決めていいんです。

相手の境界線を同意なしで、こえてはいけないし、そこでちゃんと同意をとって初めて行動ができます。だから、なにかをするときに相手から同意を取ること。それが一番大事です。相手の体に関わることはとてつもなくセンシティブなので、必ず同意を取って行動することが大切。

こんな話してると、えー、頭なでなでくらいいーじゃん!って人がいます。頭なでなでがいいのは自分の境界線がいいのであって、必ずしも相手もいいと思ってるとは限らないから同意はとても重要です。

生きてく中で、同意を取る側になる時と、取られる時があります。だからこそ取る側の知識はもちろん取られる側になった時の自分の中の境界線を自分の体と対話しながら決めていくのが大切です。


アメリカでは<性的同意>においてFRIES という5つのルールがあります


Planned Parenthoodより



この「FRIES」は、現代のCONSENT EDUCATION では使われなくなった項目(Enthusiasticは現在授業では使っていません)があったり、今後大切になってくることなどが年々変わってきているので、ハリウッドでCONSENT EDUCATERとして活躍するMia Schachter の監修の元、<日本版CONSENT>の学習プログラムを作成しました。

今日ご紹介するのは、<同意>にとって大切な基本の考え方をできる限りわかりやすく、詳しく説明したものです。

実際のカリキュラムでは、対面でのトレーニングやグループでのセッション、ディスカッションを交えながら学んでいただきます。

エンターテインメント業界に携わる方、教育機関、自治体など、によって内容は少しずつ変わるので、このカリキュラムに興味がある方はぜひお声がけください。

CONSENT <同意>において大切なこと

自由な意思
<プレッシャーや強要もなく、力関係が働くことなく【はい】も【いいえ】も自由に言える>

同意はいつでも本人の自由な意思が尊重されなければいけません。たとえば、上下関係、力関係が働いたり、「もし嫌って言ったら、〇〇って思われるかもしれない」という一方が弱い立場にいたり、断ることに引け目を感じたり、断りづらい環境では、きちんとした同意は成り立ちません。この力関係は、交際関係においていつでも交代したり変わったりすることがあります。強要も、相手へのプレッシャーもどちらも同意においては許されません。

自覚すること
<力を持つ人間は、自分が相手に及ぼす圧力を自覚する責任を持つ>


<自由な意思>は、力関係が働く環境下では断りづらいことが多く、なかでもエンターテインメントの業界ではなおさら難しくなってきます。これは役者が個人事業主だった場合や事務所に属していない場合に加えて、プロのインティマシーコーディネーターさえ個人で雇われているため<自由な意思>が尊重されることが難しいと言われています。最も力を持ち、自由に雇うこともできて、解雇することもできるのは<プロデューサー>そしてあるときは<監督>などの役職を持つ人たちです。雇っている相手に対して、上司が仕事として直接キスやそれ以上のことを求める職場は稀です。

断ったらどうなるか、を考える俳優は少なくないと思います。もしも断った場合、自分が解雇され、別の人間が起用されて、もう2度とその監督との仕事はできなくなるかもしれない。そう思う俳優はたくさんいます。エンターテインメント業界では、この「断れない」環境を作り出してきたプロデューサーや監督が少なからずいて、ここに男女差別をはじめとする社会が生み出した抑圧が加わったことで「断る」と言う選択ができないという個人的犠牲を増長してきました。お金はもちろん、プロとしての評判がかかってくると決断はさらに難しくなります。

だからこそ、力を持つ人間は自分の<力>というものをきちんと自覚し、理解し、熟慮する必要があります。プロデューサーや監督にはそのような権限を持つにもかかわらず「俺なんて、いちプロデューサーだからさ」「監督にはそんな権限ないですよ」というひともいますが、それは自分自身の考えであり、雇われている<役者>からすればそれは関係ありません。力を持たない人間は、この<力関係>を敏感に感じますが、力を持っている人間ほど自分の持つ力やプレッシャーに対して鈍感です。<力を持っている>立場にいる人間には、この<力関係>を少しでも軽減する努力をする責任を持たなければいけません。

柔軟な意思変更
<いつでも自分の決断を変えられる権利があります。数日前にYESと言っていたとしても、今日、来週でその決断は変えられる>

もしも同意をしていたとしても、自分が「嫌だな」と思ったのであればいつでも考えを変えることができます。「YES(いいよ)」はいつでも「NO(嫌だ)」に変えられます。「やっぱり嫌だ」と思うことは自由であり、「嫌」と言う意思を伝えられたら、無条件でそれを受け入れなければいけません。また、提案した側も柔軟な意思変更ができます。相手が同意した後、もしも嫌になったら、それを変えることもまた自由なので、その場合もきちんと相手に伝えましょう。

また「言葉」だけではなく、表情や顔色、声のトーン、話す速度、ジェスチャー、視線などは、ときに言葉以上に大きな役割を果たします。もしも相手に不安や心配が見えたら、たとえ以前に同意があったとしても、改めて本当の気持ち、意思の確認をして相手を尊重ことが大切です。相手が迷っているそぶりを見せていたり、「わからない」「どうだろう」など曖昧な返答の場合は、同意したことにはなりません。

情報と熟慮する時間
<必要な情報を全て与えること。その情報は全て事実であること>

力関係も、体型的な人種差別も、<自由な意思>を難しくする他の抑圧の影響を完全に消し去ることはできません。それでも同意するかどうかにおいて、正確な情報ときちんとした事実を受け取ることで熟慮する時間を同意する側が持つことは大切です。

また、相手に与える情報は、事実でないといけません。例えば、交際関係において、「コンドームをつけるからsexしよう」と言って同意を得たあと、実際にコンドームを使用せずにsexすることは同意ではありません。

もしも相手が正しい情報を持っていない、またはすべての情報を持っていない可能性があると思われる場合は、情報を渡す側の人間もさらに詳しく調べて、より多くの情報に基づいた同意を相手ができるように役立つ情報を提供するようにしましょう。

エンターテインメント業界においては、俳優にとって、全ての必要な情報はもちろん、自分の意思を決める上での影響すべてをきちんと考える場所と時間を持つことが必要です。もしもプロデューサーや監督から何か要望が出た場合は、その場で決定するのではなく、監督からの要求と役柄、芝居について熟考するための時間を俳優に対して十分に与え、詳細について納得がいくまでコミュニケーションをとって、俳優が条件として出しているボーダーラインを明確にしたうえで、それを尊重してどんなことができるか、もし問題が出た場合はその解決策を話し合う必要があります。雇用関係とその意思決定は明確に分離していくよう、現在の業界全体の構造を全員が意識を持って変えていかなければいけません。

具体的に伝える
<情報や計画を具体的に伝える>

情報や計画を具体的に伝えることは大切です。何をどこで、誰が、誰と、どんなことを、時間はどれくらいかかるのか? など、同意をする内容がきちんと理解できるよう、具体的に伝えましょう。

状態の考慮
<相手の心身の状態を考慮する>

大切なのは、慎重に検討、考えた結果の同意です。同意を得る上で相手の心身の状態はとても重要です。相手がショック状態にあったり、悲しみや怒りによって支配されて冷静な判断が下せない状況であったり、アルコールやドラッグの影響下にある場合は同意となりません。また、先の<熟考>にもあったように、相手が自分の自持ちを注意深く考える時間を持つ必要があります。

ときに、考えるために一時停止している瞬間は、人によって自分が拒絶されたように見えることがあります。このような場合、自分が拒絶されたことを恥ずかしく感じたり、侮辱されたように感じてしまう<恥のスパイラル>に陥りやすいです。相手が一時停止した瞬間に、「あ、今の忘れて!なんでもない」と言いがちですが、それは相手に「申し訳ない」というプレッシャーを与えかねません。そのような反応をすることなく、相手が考える時間を尊重して、考える余裕を与えるよう、考え方を変えるようにしていきましょう。

積極的な会話をする
< 言語、非言語ともに積極的なコミュニケーションを図る >

誰もが違うバックグラウンドを人生に持っています。だからこそ、「いいえ」のひとつをとっても一人一人違います。積極的にコミュニケーションをとることは大切です。そして会話だけではなく、非言語コミュニケーションも大切です。さまざまな形で多くのコミュニケーションをとることによって、相手のことをより知ろうとしてください。

エンターテインメント業界においては、俳優が、自分たちのシーンについてのミーティングへの意思決定プロセスへの積極的な参加を推奨しています。これは、クリエイティブな面において、俳優が平等な参加者として自分たちがなにをするか、なにをしたいかの意思決定を俳優に委ねることができます。性的なシーンは決して快適ではありませんが、芝居の流れを一緒に参加しながらつくることによって、俳優としての自信のみならず、事務所の感覚も高められます。この場合、「力関係」が働かない<平等な>立場であることが重要になります。

監修 Mia Schater
text by Maho Morita

日本においては、まだまだ認知度自体は低いですが、理解が進めば色んなことが変わっていくと思います。

そのためにはディスカッションも大切なので、パートナー同士、家族、職場などでどんどん話していって欲しいです。



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