日曜、代々木上原の夜

その日は夕方の着信で目が覚めた。急いで身支度を整え、駅前の本屋で落ち合う。

「いきたいとこある?」「『鎌倉』とか言ったら盛り上がる。幼なじみに振り回される男二人って感じで」「幼なじみでも何でもないんだけどね」

新宿東口を降りてコーヒースタンドへ入り、ペンキの剥げたカウンターに肘をついてホットドックと冷たい珈琲を飲み込む。仕事帰りの労働者風。壁にはよくわからないイラストの古びたポストカードと、手書きの「1枚150円」。
小田急線に乗り換え代々木上原。降り立つと外は暗く、日曜ということもあって店もほとんど閉まっていた。歩いているのはここで生活しているであろう人たちばかりで、観光気分の三人は少し浮いていた。あてもなくぐるぐると歩き、同じ景色を三回見た後で螺旋階段をのぼり喫茶店に入る。

「なんか、静岡みたいだな、ここ」
「ああー、わかる」

テーブル席に座り珈琲を飲む。灰皿の灰が山になる。閉店時間に追い出され、次なる居場所を求め焼き鳥屋でビールとウーロンハイとレモンサワーを頼む。親子丼のボリュームがたっぷり。

電車はまだあったが、なんとなく帰りたくない気分だった。その気持ちが伝染したのか、示し合わせたように理由もなく夜の住宅街を新宿まで歩いた。とりとめのないおしゃべりが続き、『男の人と仲良くしたいと思ったらその人の彼女になるしかないなんて、女であることは本当につまらない』と云う人を思い出す代々木上原で、私は静かに聞いていた。

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