気まま紀行録

気ままな旅をした。お金も、寝るところも、食べるものも、すべて。決めていたのは行き先だけで、あとは何も決めなかった。

当日に切符を買って、着いたら観光案内所で宿を探した。暑い日もあったし、寒い日もあった。暑い方が、なおよかった。Tシャツとスカートにカーディガンを持ち、ホテルを出てふらりと歩いた。風が気持ち良い。

看板を見て適当なお店に入り、土地のお酒を飲んだ。帰りにスーパーに寄って、アイスやドーナツを買うのだ。お財布は、できるだけ小さい物で。お金が足りなくなれば、コンビニへ行っておろせば良い。

ホテルで翌日のことを少し考えながらまどろむ。支度はいつも簡単。Tシャツ2枚、羽織り1枚、スカート1着。小さくまとめたソックスと、さっぱりした下着。ポーチには口紅とクリームと、ペンが2本。タオルも2枚。
ホテルのエアコンが壊れ、ベッドが水浸しになったって気にしない。

駅前の土産店に入ったときだけ、少し現実に戻る。あの人と、あの人と、それからあの人へ。ひぃ、ふぅ、みぃ。それ以降は数えられない。

帰りの切符はいつも並ばず買えた。それが少しだけ嫌だった。けれど、買えるものは買えるのだ。

乗り物に身を任せた家路はいつも、冷房が効きすぎている。効きすぎて、カーディガンでは間に合わない。土産の包みをびりびり破り、甘いまんじゅうを一つ、口に放り込む。流れる街灯が世界のすべてだった。

街灯街灯街灯トンネル街灯街灯街灯街灯街灯街灯街灯住宅住宅住宅モール住宅住宅街灯街灯街灯。

夜はどうして暗いのか。暗いから夜というのか、考える。街灯がときどき青くて嫌になる。「青い光は心を落ち着かせ、犯罪抑止効果を期待できます」

最寄り駅からタクシーだ。夢の夢の夢の続き。家に帰って、もう一度土産のまんじゅうを食べる。帰路とは味が違う。同じはずなのに、どこか違うのだ、あのときのあの味と。
そうしていたら、気ままな旅の終わり。あのときのまんじゅうは、確かに甘かったのだ。

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