エスコンフィールドはまだ未完成 〜アジャイル開発とエスコンフィールド〜
エスコンフィールド北海道(以下エスコンF)はアジャイル開発だ
開業から3ヶ月が経過したエスコンFを見ていてそう思った。
アジャイル開発とは
アジャイル開発とはソフトウェアの開発手法の1つであり「アジャイル(agile)」には「素早い」という意味がある。
一般的な開発手法であるウォーターフォール型開発は
要件定義→設計→プログラミング→テスト→リリース
という開発工程を順番に終わらせていくのに対し、アジャイル開発は小さな機能単位で仕様決定→プログラミング→テストを繰り返し、ブラッシュアップしながらシステムの完成に近づけていく。
アジャイル開発は比較的新しい開発手法で、2001年にアメリカでソフトウェア開発のエキスパートたちが「アジャイルソフトウェア開発宣言」を発表したことから広がっていった。
その開発宣言の中には『4つの価値観』が提示されている
・プロセスやツールよりも個人と対話を
(開発者がFaceToFaceでコミュニケーションを取ることに価値がある)
・包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを
(ソフトウェア開発においては「設計書(仕様書)」を作成してからプログラミングに入る。アジャイル開発においては設計書に時間をかけるよりも動くものを作ることに価値がある。)
・契約交渉よりも顧客との協調を
(顧客と対面するのではなく、開発者と顧客が同じ方向を向くことに価値がある)
・計画に従うことよりも変化への対応を
(顧客ニーズなどにより当初の計画からの変化も受け入れることに価値がある)
その価値観がこの3ヶ月のエスコンFでも感じられた。
もちろんエスコンFはソフトウェアではない。しかしエスコンFのハード面(建物)に対し、それをどう使うかという運用やサービスはソフト面であり、それを日々改善していく様子がソフトウェア開発に通じるものがあった。
エスコンフィールドのアジャイルな改善
従来、球場の運用やサービスの整備や改善については
ファンの要望をアンケートなどで集める→アンケート結果をまとめる→実現するものを決定→実現に向けて動く
という段階を踏んでいるのではないだろうか。
もちろんFビレッジでもアンケート等でファンの意見は収集しているだろう。
しかしそれに加えて「Fビレッジおじさん」というTwitterアカウントがアジャイルな改善に一役買っている。
Twitterで「#聞いてよFビレッジおじさん」のハッシュタグをつけて意見や要望を出すと、「Fビレッジおじさん」が聞いてくれて実現の可能性を探ってくれる。
おそらく「Fビレッジおじさん」の中の人は、決定権を持つ地位の人なのだろう。ファンからの要望に対して「やってみます」「調整します」「直します」など実に前向きな発言で、実現までのスピードが速い。
「飲み物を買うだけにお店に30分も並びたくない」「ソフトドリンクの売り子さんが来ない」という意見にはソフトドリンクの売り子さんを常駐する場所を作ったり
「ソフトドリンクは売ってるけど水がない」「水が飲める場所があるといい」「モバイルバッテリーの貸し出しをしてほしい」という要望に給水器とチャージスポットを設置したり
「ドリンクホルダーの角度が悪くてこぼれそう」という要望にはドリンクホルダーの角度を修正したり
アジャイルな(素早い)対応をしている。
4つの価値とエスコンフィールド
アジャイルの4つの価値に沿ってFビレッジおじさんの対応を見ていく
・プロセスやツールよりも個人と対話を
ある時、このようなポップがトイレに置かれるようになった。
Twitterにて色々検索してみると開業前から寄せられていた要望に対応したようだ。
にぎやかな球場内で声に出すのが恥ずかしい人のために「写真を撮ってスタッフに見せる」という細やかな心配り。
これは「おじさん」たちがトップダウンで決定するのではなく、あるいは迅速な対応ばかりを追い求めるのではなく、社内の女性スタッフに問いかけ、検討を重ねてこうなったのだろう。
・包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを
とにかくやってみる、すぐに対応するという姿勢は「店舗の待ち行列が長い」という意見の対応がわかりやすい。
まずはすぐに対応できることとして
「お弁当販売ブースを設置」
「14時試合開始の日の開場時間を1時間早くする」
そして内部で調整をした結果として
「デリバリーサービス始めました」
「モバイルオーダー始めました」
というように顧客のニーズに応え、機能がブラッシュアップしている。
・契約交渉よりも顧客との協調を
Fビレッジおじさんの対応はすべてにおいて「顧客(ファン)との協調」が図られている。
・計画に従うことよりも変化への対応を
球場内外にベンチを設置してほしいという意見が出た時、
「あたたかくなったら増やす予定だったみたいですが、早めて設置を調整するようです」
と回答していた。
計画していたことを前倒しにする柔軟さがある。
実現したファンの要望はこれ以外にもまだまだたくさんある。そして寄せられた要望の中にはいま実現に向けて動いているものもたくさんあるのだろう。
エスコンFはまだ未完成なのである。
アジャイルな改善を続けている最中のエスコンFがこれからどんなふうに成長していくのか、これからもずっと見続けていきたい。
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2023/07/31追記
こちらの記事は、文春野球フレッシュオールスター応募作品です。
また今年もnote賞をいただきました。
この記事を書いたあとも、次々とFビレッジおじさんからエスコンフィールドの改善が発信されています。
まさに成長期ですね。
また、2000字の制限では書ききれなかったことを下記記事にて補足しています。
よろしければどうぞそちらもご覧ください。
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