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ガンゲーム


学園祭を数日後に控えた○○大学は、もう18時だ
と言うのに、忙しなく準備作業に取り組む学生達で溢れかえっていた。
2回生の松尾六郎もその1人であった。ひょんな事から一緒に出し物を作ることになった和田桐翔太と、空っぽの会議室にこもって暗中模索している。といっても、真面目にやってるのは翔太だけで、六郎はスマホのガンゲームに興じていた。
六郎はこの時が退屈で仕方なかった。そもそも和田桐翔太とは無縁の仲だったし、しかも翔太は
学校内で不気味な奴だと生徒達から陰口を叩かれている。その原因が、彼がいつも持ち歩いている
3Dプリンターくらいの大きさの謎の機械だ。
そのせいで「マッドサイエンティスト」だとか
「ドクブラウン」だとか言われているのだが、
翔太は気にする様子も無く、いつも実験室に
機械と一緒にこもっている。
そこで何をしでいるのかという事も、翔太のひととなりも、誰もわかっていない。
六郎は暇を持て余すようにガンゲームをやり続けている。勝手に帰ろうとしても、翔太はホワイトボードを書くのに夢中でまるで気にしていないが、教授に見つかると厄介なので仕方なく居るという感じだ。六郎はガンゲームがとても得意で、
都会で開かれたeスポーツ大会でも優勝した事があるほどだ。オンライン制の、いわゆるバトルロワイヤル式のゲームなのだが、六郎にとっては的当てゲームのようなもので、毎回毎回最後まで生き残った。「あーあ、もっと面白みのあるヤり合いがしてえー」とか言いつつも、四六時中ガンゲームをしている。この時もいつものようにゲームに勤しんでいた。敵が物資目当てで六郎のアバターに襲いかかる。ショットガンを打ってきたが、六郎は慣れた手つきでかわして背後に周り、所持品の拳銃でノックアウトした。今度は2人同時に襲いかかってきたが、これもまた一瞬でやっつけた。
「自分は最強」と悦に浸ってニヤけて居たが、ふと横を見ると、翔太が目を見開いてスマホ画面を覗いている。驚いて立ち上がり、「ンだよ!気持ちわりィ!」と思わず声を出した。翔太はしばらく、あらぬ方向をみつめていたが、はっと我に帰り、ホワイトボードに殴り書きをし始めた。
「松尾さん!!!構想が決まった!!!
早速制作を始めよう!!!だがもう帰ってくれて構わない!!!」六郎は「はぁ!?なんだよそれ!」と言い返したが、翔太はもう何も聴こえていないようだ。翔太はあの機械を触り始めた。附属しているパネルを弄りながら、自分の端末をタイピングしている。六郎は、今まで謎に包まれていたあの機械が起動している事に少しだけ好奇心を抱いたが、翔太のことが怖くなったので帰ることにした。否、以前から怖かったが、今回はいっそう怖い。マッドサイエンティストのあだ名が
改めてしっくりきた気がした。
日も暮れて、街がざわめきだした。
六郎は駅のマクドナルドに立ち寄り、ビッグマックセットを注文した。待っている間もガンゲームをした。すきあらばやる。それがモットーなのだ。六郎のアバターがアイテムを使って、高い所へ軽々と飛び上がった。高台は有利。この手のゲーム全てにおいて言えることだ。六郎は、ライフルで敵を4,5人倒し、アイテムの入ったボックスを探して移動しようとした。が、いきなり六郎の画面に文字が現れた。

      不具合が発生しました
     ゲームを再起動してください
                 (エラーコード1568276)

おいおいおい!良いとこだったのに!
六郎のポケットWi-Fiは容量切れだったようだ。
悪態をつきながら、六郎はゲームを再起動した。
ゲームのホーム画面を見ると、レベルが1になっていた。データがとんでしまったのだ。
「えええ?え?え?え?嘘でしょ?は?は??
え?えええええ?え?」
六郎がバイト代を費やして買ったスキンも、
エモートも、ウェポンカバーも。連勝記録も
サーバー上位記録も。綺麗さっぱりなくなっていた。六郎は頭だけ崩れ落ちて、テーブルに大きい鈍い音が響いた。最悪だ。最悪。間違いなく俺の人生最悪の出来事。これ以上ない最悪な出来事。
ああ声が聞こえてる。きっと死神の声だ。
「お客様!ビックマックセットでよろしかったですよね?」

六郎はぶつくさ言いながら切符を買い、駅のホームに立った。帰ってから運営にクレームの嵐を喰らわしてやる。
電車が来て、多くの人々が降り、多くの人々が乗った。電車内は混んでいて、六郎は帰宅ラッシュを避けるんだったと思った。端っこに逃げ込み、
スマホを開いてガンゲームをやろうとしたが、
データが消えていたのを思い出してやめた。六郎は窓の外を見つめてため息をついた。家まで五つほど駅がある。その間何をすれば良い?ゲーム以外の暇の潰し方がこの世にあるのか?
六郎はストレスが溜まっている人間の手本のようなうつむきをした。その時、あるものが六郎の目に入った。
銃だ。銃が落ちている。
六郎は誰かがエアガンを落としたのではないかと一瞬考えたのだが、それ以上に不可解なものを見つけてしまった。
銃の真上に、矢印と「take this」という文字が浮かんでいるのだ。見た感じどこにも吊るされたりしている様子はない。しかも、周りの人間は誰一人この銃と文字に気づいていないらしい。 
六郎は、「あの、これ落としました?」と隣の男性に銃を指差して聞いてみたが「はい?なにをです?」と言われてしまった。
何?ドッキリ?規模デカめのドッキリ?
モニタリング?
そう考えてもみたが、カメラらしきものはないし、都会のど真ん中の、しかも帰宅ラッシュ時の電車を借りてでのドッキリなんて聞いたことない。
「take this」 「これを取る」 か。
...............。
六郎は銃を出に取った。重い。エアガンなら触ったことがあるからわかる。これは玩具なんかじゃなくて真面の銃だ。
すると次の瞬間。六郎が先程までいたはずの電車の風景は崩れ出し、緑色の数字の羅列が視界を覆った。六郎は飛ぶような感覚に見舞われ、訳もわからず大声で叫んだ。
再び風景は電車内に変わった。六郎はよろけながら前を向いた。先ほどまで多くのサラリーマンや学生がいた場所に、デフォルメされた顔の、ライフルを持った人型が立っていた。
え?え?また訳がわからない。
もうドッキリでないことは確定だ。
しかも自分の目がおかしい。右下にゲームの体力バーみたいなのだの所持品欄みたいなのだのがある。装備品欄のような所には、六郎が来ているパーカー、ズボン、パンツ。リュックサック、その他もろもろ。そして先ほど拾った銃。
真前には「shoot start!!!」の文字がデカデカと。ゲームだ。これはゲーム。ガンゲームの中に入っちまったんだ。
とするとこの銃ってやっぱり.....
ズドン!!!
六郎は引き金を引いてしまった。「shot start」
一斉に武装した人型が発泡してきた。六郎は反射的にジャンプし、屋根を突き破って電車の外へ出た。「ヤバ!ゲームじゃん!!」
人型達も上へ登ってくる。
「だとすると此奴らはプレイヤーか」
プレイヤー達がまた打ってきた。六郎は素早く避けて2人ほど電車の外へ蹴り飛ばした。続いて銃をプレイヤーに打ち、全弾が命中した。ライフルを2丁奪って打って打って打ちまくる。「ウリィゃぁぁぁぁ!!!」前後の車両からどんどんプレイヤーが襲ってくる。「こいやぁああぁああぁぁ」
プレイヤーの口に銃口を突っ込んで打ってそのまま後ろの奴を肘殴りで倒し反動で蹴りを5人同時に食らわせそのまま倒れて足をかけて転ばせ頭に0距離でライフルを打って投げて突進して19人ほど壁に縦向きに押さえ込んだ後打ちまくりミニガンを持った奴が現れたので奪い取って無双して打って打って打って.....

気がつけば六郎は電車内のプレイヤーを一掃して、自宅の最寄り駅に着いていた。
降りると当然、街を行き交う人々はプレイヤーに置き換えられていた。「よぉーし、今度はあんたらが相手って訳だ。こりゃ面白みのあるヤリ合ができるぜ。」
電話ボックスが、アイテムボックスに置き換えられている。壊してジャンプ強化アイテムを手に入れ、ビルの上へ登った。この手のゲーム全てに置いて、高台は有利だ。六郎は知っている。
「うらぁぁぁぁ!!!」ライフルを打ちまくる。
プレイヤーも登ってくるが登り切る前に倒す。ビルから飛び降りて、大きい交差点に着地して、衝撃波でプレイヤーを吹っ飛ばす。
あらゆる方向からプレイヤーが、交差点の真ん中目掛けて走ってくる。
「乗ってきたぜ!!勝負はこれからだあ!!!」
次の瞬間、六郎の目の前にいきなり文字が現れた。
あ、

      不具合が発生しました
     ゲームを再起動してください
                (エラーコード36985252)

六郎の目の前の風景が崩れ去り、緑の文字の羅列が広がる。空を飛ぶような感覚に見舞われ、プレイヤーではなく、サラリーマンや、学生達が行き交う交差点に変わった。
インターセクション。多くの人々の目線のその先にポツンと、パーカーもズボンも、何もかも消えてなくなった、素っ裸の六助が、一人立っていた。


うーん、エラーが発生してしまったか。
松尾さんがやってたゲームにヒントを得て、速攻でプログラミングしたけど、現実改造機の負荷が大きかったな。だが貴重なテスト結果が得れたよ松尾さん。これが完成すれば、間違いなく学園祭が盛り上がる。

              



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