逃げ若 吹雪くんの背景妄想

 せっかくTwitterを吹雪くんアイコンにしたので、吹雪くんの背景を本腰入れて妄想してみました。

 彼は、逃若党の中で唯一出自が謎かつ、どこで身に付けたか分からない多才さを発揮していて、未だに裏切るんじゃないかとビクビクしていますが、しっかり考えることで疑念を払拭したいと思います。

【目次】
1.妄想の過程
2.妄想の結果(ナレーション風)

1.は背景妄想の根拠と過程です。くだくだしいので、まどろっこしいという方はスクロールして2.へGO!


1.妄想の過程

 まず、その外見と名前から思うこと。髪の色は薄い水色(?!)で全体的に色素が薄く、名前も「吹雪」ですので、なんとなく雪国出身ぽいなあ、と思います。

 雪国出身を感じさせるのは彼の「寒いからですかねぇ いくら食べても温まらなくて」に代表される「寒さ」の呪縛もですね。雪国出身の自分の主観ですが、北国出身の方はむしろ寒さに敏感で、心の中に常にうすら寒さを飼っている気がします。常に自分が熱くなれる、温まれるものを探す吹雪くんには強い共感を覚えます。
 
 と、いうか吹雪くんと「寒さ」の描写は、松井先生の前々作「魔神探偵脳噛ネウロ」のユキくんを彷彿とさせまくるんですよ。彼も常に「寒さ」を感じていて、兄との絆のみが心を熱くするという人物でした。ユキくんは雪国出身で幼い頃雪崩に巻き込まれて死にかけているので、似た面をもっている吹雪くんも雪国出身でそれこそ吹雪の中で死にかけるような経験をしていてもおかしくないと思います。
 

 次に彼のチャームポイント・大食らいについて考えます。
米と麦への愛が重い吹雪くんは、飢えによる苦しみを経験したのではないかと思います。脳が飢餓状態になるとたくさん食べろという信号が出るらしいですし…(あやふや)。元々食べるのが好きなのかもしれませんが、それにしても村の蓄えを三日で食べ尽くしたり、神への捧げ物を忍び込んで食べ尽くしたりと、全方位に聡いはずの彼はなぜか食に対してのみ異様にタガが外れやすくなります。これには何か理由付けがいる、となるとやはり「食べられなかった」ことの反動で「食べたい」が理性に先行するのではないでしょうか。

 彼はなぜ飢えを経験したのか。それは彼の唯一語られている過去、「各地を放浪し 仕える主を探しております」が表していると思います。鎌倉時代に各地を放浪する武士とは何なのか。近いもので思いつくのは江戸時代の浪人です。Wiki(ごめん)で「浪人」を引くと
「武士が在地領主であった鎌倉時代・室町時代においては所領と職を失い浮浪する者たちを指した。この時代は浪人になっても各地で慢性的に小規模な戦乱が頻発し、大名は戦闘要員を必要としており、新たな主家を得る機会は少なくなかった。」
とあります。吹雪くんがこの鎌倉時代の浪人だとすると、彼は過去に(十二歳くらいだと良いなあ)所領(と職?)を失ったために各地を放浪していたということになります。所領を失って放浪する途中で飢えを経験したのかもしれません。もしくは、所領を失って飢えに苦しんだがために新たな主君を求めて放浪したのかもしれません。

 では、彼はなぜ所領=故郷を失ったのか。調べが足りていませんが、悪党に武力で奪われてしまったのではないかと思っています(理由は後述)。なぜ悪党に奪われたのか、それは彼の元の主君が弱かったからです。そのため彼は「強い主君」を探しています。勿論、蓄えた知識や磨いた腕を存分に発揮したいから、それをできるだけの大きな戦をするであろう強い主君という意味もあると思うのですが、強い主君は所領を力強く安堵してくれる、という面もあるのではないでしょうか。そして「強い主君」の最たるものは天下人です。吹雪くんは時行くんの天下人候補である所に、自分の腕を発揮できる可能性と共に領地を安堵してくれる可能性に惹かれたのかもしれません。

 もちろん、時行くんに惹かれた理由はそれだけでなく、北条の子であることを隠していたこと(これは惹かれたきっかけですが)、故郷と親を亡くした子どもを思いやる温かさ(私の妄想では吹雪くんもこの子どもたちのように故郷と親を亡くしています)も大きいとは思います。

 吹雪くんが過去に所領を悪党に奪われた、と思った理由は以下です。中山庄編で吹雪くんは「幼子だけの村をわざわざ守」っている、それはもしかしたら自分と同じ境遇に陥った幼子たちを土地とともに守りたかったという思いもあるのかもしれません。
 また彼は、二人の悪党に向かって「どちらから殺そうかな 今日は実に楽しい戦だ」と殺しを楽しんでさえいるかのような発言をしています。腐乱と戦った時も、興味が無くなった瞬間に相手の顔も見ずに殺しています。これは酷薄な性格と見ることもできますが、他のシーンの穏やかな彼と噛み合いません(戦を楽しんでいるように見えるのは、単純に兵法を発揮できる楽しさかと思います)。となると、彼は自分の故郷を奪った悪党への憎悪から放浪期に悪党狩りを繰り返し、悪党を人間というより虫けらのように感じるようになったのではないでしょうか。これはかなり自信がありませんが…。悪党の代表・楠木正成との邂逅が楽しみです。


 では、次なる吹雪くんの特徴・兵法剣術体術に精通している部分を見ていきます。〇〇流…などは全く分からないのですが、とにかく幅広い技を習得している吹雪くん。彼はどこで誰から習ったのでしょうか。これは腐乱の剣術に感心し吹雪くんが「技を教えた達人がいるはずだ 師の名は?」と問うていることから、その道の達人に教えを請うて回ったのではないかと考えます。主君を探して放浪する中で自身も強くあろうとした吹雪くんの姿が目に浮かびます。ただ、教えを請うための礼儀正しさや、学問と武芸の素地はさすがに幼い頃に仕込まれているでしょうし、そういった教育が可能な環境(武家・公家?)で育ったのかもしれません。
 後は別の可能性として、生まれは庶民だけれども飢餓や寒さから救ってくれた恩師がいて、その人から基本的な学問・武芸を学んだのかも知れません、これはこれで熱いけれども、あくまで別の可能性ということで。


 最後の吹雪くんの特徴・教え上手、幼子に弱い、隠れた価値を探し当てることで温かくなる、といった部分について。ここから吹雪くんには弟妹(及びそれに準ずる存在)がいて、彼はそのお世話係兼教育係だったと考えられます。探し当てることの意味は他にもある気がしますが…誰か教えてください。


 ここまで考えると、北国の弱小武家の子どもで、悪党に土地を奪われて放浪している、といった吹雪くん像が見えてきますが、ここで立ちはだかる壁がその服装です。
 恐らく、狩衣の前部分を垂らして袖を引き絞った服装だと思うのですが、狩衣は当時の武家の礼装、公家の普段着(ここ間違ってたら教えてください!)らしいので、常日頃狩衣を着用している吹雪くんは公家なのでは?と思ってしまいます。公家の子が、北国で土地を奪われて放浪するのか…ましてや武家の時行様に頭を垂れるのか…?

 ここで突然閃きました。というか話が飛躍します。北国の公家といえば、奥州藤原氏がいるじゃないですか!平安時代、奥州(ざっくり今の東北)全体を掌握して中尊寺金色堂に代表される平泉文化を作り出すも、平安末期に源義経を匿ったことで源頼朝に滅ぼされる奥州藤原氏。なんか正確には武家?らしいですが…まあきっと公家の服装や文化は継承していたりとか…ごにょごにょ。滅びたあとも子孫が奥州で細々と、しかし昔の誇りを忘れずに生きていたと妄想すると、とてもロマンを感じます。しかもこの妄想のいいところは、信濃勢にとっての木曽殿のように、吹雪くんが時行様に義経を感じるかもしれない、というところですね。


2.妄想の結果(ナレーション風)

 というわけで長々と吹雪くんの背景を妄想してきたものを、一度ナレーション風にまとめたいと思います。


 源頼朝に滅ぼされた奥州藤原氏、その子孫は全国に散らばったが、そのまま奥州で人知れず細々と暮らし続けた者もいた。彼らは寒い奥州の地で貧しい暮らしをしながらも、気高く礼儀をわきまえ、学問と武芸を怠らなかった。その一族の子として生まれた吹雪は、大切に厳しく育てられた。彼の日々の楽しみは学問や武芸を修めること、そしてたくさんの弟妹たちにその手ほどきをすることであった。まだ幼い弟妹たちは、それぞれが隠された才能をもっている。それを探し当て、引き出すことに吹雪はこの上ない喜びを感じていた。穏やかで教え上手な彼を弟妹もまた慕っていた。
 しかしそんな幸せな日々は長くは続かなかった。ある日悪党たちの襲撃に遭い、吹雪の一族はあっけなく壊滅する。両親も弟妹も皆殺され、命からがら逃げおおせた吹雪は奥州の厳しい冬に投げ出される。幾日も飢えと渇きに苦しみつつ当てどもなく歩いていく内に、激しい吹雪の中でとうとう意識を失う。自分の弱さ、そして自分たちを守れなかった主君の弱さを恨みながら…。
 吹雪が意識を取り戻すと、そこはもう吹き荒ぶ雪の中ではなく暖かい小屋の中だった。倒れた吹雪を助けたのは、二刀流の達人だという老人だった。それからしばらく、吹雪は老人宅で働きつつ二刀流を学ぶ日々を過ごした。老人は吹雪を我が子のように慈しみ、自分の主君に吹雪を引き合わせたが、吹雪はやや頼りない様子の主君に仕える気にならず、老人に礼を言い旅立った。
 吹雪はその後も各地を点々とし、学問や武芸に造詣の深い者に師事して己の腕前を上げていった。と同時に仕える主君を探していたが、吹雪が満足できるような、天下を治め領民の土地を安堵できるような器の主君に出会うことができず、放浪を続けた。もう冬は過ぎたはずなのに、酷く寒い。飢えに苦しんだ反動で泉のように湧いてくる食欲に任せていくら食べても、芯から温まることがない。
 時折、悪党共が村を襲う光景に出くわすと、吹雪は必ず悪党たちを皆殺しにした。自分の故郷を奪った悪党たちを、吹雪は最早同じ人間とは思えなかった。彼らを殺す度、仄暗い悦びが胸の中にくすぶった。
 ある日信濃を放浪していると、また村が襲われている。いつものように悪党たちを殲滅すると、年端もいかぬ幼子ばかりが残っていた。幼子が気になってどうも村を離れることができず、寄せてくる悪党どもを殲滅する内に、この村の隠された地理的な価値、そして幼子たちの隠された可能性を垣間見、久しぶりに心が温まってくるのを感じた。しかしそうしている内にまた斥候の気配。今度は子供のようだ…。


 はい、ここで逃若党と出会ってからは漫画の通りですね。
 あの、妄想の結果、吹雪くんは物凄い強さと器を持つ武士に出会ったらふら〜っと引き寄せられて裏切りそう、という結論に至ってしまいました。疑念払拭失敗。
 ここまでお読みいただいた方、本当にありがとうございました!


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