逃げ若22話『御仏1334』感想

今回、今までで一番好きかもしれないです。
瘴奸殿の回想と最期があまりにも良すぎました…。

私は回想を多用する漫画が苦手で(それまでの流れと関係なく入ってきてキャラの悲しい過去などで話を強制的に盛り上げるのが無粋に感じられる)、瘴奸殿には回想を入れずに散って欲しいとさえ先週は思っていました。しかし今週見事に手のひらクルーで賞賛させられてしまいました…くやしい…

前半の、吹雪vs腐乱もよかったです!素を出した腐乱は全てのセリフにドスが効いていてカッコよかったし、吹雪くんの底知れなさやX斬首の妖しい表情にもかなりグッときました。前半だけでも「今週の逃げ若は特に面白かったな〜!」と満足できる内容だったと思います。

しかし、瘴奸殿…まず真綿で絞められるようにじわじわと意識が薄れていくのも、少年漫画らしからぬ描写でサイコー!でした。
走馬灯が始まる時「なるほど、やっぱり回想きましたか」と上から目線で読んでいたのですが、いや、大枠は予想した通りだったんですよ。期待していた世界に裏切られて怒りと絶望で道を踏み外すという、王道ですね。私は元々仏僧かと思っていたのでそこは違いますが。でも1コマ1コマの説得力が想像の遥か上をいってしまって、圧倒的漫画力に叩き伏せられました。

まず若い頃の瘴奸殿は自分の領地を護る!そのために武芸と兵法を鍛える!という野心的で生真面目な青年だったのですね。その生きがいを取り上げられたやり場のない怒りが、当時は「余所のように」とよくあることだったというのが、なんともいえず哀しいです。

「居場所が欲しければ 奪うしかなかった」エモエモ台詞①松井明神、セリフと絵のキレというか重みがどんどん増してないですか??まるで映画のポスターのような美しい絵…周りの悪党たちがわさわさと動く中で瘴奸だけが止まって見えます、格好良い。前頁で綺麗に髷を整えていたのをざんぎり頭にして、全てを打ち捨てた感じがすごいです。

「そこから先は 闇だった」
エモエモ台詞②よくあるセリフですが、重みがすごい…!一度道を踏み外したら転落し続ける人生…奪う者(悪党)になり、追われる身となり、敗者になり…。ちょっとこのあたりで「どうしたら瘴奸殿は救われたのだろうか」と思い始めてしまいます。彼は運が悪かったのですよね。長男に生まれることができなかった、野心をもって育ってしまった、悪党になったのちいい縁に巡り会えなかった、そして時行と出会ってしまった…途中孤児を売り飛ばした金で美酒を飲むあたりは1ミリたりとも擁護できませんが、彼の転落自体は彼の非道の因果応報ではないように思います。瘴奸殿は時代の流れに呑まれて光を失ってしまったのです。

「そなたはいつも闇の中におられますなあ」楠木殿、そんな飄々とした笑顔で無責任に刺してこないでください…ここの瘴奸殿は放心してるのかな?一発逆転が叶わなかったんですもんね…闇の中であがいても無意味だったと思い知ってしまった。
「嘘をつくな楠木殿 光などどこにも無いではないか」ここの黒背景に白い線で描かれた入道はもう眠ってしまいたそう。誰か眠らせてあげて…。

からの、時行に仏を見出して拝みながら死んでいく構成は見事過ぎました。実際との乖離がひどい。心の奥底ではずっと救われたかったんですよね…せめて最期に心の拠り所を見つけられてよかったね…。その行いは許されはしないけどね…。
血の池の中に拝んだ体勢のまま倒れ込んだ瘴奸は、どこか柔和な笑みを浮かべて事切れていました。す、凄まじい…。それなのに全くグロさを感じさせないのは何故でしょうか?若の清涼感ですかね。

全体的に、転落する人のじわじわと追い詰められていく悲哀がおそろしく美しく描かれていて、またひょんなことから今際の際に心の拠り所を見つけて最期は笑顔で逝くというのが…良いですね〜
今書きながら気づいたのですが、ちょっとだけネウロの本城博士に似てなくもない気が…彼は自分を憎み死に場所を探す中ヤコと出会って、許されはしないけれど楽しい日々を思いがけず過ごせたので。

余談ですが、入道の顔の変遷が、実際若い頃こんな顔だろうな〜というリアルさで良きでした。ネウロ単行本13巻のおまけで、「若い頃を想像できるおばあちゃんにキュンとします」と書いてあったので、こういうのを想像するの好きなんだろなと思います。俄然、逃若党の成長した姿が楽しみになってきました…!

私の現在好きなシーンランキング
1位 22話 瘴奸殿の走馬灯〜最期
2位 1話 若が桜舞う鎌倉の街を眺めるシーン
ですね。

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