『逃げ上手の若君』94話 三浦時明•八郎兄弟について

※単行本10巻未収録情報です

 今週94話で登場した三浦八郎の兄・三浦時明。忠義に厚い弟の三浦八郎とは対照的に裏切り上等な人物として描かれ、八郎にも「義に欠ける」と非難されていました。しかしこの時代の彼の立場を知り、そこまで非難されるべき所業でもなさそうという気がしてきました。となるとむしろ例外的なのは弟の八郎の方ではないか?あとなんでそういう性格になったの?というお話です。



 まず、兄の時明が北条を裏切ったのは「義に欠ける」個人の性格もあるでしょうが、その前に彼は三浦氏の当主なので、一族の存続のために情勢を見極めた結果だったのだと思います。そして三浦氏全体も時明の考えを支持したために、北条への忠義を唱えた八郎が一族から追放されたのではないでしょうか。三浦氏としては「北条への恩<帝•足利につくメリット」という気分があったのかもしれません。

 一族がそういう気分にある中で、非嫡男(八男?)の八郎だけが特別北条から恩寵を受けるとは考えにくいので、八郎が北条への忠義に厚いのは、ひとえに八郎本人が忠義自体を重んじる性格だからなのだと思います。

 それは最新94話の「すぐ人を裏切ります」という八郎の時明評からも分かります。「すぐ裏切る」という言い方は、時明は1333年に北条を裏切る以前にも複数回他人を裏切ったことがあり、八郎がそれを苦々しく思っていたことを示します。

 八郎は「忠節を重んじる」という信条を個人的に大切にし、一族とぶつかっても決して曲げない、中世人としては異例の個人の強さを持っているのかもしれません。そしてその個人的な思いが一族の存続よりも大切なのだとすれば、少し弟としての甘さを感じます。
個人として忠義を大切にしたというより、一族の汚名をそそぐための方法が彼にとっては忠義だったんですね。弟としての甘さというよりは、彼なりに一族のことを考えた結果だった。(2023/1/30 95話を受けて追記)



 それでは何故、時明は義理に欠け、八郎は忠義を重んじる、兄弟で正反対の性格になったのでしょうか。個人の資質もあるでしょうが、(次期)当主の時明はやはり家の存続のために、武士の体面よりもまず情勢を見極めることの大切さを教え込まれた故かもしれません。(これ以降は95話を見るにおそらく違う、また実際どうだったかを考えると極めて妄想寄りになってしまうため、この先は語らないことといたします。2022.2.3追記)そして弟の八郎はそんな兄を反面教師にして育ったために、逆の忠義を重んじる性格になったのかもしれません。

 兄を反面教師にして育つ、それは兄に対し憧れではなく反発心をもっていた結果だと思います。そして少し妄想が入りますが、反発心は喧嘩や立場で兄に敵わずいじめられていたために培ったのかも、と思うと、八郎のもつ忠義の心は兄に敵わなかった幼少期のコンプレックスが産んだ自分の正当性を保つための心の柱だったからこそ、一族とぶつかっても決して曲げることができなかったんじゃないかなあ、と思いました。こじらせていてすごく好きです。

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