興隆は陽と共に酔狂に沈む

ー手記ー

「………ありえない………」

上級将校は頭を抱え、高級官僚達もまた、飽くなき会議に忙しなく性根を詰め果てている。ここはグラスゴー、近頃は海を隔てた頭までが海洋に流されたのか潰瘍に悩まされいるのか民族自決などという愚昧な主義を掲げる某国のせいで民族運動が多発している地域でもある。本当になぜこんな所に政府首脳陣を集めたのか……あぁ、そうだったな、そうだったよなぁ!

私の思考を阻害したのは飛び出した一人の官僚、ロイドジョージという者の発したその言葉はそれまで与党への批判と、紛糾と、喧騒に包まれていた議会を一瞬にして鎮めた。

そう、ありえない。その言葉の真意を誰も探る事なく、しかし忠実にその言葉を誰もが受け止めたのだ。この沈黙はそれに対する肯定でもあり、そして…享受しなければならない現実に対するやるせなさであった。

「皇帝攻勢」俗にカイザー攻勢とも言われるドイツ軍の攻勢は包囲殲滅に拘泥するきらいがあり、それを予見できた人物も仏英共にいた、そして押し留めた、筈だった。

……我らにとって不幸だったのは、予見「出来てしまった」ことだったのだ。

彼らの攻勢は事実行われた、だがそれは予見していた陸路、特にマルヌでの攻勢ではなく、ヴェルダンでもなく、かと言って突起部の解消をするための消極的攻勢でも無かった。

我々は目算を大幅に誤ったのだ、忘れたのか、小規模の艦隊に良いようにされたゲーベンでの事を______

今回もそうだった、小規模の艦隊だったのだ、そこに弩級戦艦も巡洋艦も、勿論黎明期を迎えた空母も無かった、無制限潜水艦作戦すら実質封じられた独国海軍がただの惰性で放った船だった。

そこに驕りがあったのは認めよう、そこに慢心があったのも認めよう、その時私はそんなとき議会に出ずっぱりの人間を嘲笑うかのように仲間達と酒場に入り浸っていた事もこの際だから認めてやろう。

だが、かつて7つの海を支配していた大英帝国が高々、数十年前にようやく独立したての、血と鉄仕立ての、小国和えみたいなおフランス料理らしいような国に我が土地への上陸を許した事は……どうした事だろう、こんなに寛容な私でも許容する事ができないのだ。

ロンドンに掲げられた三色旗は、我々の信じる産業による興隆と黒煙を(黒)植民地からの搾取によって生まれたアフリカにとっては空白の数百年間を(白)そして我々の求めた陽を(赤)。全てを以って且つそれを越していく様に映って仕方ないのだ。

ー手記ー 完

……ふむ、存外イギリス人は腰抜けで腑抜けの集まりだな。我々ドイツ人の分析とはえらい違いだ……あぁ、その本は適当な所にやってくれ。とりあえずイギリスを下し、会議にまで持ち込めたのだ。戦勝ムードを壊す気もしないしな。

そう言って歴戦の将校はその場を後にした。イギリスでの戦闘は彼による功績も多い。その事を彼の助手たる、聡明な「ジーク」は当然知っている。だからこそ、彼の残した突飛もない言葉が頭から離れない……

〜我らの帝国主義は必ず破綻する、それは数百年も掛からない。持って、20年といった所か〜

byゼークト

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