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「……しりとりでもする?」
「話すことないじゃん、無理するなよ」
「こういう時はどうするべきかな」
「貴重な十分を己のために使いなさい」
「この十分で駅まで走って電車に乗ってしまいたい」
「己のためではあるだろうけどお前のためにはならなさそう」
「俺さ、一回追われたいんだよね」
「恋愛の話?」
「違います。突然姿を消して『おい! あいつどこいった!』みたいな」
「あー、それでみんなを見えるところでニヤニヤしてたいと」
「それもあり。何らかの理由で本気で逃げ続けるのもあり」
「なんなのその逃亡欲」
「逃げた先で自分がどれだけガチで追われてるのかを知って諦めがちらつくが、でもそこで諦めたらこれまでの暴挙が無駄になる、と改めて覚悟を決める俺な」
「よほど具体的に練ってないとそこまでスルスル出ないですけど」
「出るってことはそういうことだなぁ」
「俺そしたらお前の部屋すっごい荒らすね」
「追ってよ」
「追われるよりお前勝手にルーツ探られてありもしないこと言いふらされる方がいやだろ」
「お前は本当に、頭が回るタイプのいやなやつ!」
「へへ、よせやい」
「褒めてねぇ、褒めてねぇんだよ」
「まぁそれはよしとして、恋愛じゃ追いたいタイプでしょ? お前」
「うーんどうなんだろ。あれよ、彼女できたことないからわからんな」
「ほへー、ある日急にお前のこと追い回す後輩とか生えてきたら面白いな」
「あっ物理的にも追われる感じ?」
「そいつから雲隠れするためにお前の逃亡劇が始まるんだよ」
「もしそれが本当に起こったとして、それがわかってもなおお前は俺の部屋を荒らすのか?」
「荒らすね」
「荒らすよな……」

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