【RagnarokOnline】ミョルニル裁判

・要約

ROやってた方に向けて3行で説明すると
・共同購入したミョルニルを間違ってNPC売りした
・その所有権を巡って裁判を起こした
・その後は知らない

・はじめに

これは2011年に実際に行われた「MMOのアイテム所有権を巡った民事訴訟」のお話である。自分はこの訴訟内容に数mm程度しか関わっていないが幸いにあらましをある程度覚えていて裁判自体も傍聴出来たためその顛末を書き記しておく。
なお時が経った上に当時の関係者から話をしっかり聞く時間がないため所々整合性が取れない場面がある。話半分に聞いてもらいたい。
あと11年前の話なので出てくるデータも今のデータとは全然違う。昔の詳細データを思い出せないし調べても中々出てこないので違ったらすいません。

・神器とは

RagnarokOnline(以下RO)という一時期日本で一番流行ったMMOにおける超強い(一部)武具のこと。まず素材の段階の段階で入手が面倒。1週間のうち日曜日20-22時でしかプレイ出来ないGuild同盟間の砦の取り合い(以下GvG)で防衛した砦の宝箱(1日毎にPop)から確率で入手できる。それを数十個集めて作る。そのため個人所有になることは少なく、ギルドor同盟で共同管理することが多い。
神器自体は4つあり、うち2つは正直微妙のため素材自体は入手しやすい。この2つは神器自体よりも神器解放に伴う武器解放クエ(当時の人間には錐クエの方が通りがいいかも)のためにむしろ積極的に素材を売る人たちがいた。
残りの2つのうち、メギンギョルドは手に入れただけで無双出来るレベルのアクセサリーである。当時STR120や130の時代にSTR+40とかいう頭おかしい補正が入る。当時の攻撃力はSTR依存ではあるが線形ではなく二次関数的に攻撃力が上がるため、持ってるだけでPvE、PvP、GvG全てで無視できない存在としてマークされる。そのため複数の同盟では素材を集めるだけでなく他の同盟に素材を渡さない駆け引きが重要となっていた。買い取りチャットを出している商人はまずサブの捨てキャラである。
おまけにアクセサリーは2つ持てるためダブルメギンになるともう手に負えない。何故か鯖に1人いたけど。


最後の1つの神器。ミョルニル。今回はこれについての話をする。

・ミョルニルとは

ミョルニルはDEXがめっちゃ上がる「鈍器」である。DEXは命中率に係わる他弓の攻撃力が上がるステータスである。当たり前だが鈍器を装備している時点で弓は装備できないしそもそも弓手は鈍器を装備できない。素の攻撃力自体は高いがROは素の攻撃力に武器に刺したカードの効果の乗算が加わることで効果が発揮する。ミョルニルのカードスロットは無い。つまり普通に使う分にはただのクソ重たいだけの無用の長物である。

・製造職の話

ここでもう1つROには製造というシステムがある。武器を製造出来るブラックスミス、ないしそこから派生するホワイトスミス(以下BS、WS)とポーションを製造できるアルケミスト、そこから派生するクリエイター(以下ケミ、クリエ)である。製造とは言うがFF14でいうギャザクラと違い戦闘職だるため、敵を倒してレベルを上げる。
この製造職は攻撃力に係わるステータスはSTRであるが、製造確率に係わるステータスはDEXとLUKである。つまり製造確率を高くしたければその2つを上げる必要があるがその分レベルを上げにくいというMMO黎明期の取捨選択を見極めながらステを上げる必要がある。DEXとLUKだけを上げた「純製造」と呼ばれるタイプは戦闘ではPTを組んで経験値を吸うだけのお荷物だが、出来上がったときの製造確率はかなり高い。高いが100%ではない。素のステと一般的な装備ではそこまで成功率は高くないのである。
ここにミョルニルが加わると話が違う。一気に確率が上がる。つまり製造職垂涎の逸品なのだ。
加えて製造職にはランカーシステムがあり、詳しいシステムは忘れたが鯖上位10人までのWSないしクリエの名を関した武器、ポーションは効果が上がる仕様がある。特にポーションは回復量が1.5倍になり、回復対重量効率が通常使うものではほぼ最高になる。当然GvGでも猛威を振るうため、同盟では1人ランカークリエを抱えるのが日常であった。ランカー武器自体はぶっちゃけどうでもいい(ライト層には恩恵があるだけ)

Q.長いから1行で。
A.同盟に1個は欲しい武器

・あらまし

んで自分が加入していた同盟「/breakguild(/b)」はギルドマスターLINK-II(仮)のサブアカウントがランカークリエだった。んでミョルニルが欲しかったわけだが当然他のギルドから素材が中々回ってこない。
そこで目をつけたのがあるギルドである。このギルド自体は別のギルドと同盟を組んでGvGをやっていたが、このギルドに1人当時ぶっちぎり1位のランカーだったWSが所属していた。そのギルドのギルマス「D(仮)」と「素材をお互いに持ち寄って共同所有しませんか」となった。(これもどちらから持ちかけたか俺は知らない)
ここで大事なのはあくまで話し合いをしたのはランカーWSではなくギルマスである。神器素材は基本ギルドの所有物であるためWS自体は素材を所持していない。
んでミョルニル自体は出来上がり、共同で貸し借りしつつ製造していた。だがある日LINK-IIからDに受け渡し、そこからランカーWSに渡ったあと少ししてWSが「間違ってNPC売りしてしまった」と言ってきた。Dは謝罪した。

当然信じられる話ではない。おそらく借りパクだろう、と/bの面々は思った。スクショを出せ、と言ってスクショをもらったが当然売ったことの証明は難しい。売却ログに売却した物の名前は出ない(か売却ログ自体が出なかったはず)
間違って売ったなら神器素材換算で弁償をして欲しいと言ったがこちらも失って痛いためそれは出来ない、と言われた。当然こちらは怒ったが、どうやったって戻ってこないためその場はそのまま終わった。

・信頼できない運営

神器を売ったことを運営に伝えてロールバックすればいいのでは?と思った貴方はとても鋭い。でもそんな個別対応をしてもらえるような運営ではなかった。とにかく当時のガンホーはひどかった(今もひどいって言われたらそこはノーコメで)。Botは放置してインフレがひどく、特にGvでは鯖が重い。おまけに鯖によってはGvを行う鯖が他より少ないため余計に重かったとか、とにかくいろいろひどかった。
「せめて売ったかどうかを確認すればよかったのでは?」とお思いの方も鋭い。だが、今でもそうであるがこれはユーザ間の信頼の問題であり運営が係わるところではない。

Q.長いので1行で
A.「せっかく作った神器がパクられたので俺たちがなんとかしよう」

・そしてリアル裁判へ

そしてLINK-IIは所有権と所在を巡ってリアルで民事訴訟を起こした。当たり前だが弁護士を雇う必要があるが、当時そういうIT部門に強いと言われていた弁護士に依頼したらしい。費用もだいぶかかったはずなのだが、LINK-IIは「面白そうじゃん」と言って全部自分の懐から出した。あの人を知ってる俺からすると、この「面白そうじゃん」は当時の同盟を背負って立ち責任感で裁判を起こしたことへの照れ隠しではなく、マジで面白そうなので裁判を起こしたんだと思う。

民事訴訟を起こすには相手の名前だけでなく住所等々色々な個人情報が必要なのだが、それをどうやって手に入れたかは俺は覚えてないので割愛する。なんかすごかったらしく酒の席で笑いながら話せるけど表に出していいか怪しい内容だったのは覚えてる。

・一騎当千、天下無双の神器

んで2011年の10月だか11月の横浜地裁でその民事裁判は行われた。MMOの物品であることは珍しいがそれ以外はそこまで目新しいものでもない。NPC売りしたこと自体はガンホーしか分からないため、その後の弁償の話が中心である。原告側はミョルニルがどれだけ貴重か、被告側はMMOというゲームのデータは再入手が可能であるため、ミョルニルがどれだけ貴重ではないか、を主張し合うわけである。

んで向こうのギルドマスターDが裁判官から質問を受ける
「その神器というのはどれだけのものなのか」
D「はい、神器とはそれを持つものが目覚ましい活躍が出来る、一騎当千、まさに天下無双と呼べるものであります」
めっちゃ堂々と貴重なもんだと説明するD氏。後ろで膨張していた/bのメンバー(という名のただの野次馬)、思わず口を塞いで皆下を向いて震える。俺はもう我慢できなかった。他のことはあまり思い出せないがあまりにも堂々と説明したD氏の言葉だけは印象に残っている。

・その後

判決を聞く前に自分は引っ越して疎遠になったためその後の判決とかは詳細を知らない。ただ裁判自体は負けて控訴しなかった、とだけは聞いた。LINK-II氏も納得していたのでそれでいいんだろうと思う。自分はこの裁判の1年半前からROを休止しており、GvGも新しい砦が増えたとか、この少し後にR化があったりとか、あとガンホーの運営がめちゃめちゃよくなった(当時に比べて)とか、なんか色々あった波の中の些細な出来事である。

その裁判の傍聴メンバーは今でも仲がよく昨日は当時のメンツの半分が集まって忘年会やってたそうな。皆もうROはやってないけど仲がよくて、当時のことは楽しい思い出としてそこそこ話題に上がったりしている。

・まとめ

当時の杜撰な運営と悪いことする人たちとゲームに熱中した狂人たちの間で行われた些細な出来事である。当時の判例が今に生きたという話も聞かないため多分幻か何かだったんじゃないかな。
とりあえず何か所有物を共有するときは信頼できる人とやりましょう。という当たり前の話である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?