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Review#1:Walking Down the Magic Way (Helder Guimarães)

ポルトガルのマジシャン、Helder Guimarães。FISM 2006のカード部門1位で世界に鮮烈なデビューを飾ったマジシャン。
そんな彼がTamarizの著書”The Magic Way”について執筆したエッセイです。元々はQuarterlyという季刊雑誌に掲載されていたとのこと。こちらのエッセイはHelderのwebサイトにて、無料公開されています。

これを紹介してレビューする、という時点で難しいものを選んだ、ということは自覚しています。トリックの解説はなく、理論的なエッセイですし。実際、ここに書かれていることを100%理解しているか、と尋ねられると自信を持ってyesと言えないところがあります。ただ、無料なので、意欲ある方はぜひ本人のサイトからダウンロードし、読んでみてほしいものだったので、紹介することにしました。

https://www.secretlanguage.com/

The Magic Wayをまず読む必要あり

但し、万人に勧められない理由があります。というのも、大前提として、Magic Wayを通読している必要があるからです。私はかろうじて再販直後にThe Magic Way(英語版)を通読していたので、TamarizのMagic Wayの概念やFalse Solutionについて、なんとなくの概要を理解していたつもりだったのですが、今回のHelderのエッセイを読んで、「あ、そういえばこういうこと言ってたな」と思い出さされたのも事実。脳みそガバガバです。ですが間違いなく、先にThe Magic Wayを読んだ方がいいです。

さて、このエッセイはPart1とPart2に分かれて掲載されています。

Part1ではThe Magic Wayをcriticalに読んでいきます。Tamariz の書籍内での表現に対するHelder流の提案を交えながら、マジックの構成やRealistic Magicについて主に議論されます。そのうちの一つに「Magic WayとThe Method of False Solutionsは別物」というHelderの主張があります。本の書き方的に両者がごっちゃになっているように感じられるものの、厳密には別物だからそれは理解しようね、という主張です。いかんせん、Magic Wayの本がThe Method of False Solutionに相当なページを割いていることもあり、確かにそこの関係性は曖昧な理解になってしまうこともありそうです。観客に(Magic Rainbowにつながる)Magic Wayを進んでもらうためのひとつの策略がThe Method of False Solutionなんですよね。

いずれにせよ、まずはとにかく”The Magic Way”を読んでいただくのが良いと思います。特に地図的な画像と、マジシャンのレベル別コインバニッシュの描写のところがとてもイメージが掴みやすいところですね。

Part2は、Part1の議論の中で出てきたいくつかの質問を解消していく内容です。

・観客が考えうるすべての解決策が、マジシャンによって間違っていると証明できるのか?
・マジシャンが何もしていない、あるいは少なくとも何もしてないように見えれば見えるほど、マジックを強く感じられるというのは本当か?
・不可能性による衝撃は、すぐに現実と理性によって克服されてしまう。観客が目の当たりにしたことの解決策を探そうとするのを止めるにはどうしたらいいのだろう?

"Walking down the Magic Way"より粗訳して抜粋

といった問いに、ヘルダーが答えていきます。

特にPart.2を読んだ後、Helderのトリックを思い出してみると、彼の思想が強く反映されている作品が多い、ということに気付かされました。例えば、デックやパケットに「触れていない」という印象を作り出す(あるいは本当にほとんど触れていない)ものが確かに多い。Tamarizはもっと露骨に「触れてないよね!」「手を押さえててくれ!」的なコミュニケーションとってるのも思い出しましたね。

ではこれを読んで、どう自分の血肉とするのか?

私は自分の演じるトリックをブラッシュアップする際の一つの指標とすることができる、と考えました。例えば、既存トリックの改案であれば、本当にそれは観客の心理的な部分も含めて考えられた構成、流れになっているのか?というようなことです。Part.2の中に、The Signed Cardのカードインボックスの現象についての記載があります。昨今、透明なボックスで最初から折り畳まれたカードが入っているマジックがありますが、それについても言及があります。ここで内容を書いてしまうのは野暮なので書きませんが、私はHelderの考えに非常に同意しました。

定期的に読み直したい、良質なエッセイでした。その前にThe Magic Wayの復習やAscanioをしっかり読まないとな、と感じている昨今です。

FYI:Helder Guimarãesの作品集

せっかくなので、彼がこれまで出した商品、作品で手に入れやすそうなものを箇条書きで。手に入れにくいものはオークション等ですかね…。書店でHelderの本売ってる不思議の国ニッポン。

  • Small Miracles (DVD):2008年発売。スクリプトマヌーヴァ(SM)から日本語字幕版あり

  • Red Mirror (DVD):2010年発売。元はDan&Daveより。SMより日本語字幕版あり

  • Reflections(本):2011発売。東京堂出版より日本語版あり(2014発売)

  • Secret Language vol.1:2019発売。鈍器。(私はまだ読み途中)

  • Inside Story : 2023.1発売開始!

この中でどれかひとつ、と言われたら、取っつきやすさや手に入れやすさを考慮すると、Red Mirrorでしょうか。

Ontology Project等、諸々他にも発表されたものはありますが、そこらへんはもう相当手に入れにくいですね…。


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