また始まった妄想NSX

ついにNSXを手に入れたサンシュこと私。
ミニカーなどではない。本物のNSXだ。
リトラクタブルライトの、型式はNA-1型。
V型6気筒デュアルオーバーヘッドカムクランク、
自然吸気可変バルブタイミング機構VTECを備えた
高速域で非常に優位なパフォーマンスを見せる
C30型エンジンを座席と後輪の間にマウントさせた
本格的なスポーツカーだ。

はっはっはっは!!
書いてて笑った。
興味のない人にこのようなことを書いても
「ふーん」で終わり。
逆に私に負けないぐらいNSXが好きな人が読んだら
「サンチェはNSXのこと分かってないよ!あんた最低!」と
怒られるかもしれない。

だがしかし、今日から私はいつもNSXと一緒だ。
アパートの下の野ざらし月極駐車場には、
ベルリナブラックのNSX。
ホイールはもちろん初期型純正の
前輪15インチ、後輪16インチの異形純正アルミイール。
これ以外はあり得ない。
「15インチじゃ今時、走らないよバーカ」と言ってる奴らを
これから叩きのめせるからね。
所詮、インチアップなどと
商品価値を高めるだけの逸話の域を出ないということを
この純正15インチアルミが最新型スポーツカーの思想に対する
無言の抗議をしているかのように感じずにはいられない。
「スポーツカーにとって、大切なことはなんだ?」
きちんと答えられる人はこの惑星に3人しかいないのでは、なかろうか。
それは順不動ながら
エンツォ・フェラーリ氏はもちろんのこと、
フェルディナンド・ポルシェ博士、
そして本田宗一郎氏なのではなかろうか。
すべて自動車史に残る偉大な人物だ。

我が国においては、戦後、国の、街の普及が急がれてきた。
人や物を運ぶクルマこそが評価される存在であり、
クルマなのだから人や物が運べるのは当たり前だという文化だった。
だから、スポーツカーというものがなかったわけだ。

スポーツカーというのは、
小学校の校庭のように同じ場所をグルグルと周回し、
その1週回り終わった時のタイムを各車競って
順位をつけるというもの。
どうだ、くだらないだろ?
うん、くだらない。
そんなことに大切な燃料を使って、
貴様は非国民なのか?と言ったところだ。

歴史をたどれば、お金持ちの道楽だったのだ。
そして手持ちの計測器で何分何秒で走ったか、
自分で計測することが非常に楽しかったそうだ。
だからこそ、ロレックスという腕時計の
デイトナという種類は、非常に人気だったらしいのだ。
デイトナでフェラーリの周回タイムを計測する。
貴族の遊びである。

かたや日本の歴史にほんの少し触れてみれば、
遊びの車なんて、とんでもない!不良だ!
といった風潮だ。
日産がスポーツカーをつくりたいと胸に秘めた時も
遊園地に納品する気か?と気違いだと思われたというのだから
スポーツカーが作りづらい国であったのは確かだ。
そんな中、S30型フェアレディZが初めて登場し、
市場に受け入れられたというのだから、
「もはや戦後ではない」という新しい時代の夜明けだったんだと
当時、生まれてもいないサンシュこと私はそう思う。

私が生まれたとき、赤いトミカがセリカダブルエックスだった。
子供ながら女の子の色だし、小さくてなんかイヤだなと思った。
Z31型フェアレディZもパラレルライジングヘッドライトが
好みではなく、トミカのフェアレディZもあまり好きではなかった。

小学生にあがると、真っ白くて大きなスポーツカーが
職員駐車場にとまっていた。
トヨタA70型スープラだ。おろしたての新車でピッカピカ。
小学校の先生のクルマだ。
自分が持ってるチンチロリンのトミカよりずっと立派で
格好良かったわけだ。
トミカで当時、スープラは売っていなかった。
トミカに存在しないので余計に僕の中で特別な存在になってしまった。
大人になったらスープラが欲しいとそう思ったのだ。

さて、トミカのスポーツカーを取りそろえ、
小学1年生の子供が「スープラ」という車名を知っているわけだが、
もちろん全部、父から与えてもらったものだ。
そもそも父がクルマ好きでスポーツカー好き。
我も少なからず影響を受け、クルマ好きというわけ。

そしてある日、ホンダ・ベルノ店に連れて行ってもらった。
黒い新しいスポーツカーが店の中に飾ってあった。
弟と一緒に父に連れてきてもらったのだ。
「おまえたち、触るんじゃないぞ?」と注意をされた。
ものすごい高級なスポーツカーだそうだ。
それはボディは全部黒く塗られていて、イスも黒。
このクルマは、エヌエクエッススという。

あとになってわかったが、
エヌエクエッススはホンダ技研が誇るスーパースポーツカーだ。
幸運にも初期ロッドのオーナーになれた人が近所にいるらしい。
あとになってわかったが、
エヌエクエッススではなく、エヌエスエックスだ。
あとになってわかったが、
このベルリナブラック。
我(われ)が中学生になって発見したあの民家のNSXなんじゃないの?

そして今、ステアリングを握っているこのベルリナブラック。
生涯わかることはないかもしれないが、
あの民家のNSXの人が高齢で免許を返納することになり、
手放したNSXそのものなのではなかろうか。
だって、こんなになつかしい。

思いを込めてエンジンスタートの位置までキーをまわす。
トゥォ、フォッ、フォッ、フォ、スボォォオオオンンコココココココココ
なんてこった、NSXの、C30型が目を覚ました!
はじまるんだ。
これから。
なにもかも。
134,859km走ってきたらしい。
でも、私とはこれから。
早速、100kmぐらいはご一緒させてもらおうか。
ルゴォオオオン!!ルゴォオオオオン!!!
ちょっと吹かすともうヤバい。ヤバすぎる。
私の、脳が溶け出してきた。
よく形容されよう。「脳が溶ける」と。
いったい、脳が溶けとるとは、どういう状況なのか。
これからスピード違反で捕まろうが、
多額な借金を背負うことになろうが、
そんなことはどうでもいい、
それよりスピードを俺にくれ、俺に非日常的な感動を与えろ、
そういう状況なのだろう。
しかし、非常に強力な理性により、脳は少し溶けるだけで済んだ。
つまり交通ルールは守ろう、借金はよくない、というところだ。
テチンッ、パーキングブレーキレバーを解除した。
スボォォオオオオオオオオ、ォォオオオオオオ!!!!!
非常に低く重低音の聞いた重厚なエキゾーストノートが私の
右耳と左耳、それ以外の穴、穴という穴から音が、NSXの、
C30A型のサウンドが入ってくる、入ってくる!!!

どこから、可変バルブタイミング機構が仕事を始める?
そんな質問は、この東名高速で好きなだけ回答を得られよう。
ォオオオオオオオオ、ヴャォオオオオオオオ!ヴャァアアアアア!!!
こ、これは前の所有者がスーパーチャージャーでも取り付けたのか?
それとも、ツインターボに改造したのか?
は、速い!!速すぎる!!!
これが今から30年前のスーパースポーツカーの実力なのか?
夜も深い24:50。
この夜、この夜空、この夜景を、この私を、
私のベルリナブラックが力強く吸い込んでいく。

NSXよ、この暗闇を切り割いて、この時代をしなやかに走り抜け、
30年という歳月を乗り越え、新しい時代を、新しい未来を、
そのリトラクタブルヘッドライトで照らし続け、走り続けてきた。
あと1回。あと1回だ。

あと1回ぐらい、まだやれるよねNSX?
そうさ、最新型スポーツカーでは太刀打ちできない
この深み、この厚み、この輝きを胸に
愛し愛され続けてほしい

はい、妄想おしまい!
読んでくれたあざーっす













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