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ラノベ#2

    
    【魔王様は倒されたい 第二話】



昼前の強い日差しが会社の窓から入ってくる中、デスクに座った私はピクリとも動かず、生気ゼロの表情の口元が何の感情も無いように勝手に開き、これまたオートでため息が出る。


かれこれ2時間はこんな調子だが、誰もそれを咎めようとはしない。


何故なら、そもそも仕事が無いのである。
前述した様に凄いスペックのマイクロチップを埋め込み管理している時代。
パソコンの能力も昔とは段違いのスペックを誇っており、税務署の事務作業は全てスーパーコンピュータが行うので、我々人間のする仕事は、そのスーパーコンピュータが起こすはずの無い[エラー]をチェックしたり、データをUSBにコピーする程度。

ほぼ無駄な人員だと誰が見ても思う。

しかし、この時代、こういう仕事に金を割かないと会社員相手にしている飲食店などが潰れてしまう為、国が立てている対策である。
公務員のほとんどはほぼ無意味な時間を机に座って過ごす。

波平さんの机より何も置かれていない机。

そんな殺風景な光景を座って過ごし金をもらう地獄の様な日々の唯一の楽しみ、、、

それが『ドリームキャスト』(通称・ドリキャス)のゲーム内での、自由に地をかけ空を飛びモンスターと戦う冒険だった訳だが、そんな私の楽しみも昨夜、奪われてしまったのだ。

私は昨日見た悪夢の続きを思い出していた。




           ❇︎





   『ようこそ。世界一、暇な職場へ』

赤い髪の少女の見た目をした魔王軍の頭領が優しく言い放つと私は、鉄を易々と切り裂けそうな長く黒い爪を携えたその両手で頭を抱え、牙を剥き出しにして叫んだ。

「いやいや!急に魔王になれなんて無理だって!」

その言葉とは裏腹に私の姿はすっかり魔王だ。

その体は人間の1.5倍ほどの大きさで全体的に青白く裸の上半身にはタトゥーの様な謎の紋様が刻まれており、両肩にはそれぞれ一本の太いツノが天に向かって突き出している。
私はあまりの事に膝から崩れ落ちたが、獣の様な黒い毛で覆われた筋肉質なその足が衝撃で床にヒビを走らせた。
半泣きのその目も血の様に赤い。
先程まで戦っていた竜の姿は最終形態で本来なら物凄く追い詰められた時になる姿の様だ。


「次の勇者に倒されるまでこのままって、一体何して過ごせばいいんだよ!?勇者が現れなかったら一生このままなのか!?なぁ、今からでも元に戻してくれよ!!」


赤髪の女の子の両肩を掴み揺らしながら泣きつく魔王。

『彼女を困らせないで下さい。一応、彼女も我々運営側の人間ですが、あくまでもサポートの為に雇われているアルバイトなんでね。ここからは私が彼女に変わり説明しましょう』

カンに触る嫌に高い声が部屋に響き渡る。

「誰だ!?」
声の主を探す。

すると、その声の主は頭領の女の子が着ているローブのフード部分から飛び出した。

『この度は魔王の討伐、そして魔王の就任おめでとうございます』

そう言いながらそいつは私の周りをぐるっと飛んで回ってみせた。

色は紫。テニスボール程度の大きさに真ん中に大きな目玉が一つ。体より大きなコウモリの様な羽をパタパタさせて飛んでいる。

(「誰だ!?」)その疑問を口にする前に私は思わず叫んだ。


「お前、なんか幽遊白書の序盤に出て来たヤツにそっくりやな!!」



名前は分からない。

確か、朱雀のアジトの最初の関門で落ちてくる天井のレバー付近に居たヤツだ!



そんで飛影を唆したヤツだ!



そんで飛影に切られたヤツだ。


あ、CMからあける時に浦飯が霊丸で撃ち落とすヤツか!!あれ、一緒なんかな!?

「あれ、昔から思っててんけど霊丸は1日5発までやのに、CM明けるだけで4発も使ってしもとるよな。CM明け残弾1発やん」


『、、、、、、??えと、どういう??』

あまり、その目玉にはピンと来なかった様だ。
まぁ、仕方ない。

今から半世紀以上昔の漫画で、私もギネスブックで見た【人類史上最も休載してたのをチャラにするくらいの最終巻で全ての伏線を回収し広げた風呂敷を上手く畳んだ作品の作者】で気になって、そこからハンターハンターと言う名前の漫画でハマって他の漫画も全て読んだだけで知らなくても不思議では無い。


「おい!?お前は誰だ!?元の姿に戻せ!!」

目玉はまたカンに触る声で返す
『まずは初めまして。私はこのゲームの開発責任者の1人です。名前は、、、、そうですねぇ、ま、ここは便宜上、レバ刺し☆大革命とでもお呼び下さい』

「いや、ほかに無かったんか」

『元の姿に戻して欲しい、、との事でしたが、それは出来かねます』

「本名言いたく無いってのは分かるけど、なんでそんな名前やねん」

『魔王の存在はゲームには欠かせないのです』

「便宜上、呼ぶ名前がレバ刺し☆大革命てどーいうつもりやねん」

『あなたの毎日のログイン時間は、、ふむふむ。23時から翌朝6時までですか。変更。と』

名前が気になってずっと小言を言っている私を無視してレバ刺し☆大革命は触手の様なもので空間に浮かぶキーボードを操作した。

     “パンパカパーン!!”

と言うラッパ音と共にウィンドウが出て来る

《おめでとうございます!!この度、勇者 マサタカ様が見事、魔王を討伐致しました!! 世界に平和が訪れました!!これを記念して全てのお店が10パーセントオフでお買い物出来ます》

これは、3年前【† 死黒聖天†】さんが魔王を倒した時も見た覚えのあるウィンドウだ!

『今、同じメッセージが全プレイヤーに届いています』

《しかし、また魔王は必ず復活します
プレイヤーの皆さん!魔王への挑戦、お待ちしております  

※運営からのお知らせ
明日以降の魔王への挑戦可能時間が23時から翌朝6時までと変更になります》

『これでよし、と。魔王城に行くことの出来る時間もあなたの毎日ログインしてる時間に変更しておきましたから』

今日までは明け方5時から昼12時の間の7時間のみだったが、そうか!なんで変な時間しか挑戦出来ないんだと思っていたが、ソレは【† 死黒聖天†】さんのログイン時間の都合だったのか。。。その時間寝るとなると、、仕事何してはる人???

『じゃ、明日23時からお願いしますね〜』

「いやいや、バイトのシフトみたいに言ってくれるけど、誰がやるって言ったよ?だいたい、こんなのログインしなきゃ良いだけの話だ!眠る時はこのゲーム以外にも動画見たりするコンテンツも色々あるんだし」

  『あぁ、ソレ、無理ですよ。強制です』

         「え?」

『魔王が居ないとゲームが成り立たないでしょ?なので、常に居てもらいます。 
あなたのマイクロチップに23時から6時はログインする設定しておきましたから。』

サラッと凄い酷な事を無感情な早口で続ける。

『23時以降は例え入浴中でもトイレ中でも外食してても、マイクロチップから出るホルモンで強制的に眠りについて貰います。
あ、23時近くのドライブはやめて下さいね。ドライブ中の強制睡眠であなたに死なれたら困るので。』

「そんな!私にだってプライベートが!!」

『あなた、さっき《バイトのシフトみたいに》って例えてましたけど、違うんですよ。
今までがバイトだった。
そして今からは正社員になったのです。
都合に合わせてシフトは出せません。
365日、毎日絶対に決められた時間に出勤して下さいね』

「毎日!?休みは!?」

『あなた、変な事言いますね。このゲームは睡眠中にするゲーム。つまり、毎日お休みになれるじゃ無いですか』






ーーーーーそこで目が覚めた。

ひと昔前なら『なんだ、夢か!!』とホッと胸を撫で下ろし解決だったろうが、現代に夢オチは通じない。

コーヒーを飲むが味がしない。

考えのまとまらない頭で出勤準備をしたせいでズタボロ。
スーツの上下も色が違うし、そもそもカバンを持っていない事を電車の中で気づいた。

(取りに帰るか、、、??)
と悩みながら会社の最寄り駅の改札を出て、
(ま、いっか。カバンなんて。そもそも、何もしないから会社でカバンを開けた事が無いし)
なんて思いながら歩いていると、肩にバーンと叩かれた衝撃があり、よろめく。

『おっはよーございまーす♪先輩ー!!おやや??今日はいつにも増してテンション低いですね!?』

声の主は会社の後輩。茶岸 ほまれ。
160センチくらいの身長の彼女は私の肩を叩いたあと、トトトッと目の前に回り込み、少し屈み込む様にして首をかしげ上目遣いで私の顔色を伺っている。今年32。

いつも見慣れた黒髪ロングヘアーをバッサリきったのか、今日はショートカットを耳の横でピンで留めている。が、気落ちしている今は驚く様なテンションにもなれない。

「おやおや!?ノーリアクションですか!?先輩!?おーーい。起きてますかーー??」

「全く、朝っぱらから騒々しいなぁ。」

「もう!早くしないと遅刻しちゃいますよ!!」

高校生の通学路でやるっぽい会話を35才の男と32才の女が出勤途中にしている。

「あっ!!先輩!今日のランチ、あそこ行きましょうよ!
サラッサラ定食のサラサー亭!!
今、ランチ食べたらドリキャス内で使える食事券が付いてくるみたいですよー!!」

そう。彼女もドリームキャスト・通称ドリキャス利用者なのだ。
利用者が国民の4割以上と多いのでサービスでドリキャス内で使えるアイテムなどをサービスで客寄せする店も少なくは無いし、ほまれとの様に日常会話でドリキャスの話をする事も多い。

が、やはりドリキャス内では日常の自分を隠して理想のアバターになっている人も多いので、どんなキャラを使ってるとか聞くのは、どこかご法度の様な雰囲気もある。
現実世界の友達同士でドリキャスでもパーティーを組むことも少ない。

「ランチか。悪いけど、ちょっと食欲が無いんだ。今日は遠慮しとくよ」

「えぇーっ!ドリキャスのアイテムプレゼント系には食いつきの良い先輩が断るとは。む!む!む!!さ・て・は!!何かあったなーー??」

「るせーな。お前にゃカンケー無いだろ。」

もう一度言う。35と32の会話だ。

「あっ!そうそう!ドリキャスと言えば!明け方、運営からメッセージ来てましたね!!確か、マサタカって言う人が、めちゃくちゃ久しぶりに魔王を倒したとかって!!」


(コイツもそれを言うって事は、あぁ、やっぱりアレは、実際に起こったんだ。
夢だけど、夢じゃなかった。。)

と、隣のトトロでしか聞いたことない様な事を思っていた。

「そーいえば、魔王を倒したマサタカって人、先輩と同じ摩擦多苛(マサタカ)って名前ですね!
案外、先輩が魔王を倒した、勇者マサタカだったりしてー!!」

もちろん、彼女はドリキャス内での私を知らずに言っている。

私も、プライベートと夢は分けたい考えなのでいつもなら“バカ言ってんじゃねぇよ”と返して居たかも知れないが、昨日起こった事を誰かに聞いて欲しくて、私は打ち明けようとした。

「あのな、実は、、、」
と口を開いた瞬間、全身に電流が走る。
「ギィヤアァァァァァ!!!」

「せ、先輩!?どうしました!?!?」

「はぁ、はぁ、あ!!いや!何でもない!!」

咄嗟に私は、秘密を誰かに漏らしてはいけない、漏らした場合は体内のマイクロチップを通じて電流のペナルティがある!と察して、これ以上は何も言わない事にした。

「急に奇声を発したんでビックリしましたよ。
あっ!そういえばさっき、何か言いかけてませんでした??」

「あ、あー。。あれな、、あぁ、そう!!そう言えば、髪の毛切った?」

「あっ!ようやく気づいた!!そうなんです。ちょっとした願掛けでね。バッサリいっちゃいました!7Mほど」

「7Mか。。イッたな。ギネス、狙ってたんじゃないの?」

「無理無理。ギネス保持者であるフロリダ在住のアーシャ・マンデラという女性は17メートルらしいよ。」

割とどうでも良い情報だが、今はこんな会話でも少し救われるな。と思いながら時計を見る。

「くそっ!話してたらホントに遅刻してしまいそうだな!」
「うっそ!始業まであと50分しか無いじゃない!」
「会社まであと12kmか。。少し走るぞ!」

2人はバッと上着を脱ぎ捨てて、速度を全く変えず会社に向かった。

   【魔王様は倒されたい#3へ続く】
※1... 摩擦多苛(マサタカ)  
摩擦が多く苛立つ人生を願って付けられた。

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