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個別最適な持久走〜自分だけのペースを発見せよ!〜


はじめに

 学校の体育では、冬になると持久走を行うのが定番です。しかし、毎年やってくるこの授業を楽しみにしている児童は多くありません。「うわ〜、またこの時期がやってきた・・・。」と嘆きの声すら聞こえてきます。原因は、毎回練習の時に決められた距離をひたすら走らされ、苦しい思いをするからではないでしょうか。また、持久走が苦手な子にとっては、毎回最後まで残るため、苦しい姿を走り終わった大勢の友達に見られのも苦痛でしょう。しかし、本来持久走とは心地良く走り切ることが魅力です。そこで、自分に合ったペースを見つけ、リズム良く走ることが大切なのです。それが、生涯スポーツへと繋がっていくのです。そこで今回は、野球部だったのに何故か中学校時代多くの高校から陸上部へのスカウトが来た私が、個別最適な持久走の実現のために実践したことを共有しようと思います。改善点や代案など多々あるかと思いますので、皆さんと共に学び合っていければと思います。

試しの走り

 最初に、なんのアドバイスもせずに子ども達に運動場を走ってもらいます。今回実践を行った子ども達のノルマは運動場7周です。ペアの子に、1周ごとのスタート地点を通過した際のタイムを記録してもらいました。

スタート地点を通過した際の7周のタイム

デジタルワークシート①

 次に、ラップタイムを算出します。今記録カードに記入されているのは、あくまでスタート地点を通過した時のタイムです。ここで知りたいのは、毎回1周の運動場を何秒で走ったかのラップタイムです。このラップタイムを出すには、非常にややこしい計算が必要になります。(例:4周目のラップタイムを算出する場合は4分21秒➖2分50秒。分を秒に直して計算すると、261秒➖170秒)例のように、単位を変えて計算すると、計算ミスが生じたり、必要以上に時間を要したりします。そこで、MicrosoftのExcel関数を活用したデジタルワークシートを作成しました。

最初に測定した記録を表に入力すると、瞬時にラップタイムを算出する優れものです。さらに、自分の7周の走りを自動的に棒グラフにしてくれます。自分の走りが棒グラフになることで、何周目が速くて、何周目からペースダウンしているかなどを容易に可視化できます。また、7周トータルの平均タイムも自動で計算されます。エクセルのシートは、子どもの人数分作成しており、教師はクラウド上で容易に全員分のペースを確認することもできます。

個別に目標を設定する

 ここで初めて、心地良く走るためのコツを教えます。まずは全員で長距離のオリンピック選手の動画を視聴しました。すると、スタートはあまりペースが速くなく、しばらく一定のスピードで走っていることと、最後にラストスパートをかけていることに気が付きました。自動車も一緒です。燃費良く走るには、急にアクセルを踏まずにゆっくりとスタート。そこから同じスピードを保つことが大切なのです。これを自分達が走る7周に置き換えました。すると、1周目〜6周目は同じタイムで、ラスト1周が1番早いタイムになることがリズム良く走ることだとまとまります。
 改めて自分のデジタルワークシートを見てみると、9割の子が1周目を全力で走り、2周目から一気にスピードが減少。速くなったり遅くなったりを繰り返し、ラストスパートに全力を出しきれていないことが分かりました。この結果から、個々に次回はどのようにして走るか、振り返りを記入します。自分の1周あたりの平均タイムはこの時点で1人ひとり異なるので、目標も個別に異なる目標が出来上がります。

練習は楽しく!心地良く!

 さて、前回の振り返りを活かして練習です。ここで、前回と同じように7周走ると「しんどい。」「苦しい。」「楽しくない。」という児童が出てくるでしょう。そこで、練習では負担の少ない「リズム走」と「ペース走」を取り入れることにしました。

ペース走

 この練習法は、1周走る→休憩しながら半周歩く→1周走る→休憩しながら半周歩く の繰り返しでとても負荷の少ない練習法です。大切なのは、ただ走るのではなく、前回のデジタルワークシートで算出された自分の平均タイムピッタリで1周走ることが目標です。これがなかなか難しく、1周だけだと子ども達は体力が有り余っているので、目標タイムを上回ってきます。しかし、それではペース走になりません。ペース走では、速いことより、誤差1〜2秒以内でゴールすることの方が素晴らしいことを伝える必要があります。何セットか繰り返すと、次第に自分のペースをつかみ始めます。「そのペースで7周走れば、前回の自分のタイムと同じですよ。」と子ども達に伝えると、「え〜!なんか楽勝な気がする!」と答えます。それほど、ペースを一定にして走ることが重要であるということに気が付き始めるのです。

リズム走

 慣れてきたら練習方法を変えます。ペース走だけだと、ペースは掴めても、負荷が軽すぎて体力の向上には向きません。そこで、今度は2分走って1分歩くというメニューを3〜4セット行います。その際やはり大事なのは、全力で走るのではなく、自分のペースを意識して走ることです。前回は1周だけでしたが、今度は2分間なので、より難しくなります。そして、走っている間の2分間をより楽しめるように、音楽を流すことにしました。事前にMicrosoft Formsを使って子ども達に流して欲しい曲を集計しておきます。自分達で選んだ曲が流れるので、子ども達はルンルンです。そして、2分の最後のセットを行う際は、残り20秒ほどになったら全力を出してOKにします。これがラストスパートの練習になります。この練習をひたすら繰り返しましたが、嫌がる子はおらず、全員が自分だけのペースを考えて楽しみながら取り組んでしました。仲のいい子とお喋りしながら走る子が毎年いましたが、今回は友達と自分との目標やペースが違うため、そのような子は1人もいませんでした。

デジタルワークシート②(本番)

 いよいよ2回目の測定で7周走ります。今回はスタートダッシュをきめる子はいませんでした。記録をデジタルワークシートの2回目の欄に記入します。

2回目の測定

 算出された棒グラフを見ると、1回目に比べるとでこぼこがなくなり、ラストスパートに力を出せていることが一目瞭然です。走った本人も、リズム良く走ることができた!と実感していました。練習では一度もきついメニューを組まず、楽しさや心地良さを重視してきましたが、それでもしっかりと前回よりもタイムを大きく縮めることに成功しました。
 

終わりに

 今回のデジタルワークシートを活用したことにより、自分だけの課題ができ、自分だけのペースを意識した個別最適な持久走に取り組むことができました。前回の自分と比べているので、持久走が苦手な子も、全く周りを気にすることがなくなりました。何より、全員が楽しみながら取り組むことができたのが大きな成果です。

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