本当のコロナ対策とは?

人事担当者としてこれまでいろんな仕事をしてきたけれど、今回の「コロナ対策」は本当にいろんな発見の連続なので(多少不謹慎ではあるが)非常に学習になる経験だとつくづく思う。
実際には以前からずっと感じてきたり、考えてきたことが、コロナをきっかけに「実験できた」ので確信を持てた部分が大きい。
いくつか列挙してみようと思う。

1.雇用形態の多様化が必須(「正社員」が変化)
いよいよ本格的に「正社員」が無意味となる時代に突入したと感じる。つまり、「正社員=特に期間を定めない雇用契約に基づいて、特定の雇用主に対して雇用主の指揮・命令に基づいた担当職務において労働を提供する労働者」という雇用スキームは労働者と一般社会の双方にとってそれほど健全な仕組みではないことが明確になった。特定の雇用主に労働力を提供しているのは、保有する財産を単一のポートフォリオで保持しているのと同じ状況で…「最もリスクが高い状態」と認識しなければならないことが明確になった。
他方で、少子・高齢化の結果、労働人口の縮小が見込まれているのだから、個別の労働者が複数の企業・団体に貢献できる「雇用」のあり方(=一般的に言われる名称でいうと「個人事業主」の形態、もしくは「副業の推進」という労働慣行の変更)へと円滑に転換できる法整備が必要になる。すべての企業・団体は社会になんらかの価値(良いとか悪いとかではなく)をもたらすために存在しているが、個人(まさにIn-dividual...分解できない単位の存在)の能力は広く活用できなければもはや「社会基盤」が維持できなくなることが明確になった。

2.労働時間法制ももはや形骸化していることが明確になった
在宅勤務を推奨する中で見えてきたことは、特に企画のみならず事務の業務においても多くの労働者は「1日8時間分の職務を担当していない」ということだと思う。もっと正確に言うなら「オフィスで就労していること=生産性の工場を妨げる要因の一つである」ということが明確になったと思うのだ。もはや製造業務のような加工設備の性能によって就労すべき時間が規定される業務のみが労働時間管理法制の適用が可能なだけであることが明確になった。もちろん、労働時間法制の肝は「個別労働者が長時間労働することによって健康を害するような事態は避ける」ということになるが、それとて個別労働者が1つの「雇用主」に対してのみ労働力を提供しているという状態があるから注意が必要になるだけで、複数の「雇用主」に気軽に所属できるようになれば、長時間労働を要求する企業には上質な労働力は集められなくなるわけで、長時間労働の議論は自然に消滅することになる。
ちなみに、個人的には労働基準監督署が推進してきた「労働時間管理の適正な運用」を評価するために積極展開してきた臨検(監査)は、コロナの影響もあって実効性のある形で実施できないだろう。もしくは「在宅勤務の状態でどのように労働時間の実態を把握するために雇用主が講じるべきことなどといった形式的なガイドラインを作成しようとするのだろうが…この観点でも労働時間法制は形骸化することになる。
そもそも「在宅勤務」が活性化すれば、労働時間法制は実効性が担保できないのだ。

3.オフィスの機能が大きく変わる
オフィスはその企業の顔のような枠割を担ってきた。社員数が増加すれば大きなオフィスを構えるし、組織風土を変えるために定期的にオフィスを改装してきた。しかし、もはや「在宅勤務の可能性」を知ってしまった労働者にとっては、そのような表層的な試みはさして意味がないことが明白になった。
僕自身がなぜオフィスに行くか?と問われれば、究極的には「部下と直接対話したいから」という理由しかない。文章であれ電話(画面越しの対話含む)の対話であれ、やっぱり「肌感」がないと本当の対話が成り立っていないと思っているからだ。でも、若い世代と話していると、最近その仮設にも疑問符(?)が付くようになってきた…直接対話とバーチャル対話とで、彼らにとってはどちらが本当の意見・感情を表現しやすいのかな?と感じ始めている。
この疑問が出てくると、なおのことオフィスの機能が全くわからなくなってきたのだ。
今後は(New Normalっていうのかな?)、オフィスは3つの役割を果たすのみになると思っている。
ー「貸会議室」の機能:集団で集まって研修や会議をするための場所
ー在宅勤務に向けた「練習」の機能:在宅勤務する前にどうやって仕事そのものを切り盛りしていくかという練習をする機能。さらにこの「練習期間」は、入社・新職務へ着任して最初の6ヶ月程度のみで十分だろう。
ー「顔合わせ」の機能:前項の「練習」の一部として他部署の同僚らとの顔合わせとして、そして上司・部下が直接対話により信頼関係の基礎を構築するための顔合わせとしての機能。

4.組織内における「人間関係」のあり方が大きく変わる
オフィスで毎日就労している時でさえ(…いや、それが原因か?)、職場内における人間関係構築が苦手な人がいるものですが、在宅勤務が推進されてくる中で非常に変わってくるのが「人間関係」の様相だと感じている。
簡潔に表現するなら、今後は「(職場の)人間関係」は大きく以下の2つに分離して進化することになるだろう…
①「業務委託契約」関係:上司らが業務進捗度や必要となる資源(人・金・情報など)を確認するための関係のこと。
②「就労意欲管理」関係:ちまたで言われるメンターやバディーとの関係のこと。
こうなってくると、管理監督職の役割は大きく変化してくることになる。いわゆる業務を管理するためのプロジェクトマネジメント能力をさらに強化しなければならないし、他者の意欲を駆り立てるためのテクニックどころか「やってみせて」という職務に対する姿勢を実際に体験できる機会を共有するなどの強い実務力が求められることになる。

5.強いコミュニケーション能力(とりわけ相手を楽しくさせるユーモア)が必要
人の気持ちが「クサクサ」しやすくなる社会状況において、人の魅力として再認識されてくるであろう能力は、論理的思考というより「接点を持つと心地よい気持ちになる」と相手に感じさせる能力なんだと感じている。
この最も難度が高い課題の回答は結局「笑わせる能力」と置き換えてもいいんじゃないかと思う。これまでよりもこの能力が見直させることは間違いないと感じている。

こうやって書けば書くほど、コロナの影響ってのは大きい…というか、世界で一気にパラダイムシフトを迫るものだと感じる…なんだか「見えない意志」が存在するのかもしれないなぁと思わずにはいられないほどだ。

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