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ディズニーとお買いものパンダの幸せな「空気」の作り方

これまでリクルート、楽天という事業会社で多くのサービスの立ち上げと運営を担ってきました。

楽しく心が弾むようなサービスやコンテンツの提供を通じて人間に温かな感情を取り戻す、ということをモットーにしており、その集大成ともいえるのが2013年からプロデュースしている『お買いものパンダ』です。

もともとキャラクターは好きでしたが、仕事でやるとなると話が別。素人だからこそ試行錯誤を重ね、多様な経験をもった人材でチームを組成し、今では好きな企業キャラクター1位、LINEスタンプ利用者が5000万人を超える規模まで成長してくれました。

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お買いものパンダはキャラクターデザインが価値の源泉なので、プロデューサーとしての仕事は世界観やストーリーを一緒に練ったり、より多くの人に知ってもらうための企画を考えたりする、いわば芸能事務所の社長やマネージャーのような役割。

そのために新しいトレンドにアンテナを張ることもありますが、老若男女問わず1億人規模のお客様に楽しんでいただくコンテンツを作るには、むしろこれまで生きてきた中での体験や感情から普遍性の高いコンセプトを抽出する思考方法の方が合っていると考えています。

そんなときにいつも立ち戻る場所が、ディズニーです。私は学生時代にディズニーランドでキャストのアルバイトをしており、そこで体感した世界観の構築力の素晴らしさに大きな影響を受けています。


世界観を完璧に守るディズニー

ディズニーランドは世界観を重要視しており、たとえばミッキーマウスは1人しかおらず同時に複数の場所に登場することはない、というのは有名な話です。

そして私が今でも強く覚えているシーンは、キャストしかいない、つまりゲストには全く見えないバックステージに戻ってもなおミッキーマウスとミニーマウスがハグ&キスしていたこと!キャストも夢の国の住人とみなし、当たり前のように世界観が守られているわけです。

そんなディズニーランドのキャストは、実際に接客をするまでのトレーニングがほとんどなく、またマニュアルがないことでも知られています。普通の学生や主婦たちがたった数日でなぜあんなにイキイキと、ゲストの心を動かすような接客ができるようになるのか。

それは「空気」の存在なのではないかと私は考えています。


人は「空気」で動く

「空気」をテーマとして扱った名著に山本七平の『「空気」の研究』があります。人に何かを決定させ、行動に移させるものは「空気」であると述べられており、主に政治や社会問題の悪しき例が解説されているのですが、私はこれはポジティブなシーンにも当てはめられると思うのです。

本の中には演劇や祭儀を例にとった以下の記述があります。

”舞台とは、周囲を完全に遮断することによって成立する一つの世界、一つの情況論理の場の設定であり、その設定のもとに人びとは演技し、それが演技であることを、演出者と観客の間で隠すことによって、一つの真実が表現されている。“

”だが「演技者は観客のために隠し、観客は演技者のために隠す」で構成される世界、その情況論理が設定されている劇場という小世界内に、その対象を臨在感的に把握している観客との間で”空気“を醸成し、全体空気拘束主義的に人びとを別世界に移すというその世界が、人に影響を与え、その人たちを動かす「力」になることは否定できない。“

たとえば「歌舞伎役者は男性だけれども舞台上では女性である」というその場の設定を演者と観客が共有した世界で、観客は感情移入を通じて特別な力を感じることで、そういう世界が当たり前に存在するような「空気」が醸成され、心が動かされていくということ。

ミッキーマウスの中って人が入ってるよね、とは誰も水を差さないのと同じ構造ですね。


さらに、その感情移入を強力に促すための仕掛けが「物語」なのではないかと私は考えています。

ミニーマウスはミッキーマウスの永遠のガールフレンドであり、ホーンテッドマンションでは999人の幽霊たちがゲストを1000人目の仲間に加えようと待ち構えている、というように。

これらの物語への共感と一体化、そこから生まれる強大な「空気」の作用こそ、ディズニーランドで新人キャストでさえもあるべき振る舞いができる理由なのではないでしょうか。

私自身も新人キャスト時代、右も左もわからない中でも、親しみやすさやサプライズ性を込めたコミュニケーションが、なにか不思議なものに操られるようにできた感覚をよく覚えています。


物語のベースは関係性

さて、ここからお買いものパンダの話です。

お買いものパンダも物語を重視して細かな設定をしているのですが、最初に物語のパワーを実感したのは、実はお買いものパンダ誕生から1年ほど経った、小パンダという2人目のキャラクター登場のとき。

その時点ですでに1000万人以上の方がLINEスタンプを愛用してくださっていたのですが、ここからダウンロード数が飛躍的に伸びました。

不思議に思って利用者の方々に聞いてみると、小パンダが登場したことで関係性が生まれ、そこから物語の想像や共感ができるようになったということがわかってきました。

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言われてみれば、アナ雪のエルサとアナしかり、ポケモンのサトシとピカチュウしかり、スターウォーズのアナキンとオビ=ワンしかり、登場人物の間に友情や愛情、嫉妬や裏切りといった関係性があるからこそ、私たちは深く共感して応援し、ときには自身の体験と重ねて涙をします。

物語を形作るベースは関係性だというわけですね。

そこで後追いにはなりましたが、お買いものパンダと小パンダの関係性についてデザイナーと考え、それぞれの性格設定と合わせてクリエイティブに活かしていくようになりました。

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↓性格設定


また、物語への別のアプローチとして、デザイナー自身の温かな思い出が織り込まれているという点も特徴で、子供の頃の家族行事や懐かしのアイテムなどがたびたび登場します。ディズニーランドも入ってすぐのワールドバザールはウォルト・ディズニーの故郷がモデルとされています。どこかノスタルジーを感じさせる物語は人を惹きつけるものです。

ちなみに、これまでのTweetの中で私が好きなトップ3に入るのはこちら。お盆という昔ながらの風習、小パンダのやんちゃさとお買いものパンダのド真面目さの対比、いろいろな物語エッセンスが凝縮されていて地味にジワジワ来ます(笑)。


そんなお買いものパンダの世界観を象徴する嬉しいことが、Twitterのコメント欄の平和さです。お買いものパンダたちに対してツッコんだり、心配したり、一緒に喜んでくださったり。何ならちょっと落ち込んだ日も、コメントを一通り読むと癒されるほどです。

他のキャラクターのTwitterを見ていると、辛辣なコメントを書かれているなど、ネガティブな「空気」が漂っていて悲しくなることもたびたびあります。

お買いものパンダの周りには優しい世界が広がっているのは、きっとファンのみなさんが物語に共感してくださり、幸せな「空気」が醸成され、新しいファンの方々もその「空気」のパワーでポジティブな発信をしてくださるからでは。そう思っています。

そういえば、いつからかお買いものパンダのファンの方は「おかパン民」と呼ばれています。まさに「民」、ファンの方自身が優しい世界の住人ということなんですね。

大変な社会情勢の中、落ち込んでしまうような「空気」も感じますが、そんなときはぜひお買いものパンダのTwitterを見て癒されていただけると嬉しいです(ぜひコメント欄もご覧あれ)!

キャラクターの誕生秘話やデザイナーの創作エピソードについては、私たちの部署の紹介サイトにも載っているので、興味のある方はこちらもどうぞ。

(おわり)

このnoteでは、お買いものパンダやポイントなどのプロデュース業、マーケティングの仕事の中で考えたこと、面白いと感じたコンテンツについて書いていきます。共感いただけたらスキ♡フォローシェアをいただけると嬉しいです!人の温かな感情を呼び起こす素敵なサービスがもっと世の中に増えますように。

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