日々之雑感 17

一緒に仕事をしているチームに面倒くさいおっちゃ…もとい、お兄さまがいる。
御年、50歳。仮にTさんとしよう。
若い頃はさぞやイケメンだったであろう、端正な顔立ちをしているが、今はごま塩頭で、いつも不機嫌そうに口角を下げ、眉を寄せた表情をしている、見るからに面倒くさそうなおっちゃ…じゃなくて、お兄さまだ。

若手ホープの責任者女子(アラフォー)に指示を出されると、まず一言目が「イヤです」。
「だって、これどうせまた上が何も考えないで下ろしてきた案件でしょー?いややねん、現場をわかってないもんの指示なんか聞きたくもないわ」
と、延々と上層部への文句が始まる。
……まあね、そうなんだけどね。言ってる事は間違ってないんだけどね。でもさー、責任者女子だって中間管理職で辛い立場なんだから、まずは話を聞いてあげようよー、と、そのやりとりを眺める私とチームメンバー。

どこに配属されてもこの調子で、あちこちの部署から厄介払いのように転属させられ、私の部署にやってきて数年、同じチームになって数ヶ月。
よく観察していると、仕事はとてもできる。できるが、納得できないことは絶対にやらない、自分のスタイルを絶対に曲げないという頑固者。
もっと言ってしまえば、会社員としてダメな人。
そして、心も開かない。おまえらみたいな奴には心も開きたくない、というオーラ全開。
そりゃチームワークも乱すし、飛ばされるわけだ。だって、面倒くさいもん。
なので、必要以上には触らずにいた。

が、ある日。
突然、Tさんが目をきらきらさせて話しかけてきた。
「インドに住んでたって本当なの?」
今さらどこから聞きつけてきたんだ、と思ったが、本当ですよ、と返事をした。
「ガンジス川の近くにいたって聞いたけど、まさかヴァラナシ?」
はいはい、そうですよ、ヴァラナシにいましたよ。
「僕ねぇ、若い頃、バックパック背負ってヴァラナシに行ったわ。クミコハウス(※)にしばらくおった。そうやったんかー、懐かしいなぁ」
いつものへの字口ではなく、きちんと口角を上げてにこにこしながら、遠い目をするTさん。

クミコハウスは今も健在で、相変わらず体育会系なノリで、元気に営業中ですよ、と説明をすると、とても嬉しそうだ。
これはもしや、インドによくいる、コミュニケーションが下手くそな、こだわりの強い面倒くさい人系?
だとしたら、もしや、この人は私の得意分野の人?
よっしゃ、では、私が籠絡いたしましょう。ふっふっふ。

まず、面倒くさがられても、わからない時は、“お願いしますよー、助けてくださいよー、Tさーん”と捨てられた子犬のような目をしてすがり続けた。
最初は「えー、僕?イヤだよ、わからへんよ」と言っていたが、だんだんと、イヤがる確率が減り、最近では“Tさーん”と呼ぶだけで「ん、何?僕でわかること?」と助け舟を出してくれるようになった。よしよし。

暇な時間があれば、様子を見ながら、接触し続けた。
もちろん、引く事も忘れずに。押す一方では嫌われるからね。もちろん、他のチームメンバーも、同じように接触し続けた。
そのうち、徐々にメンバー全員とコミュニケーションを取り、雑談までするようになった。ついこの間は「これおいしいんだよ」とわざわざ全員に三笠(どら焼き)を持ってきてくれた。
素晴らしい進歩。

4月から、大規模なチーム変更があるため、今のチーム全員がばらばらになることが発表になった。
「えー!今のチームのままでええやん。和気あいあいと仕事できるからこのままでええやん」
と、あろうことがTさんが大声で言った。
おいおい、どうした、と目を見開くチームメンバー。
そんなTさんに向かって率直に言ってみた。

“最初は、このおっちゃん、文句ばっかりで面倒くさいわーと思ったけど、慣れてきたら文句言ってるのを聞いても、まーた文句言うてはるわwってかわいくなってきちゃったんですよねー。離れるの寂しいですね”

「いやいやいやいや、僕なんてかわいげのないおっちゃんやからね、そんな事言うてもらったの初めてや」
と、真っ赤になって照れまくる。かわいいwww
だが、Tさんと私は隣同士のチーム。
わからないことがあったら、また助けてくださーい!って頼りに行くので、助けて下さいねっ♡と言うと、
「うん、僕でわかることなら助けるわ~」
と、真っ赤なままで言ってくれたTさん。

懐きにくい生き物ほど、懐くとかわいいものですね( ´ー`)y-~~



©madokajee



#雑文


※久美子ハウス:インド、ヴァラナシで最も有名な古参日本人宿。http://4travel.jp/os_hotel_each-10432192.html

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