日々之雑感 9
私の職場はチーム単位で仕事をしている。
隣のチームのリーダー女史は根性が悪いので有名だ。
他のチームのメンバーにはまともに挨拶すらしない、こちらが挨拶をしてもスルーする。
チームに気にくわない人がいると、いびり倒して辞めさせる。辞めなければ、上司に働きかけて別のチームに飛ばす。
配下のメンバーのアイディアを横取りして上司に提案し、自分だけの手柄にする。
新人が入ってきても、質問にすらまともに答えず、きちんと教えない。なので彼女についた新人はなかなか仕事を覚えられない。そうしてくじけて辞めていく。
彼女についてのいい話など一度も聞いたことがない。
今月、各チームに新人が配属された。
隣のチームにやってきたのはひょろっとした、いかにも今時の若い子という雰囲気の、30歳前後(推定)の男性。
今までの新人に対する酷い扱いを何度も見ているため、彼を最初から「かわいそうに……」という目で見ている人がほとんどだ。
だが、皆の予想を裏切って、隣のチームからは新人君に優しく教えるリーダーの声が聞こえてくる。
今まで数々の新人を潰してきたので、さすがに注意でもされたのかなぁ、これで新人君は少し長持ちするかなぁ、などと思っていた。
ある日の就業後、私がくたびれ果てて、だらだらエレベーターに向かって歩いていると、後ろから
「あ~、バッグ、スナフキンや~。かわいいね~♡」
と声をかけられた。
振り向くと、ひらひらしたスカートをはいた隣のリーダー女史。
今の職場に来て1年半、挨拶をしても10回のうち、9回はスルーされているし、当然まともに話したこともない。
ついでに、ひらひらどころか、スカートをはいているのも見たこともない。何より、語尾に♡がついたような喋り方をしているのなんて聞いたことがない。
戸惑いながらも、スナフキン好きなんですよ、理想のタイプなんです、と答えると、
「えー、ほんまに?スナフキンは孤高の男やから、そんなタイプはそうそうおらんやろ~。ほなねー、おつかれっ♡」
彼女は満面の笑みで言って去っていった。
あまりの唐突なファーストコンタクトに呆然。
「どうも隣のリーダーは、新人君を“王子”って呼んでるらしい」
という噂を聞いたのは昨日の事。
ひらひらのスカート。教えている時のワンオクターブ高い声。語尾に♡がついたような喋り方。
ほー、なるほど、そういう事ですか。
笑っちゃいけないが、思わず笑ってしまった。
根性は悪いが、かわいいところもあるのね。
しかし、新人君はひょろっと背が高くて、今時の子ではあるが、別にイケメンでも何でもないぞ。
……などと言っていたら、他のおばちゃんたちも「かわいい」とざわざわしているということが判明。
大量のおばちゃん(私も含む)と、少しのくたびれたおっちゃんしかいない職場にいるからハードルが低くなっているんちゃうんかい!
©madokajee
#雑文
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