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日々之雑感 27

いわゆる3・11、東日本大震災の時は和歌山県の白浜のおされオーベルジュで働いていた。フロント+バックヤードの業務をしていたのでTVとネットをフル活用して情報収集をしていた。白浜も大津波警報が出され、JR全て運休、高速道路も、下道も全て通行止め、という陸の孤島状態で、その日のゲストは帰ることもできず、緊急事態ゆえ、そのまま無料でもう1泊になった。

私は私で情報収拾をしながら、その時は仙台に住んでいた南三陸出身の旅友達のことを気にしていた。お互いに「家族」と呼び合っているほど気心の知れた友達。緊急事態だから電話はできないな、と届けばラッキーくらいな気持ちでメールだけ送っておいた。南三陸の津波の様子もニュースで観ていたから。

しかしこちらはこちらで、大津波警報が出ている状況で、忙しい。残業をして寮に帰って、TVのニュースを観ていると、ひょっこり「家族」から電話が来た。
「電気もなにもついてなくて、遠くで何か燃えてるのは見えるし、何か焼けてるような匂いはするし、まどかじー、TVとか見てたらわかるよねぇ、今どうなってんの、これ」
とりあえず今どうしてるのか聞くと、避難所に行ってみたらお年寄りとか子どもがたくさんいるから、あ、俺はここじゃなくてもイケるから、って旅道具とアウトドア用品をある程度持ちだしたから、テントを張って、コンロでインスタントラーメン調理して食べたよ、と逞しい。

とりあえずTVで観た様子を伝え、南三陸の情報も伝えた。さすがに津波の話は伝わっているらしく、ただ、余震もあるし、二次被害が起きると危ないから今は南三陸には行けない、ということだった。
「とりあえずさー、電話は今のところイケてるから、何か新しい情報あったらメールして、俺は大丈夫だから、わかってっしょ」

白浜も翌日に大津波警報は解除されたが、漁業関係で1億円を超える被害が出たらしい。しかし、海辺だというあおりを受けて、宿泊キャンセルが相次いだ。警報翌日のキャンセルに関しては、支配人の方針でキャンセル料はいただかないことになった。

東京の友達からは帰宅難民になってえらい目にあった話を聞かされ、「家族」とは相変わらずこまめにやりとりをして、ネット環境がない彼のためにGoogleのパーソンファインダーに彼の家族を登録したりと、なかなか心の痛む毎日だった。

スーパーに行けば水の買い占めは始まっているし、コンビニに行けばタバコの買い占めが始まっている。そんなことをしなくてもこの町は何も困らないだろうが!と小さなイライラが募っていった。妹からも「お姉ちゃん、タバコ大丈夫?あれだったら買っといてあげようか?」と親切心で電話が来たが、「入ってこなくなったらなったでしょうがないから、そんな買い占めをして送ってもらってまで吸わなくていい!浅ましい!」と半ばキレた。

だいぶ被災地の様子も落ち着きだし「家族」も長時間かけて南三陸へ戻った。幸い家族は全員無事だったが、何人もの友人が亡くなったと聞いた。

日本中が自粛ムードに覆われて、妙なCMが流れ、変な空気が流れていた。
そんなある日、職場で宿泊キャンセルの電話が入った。前日キャンセルなのでキャンセル料がかかります、と説明すると、電話の主はキレた。
「日本が今こんな状況の時にのんびり旅行なんてする気分になれると思うのか?そもそも白浜だって海沿いで絶対安全だっておまえは保証できるのか?何よりこんな状態の時に自分たちだけ旅行するようなことができるか。おまえはそんなこともわからないのか?それでも日本人か?○○人じゃないのか?」

怒りで身体が震えた。
こんな状況で旅行できないのなら、もっと前にキャンセルすればいいじゃないか。絶対の安全なんて世界中の誰も保証なんかできない。それでも日本人かってあんたこそ何様だ!

怒鳴りたいのをこらえて、再度ここは和歌山だし、そういう理由でキャンセルするならば、もっと早い時期にキャンセルしてもらえれば無料ですが、前日キャンセルはキャンセル料がかかります、と説明するが「おまえ○○人だろう?普通の日本人がそんな思考回路するか!」と怒鳴り散らしてお話にならない。

責任者の女性が電話を代わってくれたが、やはり全くお話にならず、最終的には支配人が出て、今回だけ特別に、と無料キャンセルを認めた。思わず責任者の女性とお互いの手を握りしめて悔し泣きしたのをはっきりと覚えている。

南三陸の避難所にいる「家族」と電話で思わずそんな話をしたら、
「困るんだよねー、便乗してそういうことされると。あとさー、お祭りとか色々勝手に自粛してくれてるけど、何でもないところでは普通に生活して、普通にお祭りごともやって、どんどん明るくやって経済もまわしてくれないと、こっちにまわってこないじゃない。だから何でもないところの人は、普通に遊んで、普通に働いて、普通に生活しててくれなきゃ逆に困るんだよねー」
と言われた。これも頭にこびりついている。


だから昨日の地震ももちろん友人知人の安否確認はしたし、心配もしたけど、普通に寝たし、今日も普通に文章を書いてた。それでいいんだと思ってる。




©madokajee

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