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日々之雑感 16

毎年、この季節になるとそわそわし始める。

桜が咲く。

それだけを心の支えに、大嫌いな冬を乗り切れるくらいに、桜が好きだ。

桜が咲き始めると、昔から1人でふらっと桜を眺めるために散歩をする。
桜の木の下にシートを敷いて、宴会をする人々を横目に、ただ、歩いて、時々立ち止まって、魂が抜かれたように眺める。
誰かと桜を観に行ったことはあったかな。
大学生の頃に、一度だけ、当時の彼氏に桜のきれいな公園に連れて行ってもらったことだあるだけだ。
いつも、1人。
1人で眺めたいから、1人。

桜を眺めていると、心がざわざわする。
それは、どちらかというとあまりポジティヴな感情ではなく、いつもは目を背けている自分の暗部を刺激されるような、妙な感情からだ。
このざわざわした感じは、とても誰かと共有できない。
一体、私の根底にはどんなものが潜んでいるんだ。何か前世で桜にまつわる悪いことでもしたんだろうか。
それでも、心がざわざわしても桜は好きで、吸い寄せられるように色んな場所へ眺めに行ってしまう。

できればそれが売りの公園よりも、建物や、町並みと共存している桜のほうがいい。そっちが好みだ。
去年、初めて京都へふらっと桜を眺めに行って、あの町並みと桜の作り出す空気には……やられた。
“桜の樹の下には屍体が埋まつてゐる!”とはよく言ったもので、歴史が長くて、幾千の屍の上にある町並みと、桜は本当に良く合う。
今年も、突然思い立って、ふらふらと出かけて行くのだろうな。
そして、花冷えに凍えても、陶然として桜を眺めるんだろうな。

早く、咲かないかな。

桜を眺めてざわざわして、あっという間に桜が散って、そうすればどんどん暖かくなって、私の季節が近づいてくる。



©madokajee



#雑文

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