20180901 | 不図

ふと。不図。

昼下がり、
田中麻記子さんの個展「VuVu」の中で
松倉如子さんのライブがあるという情報を思い出して恵比寿のNADiffgalleryへ向かった。

松倉さんはおまつとまさる氏というデュエットで「あけ/たて」に出演頂いたことがある。
それ以来、ひとつの異世界へ連れて行ってくれるほどの世界観を持つ松倉さんのライブは定期的にチェックしている。
夢の中で何度か登場したことのある風景(誰もにそうゆう風景ってあるのだろうか?)のように、途切れ途切れでも生涯聴き続けていきたい音楽家のひとりだ。

田中麻記子さんのことも以前から作品に触れてみたいと思っていたので、まさかおまつさんのライブと同時に触れる機会が訪れるとは思わなかった。

目当てのライブの予定開始時間をすこし回ったところで会場に着く。
地下の展示室に続くちいさな螺旋階段を降りてゆくと、
松倉さんが自身の演奏の中でぶら下げられたガラス製のモビールのようなものを指先やおでこでシャラシャラとさせている。
足元には白い砂が敷かれている。
おまつさんの原始的な感覚で繰り広げられるショウに異様にマッチしていて、月の裏側のように秘密めいていた。
(田中さんのキャプションには夏の日記、と書いていたけれど、夏だからこそか、のぼせ上がらないように、どこか冷静な距離を保つことでずっと繋がっていることを祈っている。願っている。願わずには、いられない。それはなにか人に知られてはいけない、もしくは知られないままに波に流されてゆけばいいのかもしれない、そんな想いのようだと思った。)

おまつさんが「思うところ」があって練習し始めて8ヶ月という、ギターで弾いた高田渡のカバー「年輪」とはちみつぱいの「僕の幸せ」に泣く。(普段、おまつとまさる氏というデュエットを組んでいて、その勝さんの横で伸びやかに歌う姿を知っているからこそ、その努力や「思うところ」にグッときたりした。)
他にもアカペラの持ち歌なども、さも今誕生したかのような面持ちで口ひとつで空間を満たす。
おまつさんのうた、姿は驚くほどに毎回豊かで、あたらしい。
幼女のように伸びやかに、ときに老婆のように縮こまって。

豊か とはそういうことだと思う。
たくさんのことをひっくるめて、前に進んでゆくこと。這ってでも、ときに息を潜めても、暴発するときも、そしてそんなことは忘れたというようなテンション(フリ)で、やさしく在ろうと姿を正す。堂々と、伸び切る。

外に出ようとすると雨は、止んでいた。
行きにしようがなく駅で買った傘を傘立てから取り上げて、傘と一緒に日常も戻ってきた。

嬉し涙。昼下がり。雨上がり。


田中麻記子個展「VuVu」
@恵比寿 NADiffGallery
9/9(日)まで