映像のない音だけのドキュメンタリー映画「Our SOunds」

最近、ドキュメンタリー映像作品が盛り上がっている。NHKでも昨年末に「このドキュメンタリーがやばい」という特番が放映され、さまざまなパネリストの方がNHKで放映
されたドキュメンタリー作品について紹介をしていた。そのパネリストの一人にジャーナリストで映像作家の伊藤詩織さんモイテ、僕は彼女が2020年に制作した「Suncatchers」という10分間の短編ドキュメンタリーの主人公として出演をしている。この作品はYahoo!が運営するDOKS for SDGsトイウサイトで観ることができるのだが、Yahoo!はドキュメンタリー作家を支援し、作品を発表できるプラットフォームを作り力を入れている。そしてサブスクリプションの映像プラットフォームでもドキュメンタリー作品がとても充実して、人気が出てきているようだ。

前置きがとても長くなってしまったのだが、先日映像の無い「音」のドキュメンタリー「Our Sounds」という映画を観た。観た、という表現が正しいのかわからないのだが、音だけのこの60分の作品を聴き終わった後には、確かに「観た」という感覚の余韻が自分の内側に残っていた。

ベトナム人を中心とした技能実習生と、彼らに日本語を教えている先生が、一つの極を対話を重ねながら作り上げていくという内容なのだが、ドキュメンタリーの手法で言うところのノーナレーション作品で、説明は一切入らずに登場人物たちの会話やそこに生まれる音だけで映画は構成されている。そのため最初は状況を把握することに少しだけ戸惑ってしまったのだが、すぐにこれは僕のような視覚に頼らずに映像作品を観ている人たちにとっては日常的なことだと気づいた。登場人物の声と、時折聞こえてくる名前を呼ぶ声で人とを一致させていく作業を頭の中で処理しつつ、この場面には何人の人が同じ場にいるのかも把握していく。重なり合う声や音、流ちょうではない日本語とベトナム語、そして時折英語も入り混じり、その中で交わされていく対話はまるで、様々な色の毛糸を使ってゆっくりと時間をかけながら編まれたローゲージのニットのような温もりを感じた。

セッションをしながら曲を作り上げていく過程で、ベトナム語の菓子をメロディーに乗せ小節の中におさめようとするのだが、なかなか言葉の数が合わずに何度も調整をするシーンがあり、そのシーンがとても印象に残っている。何度かの失敗の後、ようやく小節に収まった美しい歌声、それに続く歓喜の色をした声、そしてハイタッチをする音。その音を聴いた時に、僕には顔の高さで二人の女性が笑顔でハイタッチする様子がはっきりと見えた。

ハブ監督の意図するところかはわからないのだけど、これは僕のような視覚を使わず映画を観る人と、普段は視覚を使って映画を観ている人も同じ立場で一緒に観賞することができる映画だと思う。通常は「音声ガイド」をつけ「見える人」に「見えない人」が合わせているのだが、これはその逆で「足す」のではなく「減らす」ことでそれを実現させている気がする。Less is Moreという言葉があるけれど、まさにそれだと思う。

この音だけのドキュメンタリー映画は12月3日(金)に逗子で開催される「螺旋の映像祭り」にて上映されるそうです。ご興味ある方はぜひ足を運んでみてください。

以下、詳細です。

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「音の映画-Our Sounds」
(ドキュメンタリー/60分)

岡山県高梁市の日本語教室に集まったメンバーたちの物語。コロナ禍で失われつつあった豊かな生活を取り戻すために、私たちは共に一つの歌を作りました。外国人と日本人という属性を越えた、“いきもの”としての出会い。この映画は、そのささやかな出会いの航路を記録した、音だけのセルフドキュメンタリー映画です。映像はありません。山里にも訪れているグローバル化の波。そして、その境界で揺らぐ小さなくぼみ。私たちは、そこから生まれる営み、対話、風景、響きを見つめました。この映画は、観てくれた人たちとの出会いを通して新たな対話が生まれることで、初めて動き出すのだと思います。目を閉じて耳を澄まし、私たちと一緒に旅をしてくれたら嬉しいです。

12月3日(金) 18:30-20:00 オープニング上映


https://artfilm.jp/habuhiroshi/

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