コロナ後遺症・ワクチン長期副反応療養ノート(2023/5/24版)

はじめに・前書き

閲覧ありがとうございます。約6000人のコロナ後遺症患者さん、約370人のワクチン長期副反応患者さんを診察してきた経験から、「療養ノート」を作成いたしました。コロナ後遺症、ワクチン長期副反応の診療報酬が安すぎて大変苦しいので、有料とさせていただいています。内容は https://twitter.com/k_hirahata でツイートしたりhttps://longcovid.jp に載せたりしたものばかりですので、経済的に苦しい方は、決して無理をされないでください。

内容量のわりに高額な資料になってしまっていますが、なるべく患者さんの役に立つ内容になるように心がけています。随時更新していきますので、「こういう内容が欲しい」といったご要望がありましたら、ぜひお気軽に info@hirahata-clinic.or.jpにメールをしていただければ幸いです。

コロナに罹患したら2か月は無理をしない

 新型コロナに罹患したら、2か月は無理をしないでください。当院のデータでは、コロナ後遺症で準寝たきり~寝たきり(PS 6以上)になる場合、9割近くがコロナ罹患の60日以内です。
(PSについては、次の章をご参照ください。)
 「無理をしない」は「仕事をするな」ということではなく、「できるだけ疲れないように生活してください」という意味です。

 たったそれだけのことで、コロナ後遺症の重症化を防ぐことができます。辛そうにしているとき、「少しは運動しろ! その方が治る!」などと根拠なく強要をしてくる人がいますが、無視してください。そういう人は、自分の症状が悪化しても、決して責任をとることはありません。「お前の体がおかしいからだ」などと言われておしまいです。

 疲れが増さない範囲で体を動かすことは問題なく、治療に有益なことがほとんどですが、たとえば動けないほどの倦怠感があるときに、散歩などをしてしまうと、そのあと数か月~数年仕事ができなくなる可能性があります。重々注意してください。

 企業側も、社員が罹患したら2か月は「できる範囲で」無理をさせないようにすることで、社員を失うリスク、業務に支障を出すリスクを減らすことができます。
企業としてはかなり大切なリスク管理です。
社員のためであると同時に、会社のためです。

ヒラハタクリニックを受診した方が対象のデータ

コロナ後遺症の経済・生活に与える影響

 こちらは米国のシンクタンクが2022年に報告した内容です。
https://brookings.edu/research/new-data-shows-long-covid-is-keeping-as-many-as-4-million-people-out-of-work/
2022年の時点で、米国では最大で400万人が働けなくなり、32兆円の損失になっていると推定されています。
コロナ後遺症は、仕事を失うリスク、会社の業務が回らなくなるリスクになるということです。

当院のデータをお示しします。
コロナ罹患前に働かれていた患者さん3307人のうち、休職まで行った方が1402人、仕事を失った方が320人です。
「ただの風邪」と侮ることはできません。

ヒラハタクリニックを受診した方が対象のデータ


筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)のPS(performance status)による疲労・倦怠の程度と生活上の注意

「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)」の診断基準では、Performance Status(PS)という尺度が使われていますが、これは仲間の病気である「コロナ後遺症」、「(コロナ後遺症様の)ワクチン長期副反応」の評価にも非常に有用です。

ここでは、ME/CFSのPSについて、新型コロナ後遺症・ワクチン長期副反応を4000人診察してきた経験から解説します。執筆者(平畑光一)の個人的な見解ですので、あくまで「目安」としてお使いください。

 注:あくまで新型コロナ後遺症・ワクチン長期副反応の診察経験をもとに書いていますので、ME/CFS専門の先生と見解が異なる可能性があります。また、一部の患者さんの体感と乖離した記載がある可能性があります。暫定版です。

表1)筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)のPS(performance status)

  • PS 0
    倦怠感がなく平常の社会生活ができ、制限を受けることなく行動できる

  • PS 1
    通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、疲労を感ずるときがしばしばある

  • PS 2
    通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、全身倦怠感の為、しばしば休息が必要である

  • PS 3
    全身倦怠感のため、月に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である

  • PS 4
    全身倦怠感の為、週に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である

  • PS 5
    通常の社会生活や労働は困難である。軽労働は可能であるが、 週のうち数日は自宅にて休息が必要である

  • PS 6
    調子のよい日は軽労働は可能であるが、週のうち50%以上は自宅にて休息している

  • PS 7
    身の回りのことはでき、介助も不要ではあるが、通常の社会生活や軽労働は不可能である

  • PS 8
    身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助がいり、日中の50%以上は就床している

  • PS 9
    身の回りのことはできず、常に介助がいり、終日就床を必要としている

PS 9 身の回りのことはできず、常に介助がいり、終日就床を必要としている

ほとんど動けない、トイレすらも厳しい状態です。
おむつや、ベッドサイドのポータブルトイレを利用するような状態です。
体を支えてもらいながら清拭をしてもらうということも多いです。
ひどいときは指一本動かせません。

基本的にはオンライン診療だけで支えるのは厳しく、訪問診療の併用が必須と思います。
が、実際に利用できるかどうかは地域にもよるでしょうし、経済的にきついという場合もあるかもしれません。
こういうところを政治に何とかしてもらわないといけないと常々思います。

本来なら入院して、しっかり鑑別のための検査をして、必要があれば習熟した医師のもとで治療を受けることが望ましいと思います。
が、そういうことができる病院は、日本国内にはそうそうないような気もします。やってくださるところはぜひ名乗りを上げていただきたいですし、厚労省はそういう研究を推し進めてほしい。

食事も大変だと思います。
流動食がやっとということも多く、命にかかわらないように、どうやってカロリーを確保するか、というのが大事な命題になることも多いです。

自分で動くことはかなり難しいと思いますが、可能なら足を揺らすなどの運動が出来たらよいと思います。
また、関節が固まらないように、理学療法士などにゆっくり関節を動かしてもらうのが良いと思います。
ご家族で、無理のない範囲で安全に体を動かしてあげても良いと思います。(「拘縮予防 家族」などで検索するとよい資料が見つかると思います。)

PS 8 身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助がいり、日中の50%以上は就床している

トイレまでは何とか歩けるが、あとはあまりできない、という状態です。
テレビのリモコンが重かったりします。
ペットボトルのふたなんて絶対開けられないんじゃないかなと思います。

ご家族の介助、理解がないとかなり厳しい。
ない場合は社会の福祉サービスを利用しなければいけないと思いますが、すぐにそういうサービスが受けられる地域ばかりではないと思うので、こういうところも早急に改善が必要と思います。

疾患としては、正しく治療すれば改善の見込みも十分あるので、フルのサービスの利用期間は短く済む可能性が十分にありますから、何とかならんかな、と思うところです。

やはり入浴はかなり厳しい。
場合によっては、介助があればシャワーくらいはできることがあると思います。
あとでクラッシュするようなら、やはり清拭にしてください。

食事はやはりなかなか摂れないことも多いです。
食事も運動なので、なかなか大変かと思います。

PS 7 身の回りのことはでき、介助も不要ではあるが、通常の社会生活や軽労働は不可能である

トイレに行ったり食事をしたり、といったことについては問題なくできる状態です。
ただ、掃除などをし始めると一気に悪化するのでまだ駄目です。
スマホを見る時間も相当制限しないと悪化の原因になりやすいです。

入浴はやはり厳しいです。
髪の毛などはご家族に洗ってもらう方がいいと思います。

食事はある程度摂れますが、やはり相当気を付ける必要があるでしょう。
逆流などもしやすいので、インフィニティチェアで過ごすなどの工夫も必要かと思います。

調子がいいときに家事をしたくなることも多いかと思いますが、基本的には無理です。
ごみ袋などを持つと一気に悪くなったりしがち。
コロナ後遺症(ワクチン長期副反応)は腕を使うと悪くなることが多いためです。
力をこめないで生活することを心掛けてください。

たぶん、トイレでいきむのもきついと思います。
お通じが硬くて辛ければ、酸化マグネシウムなどを処方してもらって、お通じを柔らかくするといきまずに済んでいいかもしれません。

PS 6 調子のよい日は軽労働は可能であるが、週のうち50%以上は自宅にて休息している

調子がいいときなら少し家事(皿洗い程度)ができます。
でも、できるからといって、続けて掃除機なんてかけてはいけません。
一部屋、掃除機をかけたらしばらく休んで、また次の部屋を掃除して、という感じで、続けて作業をしないようにしてください。

力をこめるのも、やっぱり駄目です。

休む時間は長くとりましょう。できるだけインフィニティチェアか、それに近い形で休むとよいです。

お風呂はまだきつい場合がほとんど。
特に洗髪は負荷が強いので、まだ家族にやってもらう方が安全かと思います。

この段階では、ほとんどの方で何かに集中することが危険です。
パソコンやスマホ、テレビなどは、まだあまり触らない方が安全。
そもそも座っていること自体が運動になってしまう段階だと思います。
座るときは運動になってしまうことを意識して。

今は休むことが仕事で、軽い家事が息抜きです。

筋肉が落ちるのが心配かもしれませんが、軽い家事をするだけで精一杯なのに、筋トレとかは無理。
プロテインを飲んで家事をするだけでも十分筋トレだと思って、気長に取り組んでください。

PS 5 通常の社会生活や労働は困難である。
軽労働は可能であるが、週のうち数日は自宅にて休息が必要である

家事(皿洗い以上)がある程度できるけど、仕事などは無理、という段階です。
この段階で仕事ができるのは、現場にちらっと顔を出して簡単な指示を出せばいいだけの社長さんくらい。
複雑なことを考えなければいけない場合は、作業時間が短くてもまず無理です。
このくらいの段階で、働きたくなってしまう方が多いですが、よくばってはいけません。

この病気は順番が大事。
回復してからやることを増やしてください。
回復する前にやることを増やすと症状が悪化してしまいます。

シャワーは大丈夫な方も多いかもと思いますが、この段階でも毎日はきついことが多いかと思います。

PS 4 全身倦怠感の為、週に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である

ギリギリ在宅での仕事が可能になってくるレベルです。
ただし、画面の光が無理、という方は仕事はまず無理かなと思います。
(画面を見ないで済むタイプの在宅の仕事があれば別ですが…)
また、在宅で復職した場合でも、20分作業しては5~10分休むなどの対処が必要なことが多いです。
2時間も集中して続けて作業してしまうと、クラッシュする恐れがあります。

散歩などの運動をしたくなる方も多いと思いますが、博打だと思ってください。
屋外は、帰ってくるのに時間がかかります。
ヤバいと思ってすぐに休めないところに行くのはリスクでしかないので、やむを得ないとき以外は自宅から離れた場所に行かない方がいいです。

「仕事復帰するために散歩をしている」という方も多いですが、見回りの仕事など、歩行することが仕事でない限り、それは社会復帰を遅らせるリスクになることはあっても、早めることにつながりません。
(なお、近くに日光浴スポットがある場合には、積極的に日光浴はしてもいいと思います。)

勉強も同様です。リモートの授業は受けられると思いますが、リアル登校はかなりリスクになると思います。

入浴はある程度できることが多いと思いますが、だるくならないように、疲れないようにという工夫が必要だと思います。
普通にドライヤーを使うのはまだ無理だと思うので、器具を用いてドライヤーを固定して使うか、ご家族にお願いするかするとよいでしょう。

PS 3 全身倦怠感のため、月に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である

在宅の仕事であれば、たいていの仕事ができることが多いレベルです。
可能であれば、20分仕事をするたびに5分休ませてもらうなどの工夫をするとよいでしょう。
短時間で判断を求められるような仕事、長い面談やミーティングがある仕事だと、難しいことがあると思います。
このレベルでも、画面を見ることがつらい方は結構いて、その場合には、やはり業務が難しい場合が多いです。
通勤が必要な場合でも、歩いて5分の所に事務所があって、3~4時間の事務作業をするだけ、といった場合には、就業が可能な場合があります。
(このあたりはケースバイケースです。)

入浴はそれほど問題にならないことが多いかと思いますが、だるくならないように、疲れないように気を付けることが必要なことは変わりません。
また、いろいろと余裕感が出てきて注意が緩みがちになりますが、食事などに気を付けないと、胃酸逆流がひどくなって復職が遠のいたりしがち。
こちらの動画( https://youtu.be/fySiMZvBF4U )などをよく見て、胃酸対策もばっちりしていきましょう。

あと少しで復職可能なところですので、気を緩めず、頑張ってください。

PS 2 通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、全身倦怠感の為、しばしば休息が必要である

通勤が片道40分以内で、デスクワークなら、たいていは復職できるレベルです。
欲張って片道1時間や体を動かす系の仕事で復職すると、ほとんどの場合、症状が悪化します。
「多少のことは頑張れる」と無理をして悪化させがちなレベルでもあるので、重々注意してください。

軽い運動ならできますが、ジョギングなどはまだ早いです。
したくなりますが、するのは負ける確率の高い博打。
PS1まで回復すれば、比較的安心して動けるようになりますので、もうちょっと我慢してください。

なお、このPS2がPS1になるまでの距離は、治療的にはそれほど遠くないのですが、できることには割と雲泥の差があります。
もうちょっと我慢すればできるようになるのに、待ちきれずに無理をして、一気にPS4くらいまで悪くなるというケースが頻繁にあります。
本当にしんどいと思いますが、頑張りましょう。

症状的には、軽い仕事でも疲れて休まなくてはいけないうちは、PS2以上です。

PS 1 通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、疲労を感ずるときがしばしばある

ちょくちょく疲れを感じるが、休まなくても大丈夫なレベルです。このレベルになって、初めて体を動かす系の仕事が可能になります。
保育士、看護師、ずっと立っていなければいけない接客業、物を運ばなくてはいけない業務などが該当します。
もちろん、このレベルになっても、いかに疲れないように働くか、だるくならないように生活するか、という探求をやめてはいけません。
どうやったら楽をすることができるかを探求するのが「仕事」の一部です。がんばってください。

PS 0 倦怠感がなく平常の社会生活ができ、制限を受けることなく行動できる

ほとんど何も気にせず生活することができるレベルですが、念のため禁酒し、無理を避けるようにしておく方が無難と考えます。

用語集

クラッシュ:
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)では、許容量を超えた運動、ストレス、頭脳労働で「クラッシュ」という現象が起きます。定義は非常にあいまいですが、簡単に言うと数日間寝込んでほとんど動けなくなる状態のこと。当院ではトイレや食事以外、ほとんど何もできない状態が3日間(72時間)以上続くものをクラッシュと呼び、72時間未満のものは「プチクラッシュ」と呼んでいます。プチクラッシュであれば、病気に対してそれほど大きな影響が出ることは少ないですが、クラッシュは病気が悪化してしまうことが多く、可能な限り避けなければいけません。
 
PEM(Post-exertional malaise)、PESE(Post-exertional symptom exacerbation):
軽い労作後や、ストレスのあと、5時間~48時間後に急激に強い倦怠感他の症状が出てしまう状態のことです。近所への買い物や、パートナーとの喧嘩などの後、直後は大丈夫だが、その数時間後または翌日になってから、急激にだるくなる、などが典型的な症状です。
PEMがある場合(=ME/CFS傾向がある)は、少しの無理で急激に寝たきりの方向に行きがち。逆に、PEMがない場合(=ME/CFS傾向が「まだ」ない)は、まだ少し余裕があります。しかし、「だるくなること」を続けるとPEMが出てきてしまうことがあるので、やはり疲れることは避けるよう意識することは、非常に大切です。
厚労省の「罹患後症状のマネジメント」などでは、PESEという用語が使われていますが、PEMと同じ意味です。
 
ペーシング:
クラッシュが起きないように、疲れないように、患者自身が自身の状態をよく観察しながら、ペースを調整することを「ペーシング」と呼びます。当院では、「だるくなることを絶対にしない」「疲れることをしない」ということを繰り返しお伝えしています。
 
N蛋白のIgG抗体:
新型コロナワクチンではN蛋白のIgG抗体は産生されないので、これが高値になれば、新型コロナに感染した可能性が高い、と判断されます。これが陰性でも、かかっていないことの証明にはなりません。
 
S蛋白のIgG抗体:
新型コロナ感染でも、新型コロナワクチンでも産生される抗体です。これが陰性でも、かかっていないことの証明にはなりません。

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