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オンライン診療における本人確認と認証(1)〜医師等資格確認検索

日本医師会の本人確認への提言

2020年10月7日に、日本医師会から「オンライン診療時の医師資格と本人確認について患者の安全・安心を確保するための提言」が発表されました。
その内容は、概ね、以下のようなものです。

・医師の資格確認については、HPKIカードの画面提示を原則とすべき。
・HPKIカードは、医師資格・本人確認に、最も適している。
・患者の本人確認は、運転免許証等の顔写真付き証明書の画面提示を原則とすべき。
・事業者は、顔写真付きの身分証明書と医籍登録年を常に確認できる機能の提供を徹底すべき。

医師になりすます不正ユーザがオンライン診療に介在した場合の健康被害のおそれと結果の重大性を考えれば、日本医師会が「医師資格と本人確認を徹底すべき」というメッセージを出すことは至極当然です。
一方で、日本医師会や厚生労働省が要求する医師資格・本人確認の方法論について、実質的な妥当性があるのかは検証の余地があります。

まずは、これまでの医師資格・本人確認がどのようなものであったのかの振り返りから始めようと思います。

網羅性のない「医師等資格確認検索」

現在、厚生労働省は、医師・歯科医師の資格確認のために「医師等資格確認検索」を提供しています。これは医師法第30条の2が定めているもので、法律上は唯一の医師の資格確認の仕組みです。

第三十条の二 厚生労働大臣は、医療を受ける者その他国民による医師の資格の確認及び医療に関する適切な選択に資するよう、医師の氏名その他の政令で定める事項を公表するものとする。

普通に考えれば、医師等資格確認検索で医師の氏名を検索すれば、問題なく医師の資格確認ができそうに思えますが、現実はそうではありません。理由は、すべての医師が医師等資格確認検索で検索可能とはなっていないためです。

医師等資格確認検索は、医師法が医師に課している2年に一度の届出(医師法第6条第3項)の情報に基づいているので、本来は網羅性があるはずなのですが、この届出を怠っている医師は医師等資格確認検索で確認することができません。この届出義務の違反には、50万円以下の罰金という罰則(医師法第33条の2第1号)もあるのですが、厚生労働省が「当検索システムへの掲載を希望される未届出の医師」という言い方をしていることを踏まえれば、あまり厳密な運用にはなっていないのでしょう。

第六条
3 医師は、厚生労働省令で定める二年ごとの年の十二月三十一日現在における氏名、住所(医業に従事する者については、更にその場所)その他厚生労働省令で定める事項を、当該年の翌年一月十五日までに、その住所地の都道府県知事を経由して厚生労働大臣に届け出なければならない
第三十三条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
一 第六条第三項、第十八条、第二十条から第二十二条まで又は第二十四条の規定に違反した者

加えて、届出を怠っていなくても、医師等資格確認検索は氏名が完全一致しないと検索できない仕組みのため、届出後2年以内に婚姻等で改姓した医師についても確認することができません(ただ、こちらは改姓前の氏が戸籍一部事項証明書等で確認できれば補完できる範囲ではあります。)。

従って、医師等資格確認検索で確認できないからといって医師の資格がないとは言い切れないため、医師資格確認の現場では医師等資格確認検索はあまり使われていません。

より適切な医師の資格確認手段を模索することも重要ですが、罰則もある現制度を完全に運用できていない中でHPKIカードの義務化を掲げても、完全普及の実現可能性に疑問符が残るような気がしてしまいます。

(追記:なお、HPKIカードの携帯義務化には賛成です。そのことはまた書きます。)

(つづく)

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