令和5年司法試験再現答案 商法(当日評価A)

 再現答案を時季外れに晒すシリーズ最終回です。もうしばらくお付き合いください。
 前投稿の民法と同じく、母校の合格者講義で使用したものです。作成時期や条件は民法と同じです。
 当日の点数は60点ぐらいだと思います(民事系が180点ぐらいで評価が3科目同じだったので、単純に割って計算してます)。参考になれば幸いです。

第一 設問1
 1. 小問(1)
 (1)GはAに対し、847条2項[d1] による責任追及の訴えとして、423条1項に基づき損害賠償を請求することが考えられる。Gは平成30年1月中旬ごろ、甲社の株式を1万株取得しているから「株主」であるといえる。

 (2)423条1項に基づく損害賠償が認められるための要件は、①役員等であること、②任務懈怠が認められること、③損害が発生していること、④②③の間に因果関係が認められることである。
 ①Aは甲社の代表取締役であるから、「役員等」にあたる。
 ②Aは甲社の代表取締役として、甲社の資金を適切に運用し、財産購入の際には目的や価値を考慮して適切な価額で購入する善管注意義務[d2] (355条)を負う。
 Aは本件土地につきEとトラブルになり、甲社を代表して5000万円で本件土地を購入した。しかし、本件土地の購入はAの個人的な事情によるもので、甲社の事業とは関係がない行為であり、本件土地は本件売買契約後も甲社で利用されることなく放置されている。加えて、本件土地の評価額は高く見積もっても1000万円程度であり、Aもそれを知っていたにもかかわらず、甲社は本件定期預金を取り崩して得た5000万円で本件土地を取得している。差額の4000万円の出費は、本件土地の購入がEとの関係を断つためのものであることを考慮しても、正当化されるものではない。
 したがって、Aは使用目的が定まっていない本件土地を、本来の評価額より4000万円高い金額で購入していることから、甲社の資金を適切に運用していないといえ、善管注意義務違反が認められる。
 ③本件売買契約により、甲社には本件土地の代金と本来の評価額との差額4000万円の損害が発生している。
 ここで、甲社の経営は順調であり、本件売買契約締結後も運転資金が枯渇することはなく、近い将来に甲社が資金繰りに困ることが予想される状態ではなかったことから、甲社には損害が発生していないとのAの反論[d3] [d4] が考えられる。しかし、甲社で利用しない土地を本来の評価額からはるかに高い金額で購入したことにより、本来甲社にあるべき金銭が流出したといえるから、甲社の経営が順調であったとしても、上記損害は発生したものといえる。Aの反論はあたらない。
 ④上記4000万円の損害は、Aが甲社を代表して本件売買契約を締結したことにより生じた損害であるといえるから、Aの任務懈怠と損害の間には因果関係が認められる。

(3)以上より、GはAに対し、423条1項に基づく損害賠償を請求することができるから、Gの請求は認められる。

2. 小問(2)
 (1)乙社はAに対し、本件売買契約を締結したことにより弁済ができなくなった本件債務3000万円につき、429条1項に基づいて損害賠償を請求することが考えられる。
 (2)429条1項に基づく損害賠償請求が認められるためには、①会社に対する任務懈怠[d5] 、②①についての悪意または重過失、③第三者における損害の発生、④任務懈怠と損害の間の相当因果関係が必要である。
 ④について、429条1項の趣旨は株式会社が経済社会において重要な地位を占めていること、その株式会社の活動はその機関である取締役の職務執行に依存するものであることを考慮し、第三者を保護する点にある。ゆえに、取締役が悪意又は重大な過失により善管注意義務に違反し、これによって第三者に損害を生じさせたときは、任務懈怠と損害の間に相当の因果関係があるかぎり、第三者の損害が任務懈怠から直接発生したか、間接的に発生したかを問わず、損害賠償の責任を負うと解する。

 (3)①代表取締役はその職務執行にあたり、健全な資金調達方法を用いて株式会社の業績を向上させ、悪化した場合は抜本的対策を含めた適切な措置をもって回復に努める内容の善管注意義務を負う。
 Aは本件債務の発生当時、現時点で運転資金が足りなくなることはないものの、本件債務を含む甲社の債務履行のための運転資金が足りなくなれば、本件定期預金を取り崩すか担保に入れることにより対応することを予定していた。しかし、Aは本件売買契約を締結し、本件定期預金を取り崩して支払いを行ったことによって、甲社を実質的な債務超過に陥らせた。また、本件土地には担保的価値がないために短期の融資を受けることも出来ず、甲社は平成30年5月ごろには、事業活動を継続することができなくなった。ゆえに、Aは甲社の緊急財源であった本件定期預金を、自己の都合により取り崩して、もって甲社を本件債務につき支払不能にしたといえるから、上記善管注意義務に違反しているといえる。
 ②Aは本件売買契約において、本件土地の本来の評価額が1000万円に過ぎず、5000万円は代金として過大であることを知っていた。また、Aは甲社の代表取締役であるから、本件定期預金の取り扱い予定についても認識していたといえる。ゆえに、Aは上記任務懈怠につき、少なくとも重過失があったといえる。
 ③本件売買契約締結により、甲社の事業活動継続が困難になったことから、甲社は本件債務の乙社への返済が実質的に不可能となった。ゆえに、乙社はAの本件売買契約締結により、直接3000万円の損害を受けたといえる。
 ④乙社に生じた損害3000万円は、Aが本件売買契約に際し本件定期預金を取り崩さなければ発生しなかったものといえるため、Aの任務懈怠との因果関係が認められる。

 (3)以上より、乙社はAに対し429条1項に基づく損害賠償を請求することができるから、乙社の請求は認められる。

第二 設問2
 1. 小問(1)
 Iは本件決議1の取消の訴え(831条1項)を提起しているが、これは認められるか。
 (1)まず、原告適格[d6] について検討するに、IはAの保有する甲社の株式4万株を、Hと準共有している。ここで、HI間では権利行使者の合意がなされていないため、Iが「株主等」に含まれるかが問題となるが、「株主等」において実際にその株主が単独で権利を行使できるかは問われていない。[d7] Iは株式を準共有とはいえ有している以上、「株主等」にあたり、原告適格が認められる。

 (2)次に、本件決議1の取消事由について検討する。
 (ア)本件株主総会1では、HI間で権利行使者の合意がなされていなかったため、一応両名に招集通知を発したところ、Hのみ来場した。そこで、Bは甲社を代表して、Hが本件準共有株式の全部について議決権を行使することに同意した。この同意が、106条但書の「同意」として有効であるかが問題となる。
 106条本文は、準共有株式の権利行使方法について、民法の共有の規定に対する「特別の定め」(264条但書)を設けたものと解され、106条但書はその文言に照らすと、会社が同意をした場合には民法の規定の特別の定めである同条本文の適用が排除されることを定めたものと解される。
 ゆえに、共有に属する株式について106条本文の規定に基づく指定および通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において、当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、株式会社が同条但書の同意をしても、当該権利の行使は適法となるものではないと解する。

 (イ)HI間では権利行使者の合意がなされていないため、本件準共有株式について106条本文に基づく指定及び通知はなされていない。そして、本件準共有株式による議決権行使は共有物の管理(民法264条、252条1項)にあたるため、行使には各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する必要がある。HとIの本件準共有株式の持分は2分の1であるところ、本件株主総会1におけるHの議決権行使は、Iの同意を得ていないものであるから、持分の過半数による決定を欠く。
 したがって、Hによる本件準共有株式の議決権行使は、251条1項に反するから、甲社による同意があったとしても違法である。

 (ウ)以上より、本件決議1には、決議方法の法令違反(831条1項1号)が認められる。また、本件準共有株式は甲社の発行済株式6万株のうち4万株を占めるから、それに基づく議決権行使の違法は重大であり、決議に及ぼす影響も否定できないから、裁量棄却(831条2項)は認められない。

 (3)Iによる訴え提起の後、本件株主総会2において本件決議2がなされ、本件株主総会1で取締役として選任されたB、H、Jが再任されている。このことから、本件決議1を取消す利益が消滅し、Iに訴えの利益がないとも言いうる。
 しかし、本件決議2は本件決議1で選任された取締役を再任するものであるところ、本件決議2においてもHはIの同意なしに本件準共有株式の議決権を行使している。ゆえに、本件決議2にも取消事由が存在するから、本件決議1を取消してもB、H、Jが取締役である事実が変わらない、という状況にはならない。[d8] 
 したがって、本件決議2がなされた後でも、本件決議1を取消す利益はなお存在するから、Iの訴えの利益は認められる。

 (4)以上より、Iの本件訴えに係る請求は認められる。

2. 小問(2)
 (1)本件訴えにおける訴えの利益は認められるか。本件訴えの係属中、B、H、Kを取締役に選任する本件決議2がなされていることから問題となる。

 (2)訴えの利益は、当該決議を取り消しても現状が変わらない場合[d9] に否定される。
 そこで検討するに、本件決議2では甲社の同意の下、HとIが本件準共有株式の議決権を共同で行使している。このような行使は民法の共有規定にしたがったものであるから、当該行使は106条但書により適法である。ゆえに、本件決議2に取消事由はない。
 本件決議1で選任されている取締役はB、C、Dであるところ、C、Dは本件決議2で再任されていない。また、再任されたBも適法な本件決議2で選任されているため、本件決議1での瑕疵が治癒されているといえる。

 (3)ここで、本件決議1を取消すと、当時の取締役で構成されていた取締役会決議の効力も否定され、Bが代表取締役ではなくなるため、Bに本件株主総会2の招集権限があったかが問題となる。
 Bは本件決議1がなされる前から甲社の取締役であり、本件決議1が取り消された場合も、346条1項により取締役としての権利義務を有する。そして、甲社には株主総会の招集権限を代表取締役に限定する定款がないため、299条1項により取締役にも株主総会の招集権限が認められる。
 したがって、Bは本件決議1が取り消されたとしてもなお招集権限を有するから、本件株主総会2の招集手続に違法はない。

 (4)以上より、本件決議1が取り消されたとしても、適法な本件決議2が存在することによって取締役がB、H、Kであることに変わりはないから、本件決議1を取り消す利益は消滅したといえる。
 よって、本件訴えに係る訴えの利益は認められない。

以上

 [d1]非公開会社であるため。

 [d2]当該役員がどのような義務を負うのか、具体的に書く(ぼんやりしたものでもよい)

 [d3]そうか????
 Aの反論を入れないといけないので無理やり入れた

 [d4]多分、直接損害と間接損害(小問2)の対比を書くべき

 [d5]経営判断原則を書いてもよかったかもしれない。

 [d6]ここは特に再現度が低い。何を書いたらいいかわからないが、ここを認めないと先に行けないのでどうにかして原告適格を認める必要がある。

 [d7]全ての議題につき議決権行使できない株主に原告適格がないことを考えると、結構苦しい反論。

 [d8]ここの書き方はかなり悩んだし、当日どう書いたかがメモにあんまり残っていないので、再現度が低い。

 [d9]当日はさすがにもう少しマシな言い回しをしていた気がする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?