令和5年司法試験再現答案 租税法(55点ぐらい)

 時期を完全にミスった感じはありますが、とある方が再現答案をポストしていたので、手元にある再現答案をさらしておきます。
 去年11月末ごろ、出題趣旨・採点実感、予備校などの解説を見ず、六法と当日持って行った論証、答案構成用紙を参照して作成しました。
 租税法は受験生が少ないので、需要がどれぐらいあるかわかりませんが、参考になれば幸いです。
 当日点は56.81点です。

第1問

第一 設問1
 1. 小問(1)
 (1)給与所得(所得税法28条1項)
 AはC社の取締役を務めており、C社との雇用契約またはこれに類する原因に基づき、C社の指揮命令に服して提供した労務の対価として、報酬2100万円の支払を受けている。
 ゆえに、Aが受けた報酬2100万円は給与所得にあたる。

 (2)新株予約権の行使により得た所得
 Aは令和3年2月1日、本件新株予約権100個を行使し、C社株式1万株を取得した。行使にあたり、Aは500万円を払い込んだ。これによりAが得た所得がどの所得分類に当たるかが問題となる。
 Aが平成25年4月1日に取得した新株予約権は、譲渡・質入れが禁止されていることから、いわゆるストックオプションにあたる。これはAがC社との雇用契約またはこれに類する原因に基づき、C社の指揮命令に服して提供した労務の対価として付与されたものであるから、給与所得にあたる。
 そして、Aは新株予約権を行使して株式を得ることで初めて経済的利益を得ることができるから、所得は新株予約権行使時に発生すると解する。そして、所得金額は行使時の株価から、行使価額を除いた金額になると解する(施行令84条2号)[d1] 。
 Aが本件新株予約権を行使した令和3年2月1日時点でのC社株式の株価は1500円であり、AはC社株式を1万株取得したから、Aが行使により得た株式の株価は1500万円となる。そして、Aは行使に当たり500万円を払い込んでいるから、本件新株予約権の行使によるAの所得金額は1000万円になる。

 (3)結論
 以上より、令和3年分のAの総所得金額は、3100万円となる。

 2. 小問(2)
 (1)給与所得
 AがC社取締役として得る報酬2100万円は、先述の通り給与所得となる。
 
 (2)譲渡所得(所得税法33条1項)
 Aは令和4年1月20日、C社株式1万株をその時点の相場価格である1株当たり1800円で売却するとともに、証券会社に対して株式売買手数料20万円を支払っている。
 AはC社株式という「資産」を、取得から約1年で譲渡しているから、その対価は譲渡所得(33条1項1号)に当たる。
 譲渡所得の金額は、譲渡所得の総収入金額から当該所得の起因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額、および特別控除額50万円を控除した金額となる(同条3項、4項)。ここで、「資産の取得費」とは、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の合計額を指す(38条1項)。
 AはC社株式の売却により、対価として1800万円を得ている。AはC社株式を新株予約権の行使により取得しているところ、行使時に払い込んだ500万円は、C社株式の取得に要した金額であるといえる。さらに、AはC社株式売却の際に株式売買手数料20万円を支払っており、これは資産の譲渡に要した金額といえる。
 したがって、AがC社株式売却により得た譲渡所得は、1800万円-(500万円+20万円+50万円)=1230万円である。

(注:私は簡易な計算ミスを結構やってしまう人間なので、計算式も答案に書いて、その過程で検算をする手法を採っていました。必ずしもこうすべきという趣旨ではありません。)

 (3)結論
 以上より、令和4年分のAの総所得金額は、3330万円である。

第二 設問2[d2] 
 1. 小問(1)
 本件解決金に係る所得は、非課税所得に当たるか。施行令30条2号、3号の解釈が問題となる。
 (1)施行令94条1項該当性
 所得税法9条1項18号、施行令30条2号、3号では、損害賠償金や保険金、見舞金を非課税所得としているが、施行令94条1項にあたるものは除外されている。
 そして、施行令94条1項2号は、業務を行う居住者が、当該業務の全部又は一部の休止、転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するものについて、当該業務に係る収入金額とすると定める。
 BはAから賃借した甲建物において小料理屋を営んでいたから、Bは事業所得(27条1項)を生ずべき業務を行う居住者にあたる。
 AがBに支払った解決金300万円は、当初什器や食材の廃棄による損失や転居費用及び新たに店舗を借りるための敷金などの名目で立退料として請求していたものを、Bが令和2年中に廃業しようとしていることを考慮して減額したものである。本件解決金はBの事業の全部の廃止により発生するBの負担を補償する性質を有するが、Bは事業の廃止によりこれ以上事業に係る収益を得ることはないから、「当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの」とはいえない。
 したがって、本件解決金は施行令94条1項2号にあたらない。

(2) 施行令30条3号該当性
 本件解決金は、先述の通り什器や食材の廃棄による損失を補償するものであるが、特に内訳は定められていないため、棚卸資産につき損害を受けたことにより取得する見舞金(30条2号)とするよりも、「資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金」(30条3号)にあたるとすることが妥当と解する。

 (3)結論
 したがって、本件解決金は施行令30条3号にあたるから、所得税法9条1項18号により非課税所得となる。

 2 小問(2)
 Bは本件解決金に係る所得が非課税所得にあたり、過大に納税していると考えた場合は、所轄税務署長に対し、税額等の計算に誤りがあったことにより納付すべき税額が過大であるとして、国税通則法23条1項1号に基づく更正の請求をすることが考えられる。
 これに対し、所轄税務署長はBに対し更正(23条4項、24条)処分を行うか、更正をすべき理由がない旨をBに通知する(23条4項)。[d3] 
                                以上

第2問
第一 設問1
 1. 小問(1)
 Aは令和3年10月1日、甲土地及び乙土地をE社に全部包括遺贈した。これは、「無償による資産の譲受け」(法人税法22条2項)にあたるから、令和3年10月1日時点での甲土地及び乙土地の時価合計6000万円が、令和3年度のE社の法人税において益金に算入される。

 2. 小問(2)
 所得税法59条1項1号は、居住者が法人に対し遺贈をした場合、その時における価額に相当する金額によりこれらを譲渡したものとみなす旨規定し、同法60条1項1号は、上記の場合の譲渡所得の金額について、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす旨規定する。
 AのE社に対する甲土地及び乙土地の遺贈は、59条1項1号における「遺贈」にあたるから、Aが甲土地及び乙土地を購入する際に支払った額の合計4000万円は、取得費としてE社に引き継がれるものと解する。
 したがって、E社が取得した甲土地及び乙土地の取得価額は4000万円となる。

 3. 小問(3)
 AはE社に甲土地及び乙土地という「資産」を譲渡している。そして、先述の通りAは59条1項1号により、遺贈時にその当時における価額に相当する金額でこれらを譲渡したものとみなされるため、Aには6000万円の譲渡所得(所得税法33条1項)が発生する。
 ここで、資産の取得費(38条1項)が問題となるが、60条1項1号により、Aは引き続き甲土地及び乙土地を所有するものとみなされるため、取得費は控除されないと解する。
 したがって、本件包括遺贈により、Aには6000万円の譲渡所得につき課税される。

第二 設問2
 (1)益金
 E社のBに対する乙土地の譲渡は、Bの遺留分侵害額請求権に基づく3000万円の支払請求の代物弁済としてなされているから、「有償による資産の譲渡」(22条2項)にあたり、E社が支払いを免れた3000万円について、E社に益金が生じる。
 ここで、この益金がどの年度に属するかが問題となる。
 22条の2第1項は、益金の算入時期について、資産の販売等に関する目的物の引渡の日の属する事業年度に算入すると定める。
 E社がBに乙土地を譲渡したのは令和4年6月25日であるから、上記益金は令和5年3月期に算入される。

 (2)損金
 E社はBに対し、Bの遺留分侵害額請求権に基づく3000万円の支払請求の代物弁済として、乙土地を譲渡している。これは、E社にとって「損失」(22条3項3号)にあたるから、乙土地の時価3000万円が損金に算入される。
 ここで、この損金がどの年度に属するかが問題となる。
 損金の計上時期は、22条4項が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算すべきとしていることから、損金の実現があったとき、すなわちそれをもたらす権利が確定した時の属する年度に計上すべきであると解する(大竹貿易事件)。Bに対する遺留分侵害額請求権に基づく支払義務は、令和4年6月10日にBE間で合意がなされた時点で確定したとみるべきであるから、上記損金は令和5年3月期に算入されるものと解する。

 (3)結論
 以上より、E社のBに対する乙土地の譲渡については、益金と損金が3000万円ずつ発生するから、所得は発生しない(22条1項)。

第三 設問3
 1. 小問(1)
 Dに報酬の一部として丙家屋を無償で使用させたことにつき、E社は丙家屋使用相当額を、役員給与として損金に算入することができるか。
 DはE社の代表取締役であるから、「役員」(2条15号)にあたる。
 役員給与のうち、定額同額給与(34条1項1号)にあたるかを検討するに、法人税法施行令69条1項2号は、継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるものを定額同額給与としている。
 Dは丙家屋を令和4年3月1日から令和5年3月31日まで、継続的に無償で使用している。また、この期間の間に丙家屋と同等の家屋の賃料相場が大きく変動するような事情はないから、供与される利益の額は毎月おおむね一定であるといえる。
 ゆえに、Dによる丙家屋の無償使用は、定額同額給与として損金に算入することができる。よって、Dが丙家屋の無償使用で得た利益120万円は、令和5年3月期の損金に算入される。

 2. 小問(2)
 Dによる丙家屋の無償使用は、役員給与としてDの給与所得(所得税法28条1項)にあたるから、E社はDから給与所得に係る所得税を徴収し、聴衆の日の属する月の翌月十日までにこれを国に納付する、源泉徴収義務を負う(183条1項)。

以上

 [d1]この条文をどのように使ったかは定かでないが、ある程度書いた後で見つけた気もするので、これぐらいしか言及していないと思う

 [d2]設問2はメモがほぼないので、ほぼ解きなおしに近い

 [d3]56条1項に還付を定めた条文があるが、見覚えがないので多分当日は書いてない

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