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難解な映画レビュー「鯉のはなシアター」

今回の難解な映画レビューは、「鯉のはなシアター」を取り上げます。
なぜなら、プロ野球球団広島カープが主題の映画にも関わらず、なんと1月26日より大阪のシネ・リーブル梅田で公開とのこと。
敵地大阪ではあっというまに公開が終わってしまうかもしれませんので、取り急ぎの紹介です!

広島のつぶれかかった映画館を、広島カープが歩んできた道のりの中での「知恵」を使って、再生させようというストーリー。
意外と「シネマクティフ」の理念と合致した話なのですよ

広島カープがどんな球団かは、映画を観ていただければ一目瞭然なので、なぜ、舞台に2016年が選ばれたのかを、補足的にお話ししたいと思います。
これを読んで映画を観れば、号泣間違いなし!!


・25分の1

プロ野球のセリーグの球団は6球団。
6分の1、つまり6年に一度は優勝できるはずです。
戦力の上下を見越しても、10年に一度くらいは優勝できるのではと考えるのがふつうだと思うのですが、この広島カープは、1992年以降の24年間、完全に優勝から遠ざかっていました。
ファンからすると優勝がどんなものかも忘れてしまうほど。
そんな25年目が、長い長い25分の1の年が2016年だったわけです。


・黒田博樹と2015年

「鯉のはなシアター」の冒頭で、広島のタクシーの運転手が、「昨日、黒田が完封してくれたんよ」と、熱く主人公に語りかけてくるシーンがあります。

カープの24年の暗黒時代の中盤(2007年ころ)、唯一のエース(この選手が投げれば、勝ってくれるだろうと思えるピッチャー)として、頑張ってくれたのが「黒田博樹」でした。
彼の夢はアメリカのメジャーリーグで投げること。
でも、彼がカープを抜けてしまったら、そうでなくても戦力の乏しかった投手陣が崩壊してしまう。
「いかないでくれ!」というファンの願いに、メジャー行きの権利を得たものの、黒田は、カープに残留することを決意します。
それでも優勝できないカープ。
夢をあきらめきれない黒田は、次の年、アメリカへ旅立ちます。
「最後はカープで投げたい」という言葉を残して。

黒田はメジャーに行っても大活躍。
メジャー7年目には、超名門チームのヤンキースの実質エースピッチャーまで登り詰め、押しも押されもせぬ大投手になっていました。
年俸も20億円以上提示される破格の選手に。
もう誰もが、黒田はメジャーリーグで野球人生を全うするのだと思った、2015年、40歳になった黒田は、
「最後はカープで投げたい」
という約束を守って、カープに帰ってきてくれたのです。
年俸は4億円。カープにしては破格ですが、黒田にとっては大幅なダウンでした。

(ちなみに、活動休止で悲しんでいる「嵐」のファンのみなさん。こういう例もあるのです。しかも彼らはまだ二年やってくれるといいました。そして、その後、大野くんはきっと帰ってきます。だって、カープファンが信じたように黒田は帰ってきてくれたんですから!)

そして迎えた2015年シーズン。
復帰の黒田に加えて、日本プロ野球界のエースに成長していた「前田健太」という両輪を抱えることができたカープ。
ファンは、今年こそ本当に優勝できると、誰もが思ってはばかりませんでした。

しかし、結果は、
打撃の不振にあえいでの、まさかの「4位」・・・。

絶望のどん底です。
これで優勝できないなら、どうやったら優勝できるんだ。
そんな絶望に追い打ちとかけるように、エース前田健太は、メジャーリーグに挑戦するためアメリカへ。
これは、一生優勝を観ることはないなと諦めたファン。

もうこんなつらいなら、ファンをやめてしまおうか、と切れかかったファンの一縷の気持ちを繋ぎ止めてくれたのは、やはり「黒田博樹」でした。
引退すると思われていた彼が、もう一年やると言ってくれたのです。


・「神ってる」鈴木誠也

そうして迎えた2016年シーズンは、前の年が嘘のように、打線が奮起し、4月、5月を終えて、前半戦は競りあいながらも、首位キープ。

そんなころのシーンが、「鯉のはなシアター」に出てきます。
それは、自宅で、試合を観戦していた八嶋智人さん演じる主人公の父親が、興奮して、液晶テレビの画面をベタベタ触りながら、「セイヤー!セイヤー」と泣き叫ぶシーン。
僕は実はこのシーンで最も号泣してしまいました。
まさに、2016年の自分のやった行動そのものだったからです。

6月17日の対オリックス戦。
8回までに0-4と負けているものの、終盤の8回9回の驚異の追い上げで追いつき、試合は延長戦へ。
そして12回にここで打てばサヨナラ勝ち(点を取った時点で勝負が決まる状態のこと)というところで出てきた選手が、「鈴木誠也」でした。

彼は、カープのスカウトチームが高校生時代から素材に目を付け、他球団よりも高評価をしてとってきた選手。
そして、カープの厳しい練習で育ってきた若手の有望株。まさに、カープの申し子のような選手です。
ファンからすると、「我が子」同然!

そして、我が子が打ったのは、、、
特大のサヨナラホームラン!
そりゃあ、テレビ画面スリスリしちゃうでしょう!
そのあと、もちろん怒られて掃除しましたけど、笑

そして、その我が子は、次の試合でも、今度はなんと、逆転サヨナラホームランを放ちます。
この試合を含み、カープは怒涛の11連勝。
首位独走を始めるのです。

ちなみに、この誠也の活躍で出てきた言葉が、2016年の流行語大賞「神ってる」。
毎年毎年、年末の流行語に対して、何が「ゲゲゲの」だ、「の」ってなんだ?聞いたことないわ!と突っ込んでいらっしゃる方も多いと思いますが、中には喜んでいる者もいるのだということをご理解いただき、温かい目で見ていただければ幸いです。


・「8.7」新井貴浩

24年の暗黒時代の間、カープは一度、1996年、最大の優勝のチャンスがありました。シーズン半ばで二位のチームと大差をつけての独走。
しかし、夏場の失速からあれよあれよと差を詰められ、最終的に、ジャイアンツに抜かれてしまうという悪夢の年。
この2016年も、まさにその悪夢の再来のように、夏場、調子が陰ってきたカープに対して、絶好調のジャイアンツの追い上げが始まりました。
そして8月5日からのジャイアンツとの直接対決3連戦。
カープは5日、6日と連敗して、とうとう尻尾に手が届くところまで追いつかれてしまいます。
迎えた8月7日(8.7)。
一進一退の攻防の中、最終回のカープの攻撃を残した時点で一点差負け。
その回も簡単にツーアウトを取られ、万事休す。
やっぱり、カープは優勝できないんだと思った刹那、
もう一人の「我が子」菊池涼介が、なんと起死回生の同点ホームランを放ちます。
そして、次のバッターも塁に出て、回ってきたバッターは、4番「新井貴浩」です。

彼は黒田と同じ時期に、打のエース「4番打者」として、暗黒時代を支えた一人です。
エースは黒田。4番は新井。この2人しかカープにはいなかったといっていいくらいの年もありました。
しかし、彼の全盛期、しかも黒田がメジャーに旅立った時と全く同じくして、敵チームの阪神タイガースに移籍してしまいます。
当時、タイガースの新井に対して、「裏切り者!」と野次ったカープファンも少なくないでしょう。
そんな彼が、タイガースで思うようなプレーが出来なくなり、退団。
拠り所を失った彼に、声をかけたのは、広島カープのオーナーでした。
そして奇遇にも黒田と同じ2015年、彼もカープに復帰しました。

帰ってきて、最初の広島マツダスタジアムでの打席。
新井は「どの面さげて帰ってきた!」と罵声を浴びながら打席に立つのだろうと想像していました。だからこそ結果で見返してやろうと。
ところが、彼に浴びせられたのは、
ファンの「おかえり!」「ありがとう!」という大歓迎の歓声。
この打席、新井さんは凡退しました。
でも、彼は言います。
一生忘れない最高の打席だったと。
これからのプレーはすべてファンを喜ばせるために捧げると誓ったと。

2016.8.7
9回2アウト。ランナー1塁。
新井貴浩は、ファンのために、思いっきりバットを振りぬきます。
そのボールはレフトへのライナー。
打球に追いつきそうなジャイアンツの野手。取られたらアウトです。
でも、この打球は、そんじょそこらの打球じゃない、新井さんがファンのために打った一打なんです。
ボールは野手のグラブ数センチをかすめて、後ろに点々と転がっていきます。
その間に生還するランナー。
ファンのためのサヨナラタイムリーヒットでした。
二塁を回ったところで雄叫びをあげる新井さん。
われわれカープファンは、その雄叫びを一生忘れません。

この試合を転機に調子を戻したカープは、ジャイアンツを引き離し本当の独走態勢に入ります。


・10001回目は来る

「鯉のはなシアター」のクライマックスは、9月10日、広島カープが東京ドームで、25年ぶりの優勝を決める日の夜です。
ここまで読んでいただいた方には、主人公に対して語りかける、チュートリアル徳井さん演じる男の「ある一言」の重さは分かっていただけると思います。

しかも、先発ピッチャーはローテーションで回っていくのですが、これこそ「神ってる」!偶然この日のローテーションに重なったのは、我らが「黒田博樹」でした。
黒田は序盤、相手にリードを許すも、「我が子」鈴木誠也の2本のホームランで逆転。
黒田はそのリードを守り、6回、ピンチを作るも、2アウト目を三振。3アウト目をセンターフライに打ち取り、マウンドを後続の投手に託します。
そして、後続の投手もしっかりとリードを守り、とうとう25年ぶりの優勝を果たすのです。
この日、メモリアルな勝ち投手になった黒田。
実は6回の2アウト目は、彼自身が公式戦で奪った日米通算10000(一万)アウト目のアウトでした。
そして続く3アウト目は、10001回目。
これが、カープの優勝を引き寄せたアウトになったのです。

ドリームズカムトゥルーの「何度でも」という歌に
「10000回だめで へとへとになっても 10001回目は 何か変わるかもしれない」
という歌詞があります。
まさに、10001回目で歴史を変えてみせた「黒田博樹」。
本当に10001回目は来るのです。


ここまで読んでくれた人はいるのかな?
いないでしょうね、笑
もしいらっしゃいましたら、もしかしたら、もっと強いチームを応援すればいいのに、と思うかもしれません。

でもね、この「鯉のはなシアター」、決して名作とは言えませんよ、そんな映画でも、僕にとっては年間ベスト10に入っちゃうくらい号泣しちゃうんです。
そして、それもある種の「豊かさ」なのではと思うのです。
30年以上カープファンをやっていなければ得られなかった豊かさ。

みなさんも、そんな自分だけの「豊かさ」映画をみつけてみてはいかがでしょうか?

text by ラロッカ

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