-2-■1975年  アンドロイドAの敗北

 変身ブームからロボットアニメブームへと移行する中「変身サイボーグ1号」のラインのニューアイテムとして1976年に発売されたのが「アンドロイドA」であった。ボディは完全に新規で、胸部カバーがスイッチで開き、中のメカを取り外して交換できる。「ニューG.I.ジョー」のリデコで発売されたフィギュアとしての「変身サイボーグ1号」の仕様を見直し、人形本体の魅力を深く掘り下げたアイテムといえよう。クリアーブラックのボディにシルバーメッキを施されたメカニックはたまらなく未来的で、股関節の構造などもハズブロ由来のものから脱却しており、ポーズも取りやすくなっている。しかし、重大な欠点も内包していたのもまた事実であった。
 「G.I.ジョー」も「正義の味方」も人気商品であったが、布製のアウトフィットやアクセサリーなどのコストダウンが難しく、単品での低価格化に苦しんでいた。そこでアウトフィットや装備品をなくし、人形単体で商品にすれば単価を抑えることができる。しかし、裸の人形をそのまま売るわけにはいかない(とはいっても欧州の「ACTIONMAN」では腰パーツを青いパンツという体で処理して素体人形を売っていたりもしたのだが)。そこで苦肉の策として生み出されたのがサイボーグという設定であった。透明成形のボディならば生々しくもなく、サイボーグという概念にもすんなりと入りやすい。この透明ボディという発想の根底にはマルサンのプラモデル「驚異の人体」や児童雑誌の内部図解などがあり、当時としてはポピュラーなものであったことは充分に想像できる。また、むき身の素体でも遊ぶことができるように独自デザインの武器セットを発売。着せ替え要素である「変身セット」はビニールにプリントすることで徹底的なコストダウンを実現。かくして1972年に発売された「変身サイボーグ1号」は瞬く間に大ヒット商品となる。
 3ヵ年計画で展開を進めていた「変身サイボーグ1号」が次なる3年を目指し、満を持して世に問うた「アンドロイドA」であるが、凝りに凝った素体であること、おりからのオイルショックによる物価上昇もあり、決してお手頃な価格とは言えないものであった。「アンドロイドA」デビューの前年である1974年に発売された「ミクロマン」が「変身サイボーグ1号」一体の価格より安い金額で人形&ビークルが手にはいり、「アンドロイドA」の「超人」や「ロボット」を買う金額があれば大型商材である「タワー基地M115」が買えてしまう。
「ミクロマン」人気の高まりは、完全に「アンドロイドA」の存在を希薄にしてしまう。そこで急遽「アンドロイドA」を「変身サイボーグ1号」のストーリーラインに組み込むことで「変身サイボーグ1号」ブランドの商品としてアピールをすることになるのだが、市場における「変身サイボーグ1号」の求心力低下を止めるこまでにはいたらなかった。

 タカラでは「アンドロイドA」を含む「変身サイボーグ1号」ライン、人気急上昇の「ミクロマン」を総合して「タカラSFランド」と命名して第3のアイテムとして「サイボーグロボット」を発表するが、サイボーグラインとの連動の難しさから「ミクロマン」ラインの商品として組み込み「ロボットマン」の商品名でリリースしている。企画段階では「V(ヴィクトリー)計画」と銘打って、「サイボーグロボット」を中核に「変身サイボーグ1号」と「ミクロマン」をクロスオーバーさせる計画であったが、最終的に1/6のサイボーグと1/1のミクロマンを同一のものとして扱うことには内部からも難色が示されたのか「V計画」は幻となった。21世紀になって、その当時の開発資料が発掘され、界隈の濃いファンを驚かせたのは記憶に当たらしい。
 「アンドロイドA」の不振の原因はこれまでのサイボーグ1号の資産、規格を捨て去ったことにもあった。タカラの商品の特徴は「リカちゃん」を例に出すまでもなく周辺アクセサリーの発売により旧製品をアップデートしていくことによって、製品寿命を延命するという手法にある。先進的なデザインセンスでまとめられ、オールインワンの魅力を打ち出しつつも過去の商品との互換性をもたない「アンドロイドA」は拡張性も乏しく「変身サイボーグ1号」の世界に組み込まれたところで付け焼刃の域を出ていないのもまた事実であった。1975年の春から発売された久々の敵キャラクターである3体の「宇宙人」も好調なセールスではあったが「変身サイボーグ1号」の世界観というよりは、折からのUFOブームを当て込んだ「宇宙人の商品」という位置づけでしかなく、ラインを再浮上させる起爆力は発揮していない。

 ここで1975年の男児玩具状況を振り返ってみたい。この年は『がんばれ!!ロボコン』が2年目に突入、春新番で『秘密戦隊ゴレンジャー』『勇者ライディーン』『仮面ライダーストロンガー』『ゲッターロボG』が人気を博し、夏には『宇宙の騎士テッカマン』、秋には『鋼鉄ジーグ』『UFOロボグレンダイザー』『アクマイザー3』が放映されており、変身ヒーローからロボットアニメへの過渡期にあたり、ポピーが打ち出した「超合金」「ジャンボマシンダー」もブランドとして完全に定着。この年の新番組はそのほとんどがポピー提供となっており、その勢いはとどまるところを知らない状あった。そんな中で異彩を放ったのがタカラが提供していた『鋼鉄ジーグ』であった。『鋼鉄ジーグ』においてタカラは磁石と鉄球による球体関節を用いた「マグネモ」シリーズを発売。ダイキャスト製の合金オモチャが市場を席捲する中、大ヒットアイテムとなってこれに対抗している。おもちゃのヒットは番組人気にも好影響を与え、タカラからは売り上げの好調なロボットマンを『鋼鉄ジーグ』の劇中で登場させる提案がおこなわれるが、最終的にコメディリリーフキャラのメカドン2号(商品名としては「コミックロボ メカドン」)ということで決着を見ている。タカラサイドの意見がスムーズに受け入れられていたらアニメロボとしては初の2号ロボ登場となったに違いない。『鋼鉄ジーグ』の商品はマグネモを中心としたライン以外にも「ミクロマン」ラインで「ミクロマン 鋼鉄ジーグ」と「ミクロマンコミックロボメカドン」を発売している。
 売り上げ好調な「ミクロマン」「マグネモ」に対して「変身サイボーグ1号」のラインは極めて難しい状況にった。1975年のカタログではタカラが推す主要10ラインのひとつとして掲載はされているものの、営業部からは「変身サイボーグならぬ返品サイボーグ」と突き上げられる始末で、店頭、流通に停滞している在庫をどうにかする必要に迫れていた。そこで開発スタッフは『鋼鉄ジーグ』の変身セットの発売を企画するが、ともすればスタートダッシュを決めた「マグネモ」ラインの勢いを削ぐ可能性もあることから、その企画は見送られている。ここでタカラは翌年度も「変身サイボーグ1号」を継続するか否かという決断に迫られるのだ。

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