第7話 坂本と内川

無政府状態は長く続かなかったが次に就任した総理により国民は監視下に置かれたといってもいい状態になった、とアサミはいった。

「学校の授業で私も習ったけど、大昔に世界規模の戦争があったわね。1910年代と30年後代。特に30年代後期のあの頃のような、むしろ、あの頃より酷いかもしれない」

それは言論統制、表現の自由が奪われた時代。民主国家のはずのこの国、未来でなにが起きるのか?

「少し前の時代、世界的なパンデミックで行動制限されたこともあったでしょ。それがもっと行きすぎた感じ」


無政府状態に近いころ出てきたのがヤツらだ、とケイはいう。はじめは俗にいう愚連隊のようなもので次第に警察でも手に負えなくなり、警察、自衛隊とは別の武装集団が組織されたとケイはいう。

巷ではこの武装した組織は治安維持軍と呼ばれ、ヤツらだけでなく市井の人々さえも抑圧をはじめた。

「酷い話だな。その治安維持軍によって国民は監視されているのか」


この軍に対する世論は批判を高めるが政府はまったく相手にしない。首相直轄とは表向きで実質的にはこの国を影で操るフィクサーが軍を掌握して、言い換えれば、首相はことこの軍に対してはなにもできないのだ。

アサミがいうには、自分たちは平和的な方法で時の政権に対峙してきた。それが次第に目障りになり圧力がかけはじめられる。それも、表向きの国家権力ではなく裏の力で。表面上は敵対してるように見せかけて、いつからか、実はヤツらは政府と繋がっている。

「自分たちの手は汚さないのはいつの時代も同じだな」

「ヤツらをコントロールしているのは実際は治安維持軍。まかりなりにも公の機関だから直接手を下すと大問題になる」


平和国家と呼ばれたのはいつのことだろう。それでも世界的に見ればまだまだ平和で安全なのかもしれない。

本当の真実はいつも国民には知らされることはないのか。

ある日、またヤツらのテロが起きた。無差別に見えるものの、明らかに標的は自分たちの代表者坂本恭一。これにより坂本は瀕死の重症を負う。ヤツらがとどめを指そうとする寸前で通報を受けた警察、救急隊が到着する。

「その時通報してくれたのがオタクだったわけ。おかげで坂本は一命を取り留めたわ」

「でも、坂本を助けたキミも狙われるようになった。それが今から3年後」

だいたいのところは分かったが、いい加減、そのオタクとかキミとか止めてくれる?

そうね。失礼しました、内川浩哉さん。


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