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とべ動物園のサルたち⑪「ブタオザル」

ブタオザル
Macaca nemestria
 Pig-tailed macaque
 以前ベストセラーになった「ホットゾーン」以来、ウィルスネタの小説がちょこちょこ登場しているが、そうした中で「キャリアーズ」は久々に強烈なインパクトを持った小説だった。スマトラ島を舞台に新種のフィロウィルスがもたらす出血熱でパニックになっていくサスペンス小説だが、その中にウィルスの媒介者として登場するのがこのブタオザルだ。エボラにしてもマールブルグにしても多くの出血熱は東南アジアやアフリカから輸入されたサルが仲介している場合が多い。実験用や、ペット用として大量に捕獲し、輸送のために一箇所に集めることによって、病気が感染する確率も発症する確率も一気に高まる。始末の悪いことに、そうなるとウィルスの株が変異する確率も上昇していつヒトに感染する凶悪なウィルスが登場しないとも限らない。自然環境にあるものに手を加えることのリスクを考えさせられる事象だ。
 余談ながら、この「キャリアーズ」には、このブタオザルを襲い、登場人物たちをも襲うワルモノとして「ヒヒ」が登場するのだが、スマトラ島にはヒヒの仲間はいない。原典を読んでいないのでなんとも言えないが、これだけの小説を書き上げた人がこのあたりを知らないはずはないので、これは単に大きいサルのことを誤訳したのではないかと思う。ただ小説の中で「バッファローのようにでかい」とか「するどいきば」というような表記があるのだが、そんなサルそのへんにいたっけか?
 ブタオザルはインド北東部からインドシナ半島、マレー半島とその周辺に広く分布し、ヒトにも比較的すぐ慣れる。現地ではヤシザルとも呼ばれ、飼いならされてヤシの実を取るのに役立っているそうだ。



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