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『リュウノヒゲ』④

 ――資格がない。そう言われた途端、ずいぶん気が楽になった。
「旅をするはずが足止めしてしまったね。申し訳ない」
 そう謝罪するオサダは微かに涙を浮かべていた。
 
 
 最後の救済措置でもここまでやる事はない。他人の人生を捻じ曲げるように、例えるなら矯正させられているような思いをしたらしい。ある人物は告発文を発表した。三尾がオサダと会ってから数か月後の事だった。
 噂は本当だった。そして直感は正しかった。この会社に関わった人物は全員洗脳されていた。詐欺集団とは違い新興宗教とほぼ同じだったという事だが、詳細を語っても理解が難しい。だから実際に誰かが確かめる必要があった。オサダはその件に関わるエージェントだったらしい。内部を偵察するために……。
 見舞いに来たように手土産を持ってきた彼は三尾の顔を見て安心したようだった。
「この前は申し訳なかった。あの会社は宗教法人にせず株式会社にしていた。それでも業績自体は悪くなかった。もしかしたら社員の誰かが勝手に始めたのが広まってしまったのかもしれない。人を幸せに導くために手段は選ばないと言えば聞こえはいい。ただ、事実として利用されているだけだろうと」
「それぐらいグレーな事件なんですね。確かに怪しい」
「街があなたを引き留めたのも何かの偶然。しばらくここに居るといい」
「……それは」
 ひとまず旅は一休みにして、オサダに同行する。
 連日関係者を当たると意外な証言が出てきた。
「おそらく、リュウノヒゲを見つけるのが目的だろう」
 中華料理店の店主はそう言い放った。客のいない店内でスマホゲームに夢中だった。リュウノヒゲ、とは一体何なのか。三尾はネット検索をするがヒットしない。リュウノヒゲ、竜のひげ、龍の髭……まったく情報がなかった。オサダは店主の証言をパソコンに打ち込む。ビジネス用のコンパクトPCはキーボードが小さく打ち込みにくい。猫背になりながらもなんとか会話と同じスピードで入力できていた。
「ああ、あとリュウノヒゲってのはめちゃくちゃ高く売れるらしい。なんなんだろうな。俺も欲しいぜ」
「あんた嘘言わんの。あれは呪いの道具だよ」
「そんなことねえって。宝探しと一緒で高く売るために探してんだ。その、株式会社〇〇が」
 喧嘩を始めた夫婦は意見が食い違い、そのまま違う話に移ってしまった。これ以上聞いても仕方がないとオサダは出口へ向き直る。三尾も心配していたが収集がつかず何も言わずその場を後にした。
 しかし、リュウノヒゲが目的で組織が構成されているとなると、もしかしたら人員育成をしているのもかもしれなかった。構成員が全国を探し回っている。どちらが正しいのか。ただ洗脳されて利用されているのならまだしも、宝探しの人員育成となれば話は別だ。もう少し調べる必要がありそうだった。

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