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【読者主体編】森川ジョージ『はじめの一歩』×二宮裕次『BUNGO』豪腕特別対談Vol.5

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ヤングジャンプの人気野球コミック「BUNGO」の二宮裕次先生と、言わずと知れたボクシング漫画の超名作「はじめの一歩」の森川ジョージ先生の対談第5回!一線の作家でい続けるために森川先生が意識していることとは?

変わらずいるためには、変わり続けなきゃいけないじゃない。(森川)

二宮:じゃあ、もうひとつ質問を。僕は連載7年目に入ったところなんですけど、森川先生の7年目は34、35巻の頃になります。一歩と真田戦が終わって、宮田くんがアーニー・グレゴリーと試合するところですね。この頃は、どんな感覚で描いていらっしゃいましたか?

森川:宮田と一歩を凄く戦わせたかった気がする。ただ、僕から見て「宮田が一歩と今闘ったら一歩のほうが強い」って思っちゃうと、戦わせられなくて。宮田を頑張って強くさせなきゃと思うと、漫画だから派手に描いちゃうじゃない。そのときにはもう「今やったら一歩が負けちゃうな」と感じてしまって(笑)。すると今度は「じゃあ一歩、おまえ頑張れ!」になると。

二宮:なるほど、なるほど。

森川:こういうのが続いて、なかなか対等な関係にならなくて。宮田に勝つための方策としてデンプシーロールを習得させたんだけど、結局あの技はカウンターパンチャーにとっては美味しいパンチになってしまったし…。

二宮:最後にもうひとつ。今でも新しいことを試したり、発見したりすることはありますか?

森川:変わらずいるためには、変わり続けなきゃいけないじゃない。YJというメジャー誌に載り続けるためには、自分が変わり続けなきゃいけないでしょ。集英社さんで言うのもなんだけど、週マガもメジャー誌なわけですよ。

後輩は上手いし、若い子は勢いがあるから、どんどん突き上げがくる。そこで戦って勝つためには変わり続けるしかないよね。それはいつも思うよ。ここにいたいと思うなら、変わり続けなきゃいけない。矛盾してるようだけど、胡座をかいちゃうとあっという間に終わっていく世界だから。そんな作家は何人も見てきたから。

二宮:恐ろしい世界ですよね…。森川先生は3年に一度くらいのペースで絵柄を少しだけ変えていると聞いたことがあります。これ以外に読者に飽きられない工夫などはあるんですか?

森川:週マガの読者層は高校生がメイン。なので自ずと読者は3年周期で入れ替わる可能性がある。当然、漫画を卒業する人もいるからね。だから新規の読者が入ってくるであろう4月には、必ず大きな試合をするようにしている。これはちょっと戦略的な話になっちゃうけど(笑)。

―森川先生は、「読者主体」というお考えはいつ頃からされるようになったんですか?

僕の気持ちはどうでもいいので、僕の描けるもので、望まれるものを届けたい。(二宮)

森川:ニノ(二宮)も絶対そうだと思うんだけど、打ち切りから始まってる作家って、ちょっと成功しただけで「ありがとうございます! みなさんのおかげです!」なんだよな(笑)。偉そうな態度はとってるけど、読者様に向かっては「ありがとうございます!」しかない。井上(雄彦)くんと話したときも言ってたもん。

二宮:『カメレオンジェイル』で…。

森川:『SLAM DUNK』がはじまるときは、「とにかくウケたくて全部入れた」って。不良の要素も、ギャグの要素も恋愛の要素も、バスケを無視して全部入れたって。まずは読者に認められてからバスケを描こうと決めていたらしい。やっぱり“誰が、何を、どこで”で、“何を”は一番最後だよね。

二宮:怯えています(笑)。そして凄くわかります。僕の気持ちはどうでもいいので、僕の描けるもので、望まれるものを届けたい。だから、新人さんが「自分の色を出したいんで!」とか言っていると、「そうですか。30歳になったら…」と話し出しちゃいますね。

森川:かっこいいねぇ!! なにそれ!?

二宮:しまった(笑)!

森川:続けてください続けてください、ちょっと聞きたい(笑)。

二宮:言っちゃうと、「天才ならそのままどうぞ」ですよね。「30歳になってまだ連載を取れていなかったら、一緒にお話ししましょう」と。

森川:本当そうなんだよね。デビュー作をバーンって売りたいなら、それでいいと思うけど。で、一緒にお話しすると何を聞かせてくれるんですかぁ(笑)?

二宮:森川先生に言われたことを、全部僕がコピーして伝えます(笑)。

森川:あなたの経験で話してほしいな!

二宮:いや僕の経験はちょっと。それだと僕くらいにしかなれないんで。

森川:えっ、YJってチョロかったの?

二宮:全然チョロくないですよ(笑)! 運というか、タイミングもよかったなと思います。スポーツ漫画が求められている時期でもあったので。

森川:そういうタイミングがあったのかぁ。原稿持ち込めばよかったな。

スポーツ漫画では、指導者と選手という関係性が描かれることが多いと思います。スポーツに携わる大人を作品に登場させる際に、意識していることはありますか?

そういう人たちが守ろうとしている業界の未来に茶々を入れたくないじゃない。わざわざ描く必要はないよね。(森川)

二宮:サービス業なので、望まれているもの、望ましいものなら描きますけど、そうじゃないものには触れないことにしています。

森川:僕はボクシングの理事会に出ているので、そういったスポーツビジネスの裏方にも知り合いが多いけど…とてもじゃないけど描けないことばっかりで(笑)。

ニノ(二宮)は野球選手に取材に行くだろ? 彼らの多くもきっと指導者に辛い目に遭わされた経験があると思うんだよね。でも、そういった経験を明るく話してくれるじゃない。そういう人たちが守ろうとしている業界の未来に茶々を入れたくないじゃない。わざわざ描く必要はないよね。

週マガは少年誌だからね、理想の大人と子供を描いたほうがいいと思うのよ。青年誌ではどうですか?

二宮:作中であんまりオジさんが介入してくるのは嫌かなとは思っていて、その塩梅には気をつけています。『ダイヤのA』の寺嶋先生は、そのあたりのバランスをもの凄く上手に描かれているんですよね。

森川:寺嶋と同じ雑誌で勝負したいと思ったりしないの?

二宮:『BUNGO』は週マガに持って行ったら難しかったと思ってます。僕が『BUNGO』の構想を練っていたとき、週マガには5つぐらいスポーツ漫画がありましたしね。

森川:土俵の違いはやっぱり大きいよね。

第6回に続く!

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