武蔵精密工業(7720)についてのメモ(1)

6/8 に上場来高値の2625円をつけた自動車部品メーカーである。

四季報ONLINEより会社概要。

【特色】シャフトやギア等を扱う自動車部品会社。ホンダ向けが5割。アジア、南米は2輪向けが中心【連結事業】自動車部品等・日本16(6)、同・米州22(2)、同・アジア21(6)、同・中国15(14)、同・欧州26(-4)【海外】84 <21・3>

海外売上比率が84%と高い。しかし、それにしても自動車部品メーカーがこの時期に上場来高値まで買われるのだろうかと疑問に思って少し調べてみると、面白い記事を発見した。6/7 のものである。

武蔵精密工業が人工知能(AI)を活用した事業に力を入れている。このほど不良品を見つける検査装置をトヨタ自動車に納入した。人よりも正確に不良品を発見できる。自動車部品を主力とする同社だが、これまで自社で開発してきたAIを主力事業の1つに育てたい考えだ。

武蔵精密工業の筆頭株主は本田技研工業で25.08%を持っている。つまり同社は本田系列の企業なのだが、トヨタにAIを活用した不良品の検査装置を納入したというのである。

同社のウェブサイトをいろいろと眺めているとこんなページがあった。

AIへの取り組み | ムサシのものづくり | 武蔵精密工業株式会社

「人にはもっと人らしい仕事を」を理念にAIを製造現場に実装し、ものづくりのイノベーションに取り組んでいます。
当社の製品は、搬送、加工、検査の工程を経てお客様のもとへ出荷されています。このうち、加工はものづくりの中核であり、人の技術や判断が付加価値を生むのに対し、搬送や目視検査は、決められたことを繰り返す作業で、長時間にわたる高負荷作業となっています。
しかし、本来人間は創造的な生き物です。私たちは、繰り返し作業の仕事は自動化をすることで、人間は未来に向けて新しいものを生み出したり、仕事を変革していったりする、働きがいのある人間らしい仕事ができる環境づくりに挑戦しています。今後も当社の生産拠点をはじめ世界のものづくりの現場に幅広く技術を提供することを目指します。

この手のメッセージは、「言うは易く行うは難し」なのが通例だが、同社の場合は、既にトヨタへの納品を行ってしまったようである。

同社はいつから具体的にこのAIの活用を進めていたのかというと、遅くとも同社の2019年1月の以下のリリースで発表されたイスラエルの企業と協力開発を発表したときにはかなり進めていたのであろう。

今回のパートナーシップ提携では、Industry 4.0に向けて、AIを用いた「ディスラプティブ・イノベーション」 によって、設備間ならびに設備と人間とのリアルタイムでのコミュニケーションと協働を可能にするスマートファクトリーの実現を目指し、工場用自動搬送車(SDV : Self Driving Vehicle)や、自動画像検査装置用AIアルゴリズムなどの共同開発を行ってまいります。
Ran Poliakine氏コメント:「私たちの今回の提携により、既存のものづくりにAIのイノベーションを掛け合わせることで、世界規模でのIndustry 4.0実現の機会が拡大すると考えます。大塚社長ならびにムサシの有能なチームと共同開発を行うことを光栄に思うとともに、両社の価値と専門知識が高まり本当の意味でのコラボになると思います。」
大塚浩史コメント:「新時代の製造現場では、AIの活用が重要な役割を担います。その実現に向けて、Ran Poliakine氏と自動画像検査装置用AIアルゴリズムの共同開発を行うことに大きな期待を寄せております。」

この年の9月につぎのような記事が出た。

伊作氏は「少し乱暴な試算だが」と断ったうえで、これらの作業に従事している人の割合と就業者の総数から算出すると、武蔵精密工業では約400人、日本全体では約320万人の労働力を解放することに繋がる、と分析。働き方改革やSDGsの面でも有効であり、大きな市場が拡がっている、と語った。

これって結構な市場なんじゃないの。

この年の11月に同社の大塚社長のコメントがこのNVIDIAのリリースに登場している。

武蔵精密工業株式会社代表取締役社長、大塚浩史氏は次のように述べています。
「当社の目標は、光学検査システムの品質と正確さを劇的に向上させ、Industry 4.0に向けて事業を加速させることにあります。NVIDIAのJetson Xavier NXにより、当社では、光学検査システムの規模と電力を強化する必要なく、視覚検査の能力を向上させるための演算能力を手に入れられるようになります」

ニューズウィークに以下のような記事があった。昨年の9月に出た。

同社の大塚浩史社長は「同じ部品を毎日1000個検査する作業員がいる。熟練が必要だが、決してクリエーティブではない」と話す。「そういう仕事から人間を解放したい」という。
イスラエルの起業家ラン・ポリアキン氏がもたらした技術にある。同氏はAIと、以前に同氏が医療診断技術に用いていた光学技術を組み合わせ、生産ラインの検査に応用したのだ。検査装置には不良品の見分けではなく、完全ないし完全に近い部品の見分け方を覚え込ませようという考え方に基づいている。

二つ上にリンクした同社のリリースで発表されたイスラエルのパートナーとの開発がうまく進んだことが窺われる。

武蔵精密工業は、製造現場の完全自動化をいつ実現するか明らかにしていないが、大塚社長は、AIは現地現物主義を脅かす存在ではなく、補完してくれると話す。大塚氏は「AIには不良品を見つけられても、それがなぜ生じたかが分からない。人間にしかできないことは、たくさん残る。トヨタ生産方式に代表されるような原因の追究や改善に、もっと人間が関われるようにしたい」と強調した。

単純作業から人間を解放し、その人はもっと原因の追究や改善に関われるようにしたい、というのは方向性としては正しいと自分は考える。このような経過で開発された同社の検査製品がトヨタに納入されたということは、結構なインパクトを内外の自動車製造業界にもたらすのではないだろうか。それが、自動車部品製造業のなかでいち早く同社が上場対高値を6/8に記録した一因かもしれないと思っている。

今回はここまで。同社の業績、財務、経営者についての情報については改めて別のメモとしてまとめる予定。


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