今夜は薔薇を買って

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綺麗な窪みを作っている鎖骨になだらかにネックレスの鎖が瞳の皮膚に張り付いている。薄く控えめなチェーンの中央に輝くプラチナの小さい輪。その内側のやや下に小粒のダイヤモンドが瞳と上手く調和されて美しさを引き立てて居る。先日紗江子の為に買ったこのネックレスだが、直樹は瞳に「これ良かったら使って」と帰宅するなり玄関先で靴を脱ぎながらぶっきら棒に瞳にプレゼントした物だった。そのネックレスを「奥様今そのネックレス流行ってるんですよ。私もそんなネックレス欲しいです。」と紗江子が今言うとは。やはり紗江子にあの時渡すべきだったなと後悔した。「どうもありがとう。主人からこの前頂いたんですよ。」と瞳が微笑みながら返事を返した。二人の会話がネックレスから離れてもらいたいが為直樹は「おい瞳、ワインもう空だぞ。新しいのを早く。」と大きな声で命令した。すると坂下は「先輩、何故奥さんに対してそんな風に接するのですか」と窘められた。直樹は「えっ」と驚きの声を短く出し、紗江子は「んっ」と怪訝そうに坂下の方を向き、瞳だけがワインのボトルを取りに席を立った。瞳が日常的にこういった扱いをされているのだと坂下は感じた。


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