知っていること

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すみませんでした。もう大丈夫です。幾分気分は良くなりました。何度か同じ事を聞かれたことがあってその都度胃がぐぅっと押し上げられるようなそんな感じになるんです。大分慣れましたけどまだそういう状態になるんです。

質問を変えて頂けないでしょうか?ええ、その事件の質問以外でしたら。

母ですか?今年五十七歳です。現在老人ホームに入所しています。若年性アルツハイマーを発症してからもう五年になります。隣の県に引っ越してからも教師をしてました。でも五十歳を過ぎたあたりから「もしかしたら記憶障害か鬱病かもしれない」と電話してきたんです。私は仕事が忙しく、母に「そんなに気にしなくても大丈夫だよ」と本人に会って確かめもせず気休めの言葉だけ掛けていました。今思えばもっと母に対して親身になっていればと後悔しています。まとまった休みがやっと取れて実家に帰った時に母の状態を見て、そこで初めてもう元通りには戻らないと気がついたんです。前の年、教師を辞めたこと、いえ、もう続けられるような状態ではなかったこと、早急に専門の施設へ入所したほうが良いということ。膝が震えるほど動揺したのはそれまで生きてきてこの時が初めてでした。仕事を取るか母を取るか本当に悩みました。あの時支えてくれる人が居なかったら今の自分のキャリアは築けなかったと思います。真奈美ちゃんが全て手配してくれたんですよ。施設への入所の手筈、その後の細かいケア。真奈美ちゃんの働いている施設に今も母はお世話になっています。小さい頃は私が可愛がって貰って今は母が面倒見てもらってます。そうだ、小さい時真奈美ちゃんはよく私の髪を梳かしてくれたんです。三つ編みにしたり、綺麗な長いリボンを結んでくれたり。ひらひらと長いリボンを髪に結んでくれました。

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