今夜は薔薇を買って

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「いやうちはいつもこうだから、気にしないでよ」と直樹は坂下に言い訳し始めた。「うちはね、なんていうか信頼関係が出来ているから。瞳は専業主婦だし夫を立てるの分かってる奥さんだからね。結婚してもう七年だしなあ瞳。」ボトルをワインクーラーから取り出し、顔を向けず「そうね」と短い返事が離れた所から返ってきた。「それって信頼関係じゃないと思いますけど。ただの主従関係にしか見えませんし、私が将来家庭を持つならこんな風に奥さんを扱ったりしません。」ときっぱり言った。「おい、坂下ちょっと失礼じゃないか。仮にもうちに来て他人の家のやり方否定するような事を」席を立とうとした直樹の右肩を瞳は「あなた」と後ろから声を掛け左手で押さえた。直樹は瞳の落ち着いた声を聞いて、これから瞳が俺を庇いながら坂下を非難してくれる、そして結婚式の相談はまた今度、いやそれか媒酌人の話は無くなったなと一秒で頭の中で纏めた。「あなた、坂下さんの言う通りよ。」瞳はゆっくり落ち着いた口調でそう言った。思いもしなかった瞳の応えがまさか自分を非難しようとは。「おっお前・・・今なんて言った?」直樹は震える口元を押さえようとナプキンを取ろうとしたが上手く取れず床に落とした。それを拾いあげた坂下に「ありがとう。坂下さん」と瞳は右手でナプキンを受け取った。そのお礼の言葉は直樹を打ちのめした。



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