それからのいらっしゃいませ

気持ちの良い天気 お布団ふかふか 体ゆらゆら

こんにちは。山下と申します。勉の父親でございます。ちょっとうっかり死んでしまいましてね、こうやってゆらゆら漂っているのでございます。決して怪しい者ではございません。成仏してない自縛霊じゃないです。この世に恨みもへったくれも一切ありません。ただね、ちょっと勉の事が心配でね。ちょっとどころでは無いから漂っているんじゃないのかって?仰るとおりでございます。私は勉が大学生の時に他界しました。享年48歳でした。妻は勉を出産した時に亡くなりました。妻の死因を勉には隠しておいたのですが、親戚がうっかり口を滑らせて教えてしまったんです。中学生だった勉は「どうしてお父さんが教えてくれなかったの」と私を責めました。本当の事をうっかりした人達から聞きたくなかったんでしょうね。思春期でしたしいつかは私がちゃんと言わなければと思っていたのですが。いや、結局私が悪かったと思います。反省しても死んでからは遅いんですけどね。妻が死んで五年目に子猫を拾って勉と一緒に育てました。勉と私とミチの生活は役十四年続きました。この辺今と違って山と畑しかなくって道路も舗装されて無かったですし、遠回りしてやっと駅に着いてさて都会に買い物でも行こう、そんな辺鄙な場所でした。でも運悪くミチは家の前で車に轢かれて死んでしまいました。勉と私は悲しみました。お墓を立ててお花を供えて線香を焚いて。それから今まで勉は猫を飼うことは無かったんですよ。時代が変わって今は便利になりましたね。色んな所から色んな人がやってくる。勉の時間もようやく動き出しましたよね。本当にありがとうございます。感謝しきれないです。少し眠くなりました。申し訳ないですそろそろお暇致します。どうか息子の事よろしくお願い致します。なにぶん引き篭もりが長かったせいもありコミュニケーション能力が低いかと思いますが、どうかよろしくお願いします。


猫ちゃんたちおじさんまた来るね。君達の飼い主のおじさんと同じ位の年のおじさんだけどあの人はおじさんの息子なんですよ。ごめんなさいね親馬鹿でしかも死んじゃってるのに未だに心配なんです。可愛い息子なんですよ。そら、ご飯の時間だからいってらっしゃい畠山君が待ってるよ。完全に成仏するまでちょくちょく遊びに来ますからね。ミチ、ミチやおいで帰るよ。そういい子だね。また遊びに来ようね。

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