いらっしゃいませ

家の門の前に半年程ずーっと犬の糞がゴロゴロ、おしっこシャーの形のまんま残ってて毎朝新聞取りに行くたんびそれみて憂鬱だったんですよ。十年程前土地開発でうちの山が買われて隣にあった土地をちょっと買ったんです。家も庭も広くして外から覗かれないように大きな塀も作ったんです。御影石で作った大きな門と玄関まで敷かれた御影石が気に入ってるんです。困ったなあ。なんとかならないものかなと知恵袋に相談したり、発言小町に愚痴書いてたりしてたんですけど何の解決にもならないままだったので思い切って家の門の前に鈴蘭とカスミソウの花束を置いたんです。そしたら効果てきめん。置いたその日から糞とおしっこは無くなりました。やっぱり若い人の意見もたまには聞いてみるもんですね。道を挟んだ前のアパートに住んでいる大学生の男の子からアドヴァイスされたんです。近所の居酒屋で偶然会って顔見知り程度だったんですけど話し掛けられて「いつもゴミ置き場で挨拶させて頂いてます」って。礼儀正しくって感心しました。畠山君は隣の駅にある大学の経済学部二年生なんです。畠山君は困ったことを相談するたび良いアドヴァイスをくれるのです。経済が潤滑に回るためにはある程度の犠牲はしょうがないって畠山君は教えてくれました。言ってる事は分かるんですけど土地開発がされるまでここは静かな田舎だったのです。いまじゃ駅前にマンションやら戸建やら大型スーパーやらが増えて。建物や人が増えるのは良い事なんでしょうけど私は静かに暮らしたいのです。

困ったなあ。家の門の前に今日も花束が。昨日は百合の花束。今日はチューリップ。畠山君の「家の門に花束置いておけば事故現場だと思って粗相をさせないよう飼い主も気をつけますよ」のナイスアイディアが別方向に行ってる。多人の気持ちを踏みにじっているような気がしてどうしたらいいのか。そこでまた畠山君に相談しました。「門の前に看板を立てましょう。お気持ちだけで有難いです。大事な人を思い出して。命を大切にと書いて。」流石畠山君、立てた翌日から花束は無くなりました。

困ったなあ。本当に困ったなあ。新聞を取りに行くと子猫が5匹ダンボールの中に入って鳴いている。しかも看板の下に。誰が捨てたんだろう。命を大切にって書いてあるのに捨てて行くなんて。道路が目の前にあるのに、今にも雨が降りそうなのに、まだ目も開いてない子猫達なのに。ああ、畠山君助けてくれ。畠山君に電話したらすぐ着てくれた。「大丈夫、良い案がありますよ」。有難い。畠山君に任せれば良い。

困ったなあ。困ったんだけどまあいいや。畠山君のアイディアで猫カフェやることになりました。家は広いし元々私独りしか住んでなかったのでリフォームした部分をカフェ用に改造し直しました。昔飼っていたミチを思い出します。ああ猫って柔らかくって暖かいぐんにゃりした生き物だった事を。独りで住んで生きるより猫達と一緒に暮らした方が楽しいですからね。畠山君が高校生時代猫カフェでバイトしていた経験もあってノウハウもあるから本当に助かってます。今彼は店長として働いてます。新興住宅の人達が主なお客様でリピーターになってます。大事なお客様です。それから捨て猫を減らす団体に定期的に寄付出来るようになりました。結構な金額寄付してくださるお客様もいらっしゃるんです。そうそう家の門の前に今度は猫が捨てられるようになりました。捨てるのは良くないですけど行き場が無い猫はどうぞ私に。家の門の前ではなく御影石を渡って玄関を開いて。どうぞいらっしゃいませ。


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