いらっしゃいませお好きな席にどうぞ

ずぅっと独りぼっち これからも独りだと思ってました。

顔をぺちぺち、つま先をカリカリ、髪の毛を噛み始めたらもう寝てられないので起きることにしています。これがうちの猫達の起こし方です。いや実際にやるのは一匹だけで他の猫はおのおの好きな場所で寝てたり伸びたりよじ登ってたりしています。早いもので一号店開店から一年、畠山君が出した猫カフェのアイディアが当りに当りまくって毎日繁盛しています。半年前に作った二号店のコンセプトは「猫と貴方の生活空間」。猫好きの人はペンション風な作りとなってるカフェで泊まれる様になっています。一泊三千五百円、夕食・朝食付きだと五千円、周りに何にも無いところなんですがうちの猫目当てに遠くから着て泊まって行くんですよね。田舎の空気を吸って猫とまったりしたい方って意外と居るんですよ。初め何か特別なことを提供しなければとか、その、頂いてる料金もあることだし、畠山君にどうしたら良いか聞いたんです。そしたら彼「何も提供しない場っていうのが良いんです」って言ったんです。何のことかさっぱり意味が分かりませんでしたが、今は分かります。ぼんやりお茶を飲みながら猫を膝に乗せてスマフォを弄ってる人、本を読みながら猫と一緒に寄り添っている人。要は猫がまったり出来る場所に一緒に居れたら良いんですよね。たまに猫がパソコンの上を歩いて失礼していますが、笑って許してくれます。お店も増えたので従業員も増えました。近所に住んでる主婦の方と畠山君の大学のお友達と畠山君のお姉さんです。皆さん働き者でしかもこれからの店の展開についても意見をしてくれます。「オーナー、次の店は猫と自然食をコンセプトにロハスな猫カフェってどうですか?」とか「そろそろ猫コスプレで接客する猫カフェの時代が来るかもしれません」とかやる気のある方達なんです。意識が高いっていうんでしょうか?あ、オーナーっていうのはその、私の事です。恐縮です、何も出来ないのに名前だけですが。

うちの猫は捨て猫が中心ですが、二号店の取り組みが功を奏して引き取ってうちの家族に迎えたいというお客様が多くて十匹居た猫が今は六匹になりました。何故か愛想が良い猫ばかりで二号店に泊まったお客様のお布団に一緒に寝たり、一日中纏わり着いて情にほだされてしまうみたいなんです。きっと他所に行っても可愛がられていると思います。そうそう、一年前家の前に捨てられてた五匹の猫も三匹里親さんが見つかりました。残った二匹はうちの看板猫なんです。ルナと虎次郎。額にお月様のマークがちょこんと乗った女の子がルナ。畠山君が大好きで仕事中いつも彼の後を追ってます。虎次郎は茶色の茶トラの男の子なんですけど私にしか懐かないんですよ。座っているとこう腕の中にするりと身体を捩じらせて入ってきては膝に乗って毛づくろいをし、じっと私の目を見るんです。撫でてくれるまで私から離れません。寝る時も一緒、起きる時は虎次郎が起こしてくれるんですよ。可愛いですよね猫って。

大事な報告を忘れるところでした。私、来年の春に結婚することになりまして。お相手は二号店で店長マリさん、畠山君のお姉さんです。馴れ初めですか?いやぁ参ったなぁ。あんまり聞かないでくださいよ。また今度お話します。一年前の生活と百八十度違う世界に居るみたいで私自身、ちょっと浮かれているんです。現実なのかどうなのか疑ってしまう時があるんですよ。畠山君のお陰ですね。そうだ、彼は僕の弟になります。ご縁って面白いですよね。

ああ、すみません立ち話が長くなってしまいまして。マリさんにこういうところにもっと気を使わないとって怒られるんです。いやぁ本当にすみません。どうぞどうぞお好きな席に座ってください。


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