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M&Aと役員退職金② 別会社で前年以前4年以内に役員退職金を受け取っているときは要注意!

論点

M&Aに伴いオーナーが退任するため、対象会社から役員退職金を支給します。(入社日:2000/1/1、退任予定日:2021/11/1)

ただしオーナーは約4年前に別の関連会社を退任しており、その際に役員退職金を受け取っています。(入社日:2010/4/1 退任日:2017/9/1 退職金:300万円)

今回の退職金の税金計算をする際に、退職所得控除額はいくらになるでしょうか?

回答

前年以前4年以内に別会社から退職金を受け取っている場合、重複期間の退職所得控除は使えないため、660万円(940万円ー280万円)となります。

考察

「前年以前4年以内」に退職金を受け取っている場合、退職所得控除は重複期間は使えなくなるという特例があります。(所得税法30条6項、所得税法施行令70条1項2号)

この規定の趣旨は、とりあえず複数の会社を設立して役員になっておけば、退任時にそれぞれの会社から退職金を出すことで、退職所得控除の総額を簡単に増やせてしまうためだと思われます。

まず、退職所得控除の規定が所得税法30条3項にあります。



所得税法30条3項
3 前項に規定する退職所得控除額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
一 政令で定める勤続年数(以下この項及び第7項において「勤続年数」という。)が20年以下である場合 40万円に当該勤続年数を乗じて計算した金額
二 勤続年数が20年を超える場合 800万円と70万円に当該勤続年数から20年を控除した年数を乗じて計算した金額との合計額


↑退職所得控除の計算方法が載っています。勤続20年までは年40万、勤続21年目からは年70万ずつ増えていく例のやつですね。

そして、6項で今回の特例がお出ましです。



所得税法30条6項1号
6 次の各号に掲げる場合に該当するときは、第2項に規定する退職所得控除額は、第3項の規定にかかわらず、当該各号に定める金額とする。
一 その年の前年以前に他の退職手当等の支払を受けている場合で政令で定める場合 第3項の規定により計算した金額から、当該他の退職手当等につき政令で定めるところにより同項の規定に準じて計算した金額を控除した金額


つまり、前年以前に別会社から退職金を受け取った場合には、
「通常通り計算した退職所得控除額から、政令で定めた規定に準じて計算した金額を控除せよ」と言っています。

で、この政令というのが、所得税法施行令70条です。

所得税法施行令第70条1項1号  退職所得控除額の計算の特例




所得税法施行令70条
法第30条第6項第1号(退職所得)に規定する政令で定める場合は、次の各号に掲げる場合とし、同項第1号に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、当該各号に定める金額とする。
(省略)
 その年の前年以前4年内()に退職手当等()の支払を受け、かつ、その年に退職手当等の支払を受けた場合において、その年に支払を受けた退職手当等につき第69条第1項各号の規定により計算した期間の基礎となつた勤続期間等()の一部がその年の前年以前4年内に支払を受けた退職手当等()に係る勤続期間等()と重複している場合 その重複している部分の期間を法第30条第3項の勤続年数とみなして同項の規定を適用して計算した金額


ちょっと長文で読みづらいですが、
「前年以前4年以内に退職金を受け取っており、勤務期間に重複期間がある場合は、その重複期間を勤続年数とみなした退職所得控除額」が、
控除する金額になるということですね。

具体的な計算

今回の例でいくと、重複期間は2010/4/1~2017/9/1の7年間(1年未満は切り捨て)のため、退職所得控除は
40万×7年=280万 です。

※重複期間について1年未満を切り捨てるのは所得税法施行令70条3項より。

所得税法施行令70条3項
(省略)
3 第1項第1号の期間及び同項第2号の重複している部分の期間に1年未満の端数があるときは、その端数を切り捨てる。

一方で対象会社の勤務期間は2000/1/1~2021/11/1で22年(こちらは切り上げ)のため、退職所得控除は
40万×20年+70万×2年=940万 となります。

よって、940万ー280万=660万が退職所得控除額になります。

終わりに:覚え方

ちなみにこの「前年以前4年以内」という表現、ちょっと分かりづらいですよね?

例えば2021年に退職金を出すとしたら、2017年~2020年の間という意味です。

「別会社の退任日から今回の退任日まで4年経っていればセーフ」ではないので、注意してくださいね。

今回の設例のように、別会社の退任日から4年以上経っていても、「前年以前4年以内」に該当し、重複期間の所得税額控除が使えないケースがありますので。

覚え方としては、「過去4回の個人の確定申告で退職所得を申告していた場合」と覚えています。確定申告ベースで覚えておけば、勘違いしません。


ちなみに、前回の退職金支給額が退職所得控除額に満たないような場合
今回の例でいくと、前回の退職金が180万のようなときには、また別の特例があり、今回の退職所得控除額に影響があります。

そちらについては、また次回。

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