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羅小黒戦記イラスト本「いのりあやなしありあかし」解説/あとがき

先日、羅小黒戦記のファンアートをまとめた本「いのりあやなしありあかし」が完成したので、記念に本の最終解説ページに載せきれていないあとがきのようなものを書き記しておこうと思います。大変長いと思います…


1.本全体のテーマについて

中国の伝統的な文様「十二章」をテーマにしています。
本のテーマ探しとして 中国の色や模様について調べている時にこの文様を知り、かっこいい名数が大好きなのでこれだ!と思いました。
十二章に関する情報をなるべく集めるために文様の本を2冊買い(素敵な本なので後述します!)、ネットでは中国語の記事を翻訳しながら読んだりしました。情報が載っているのは200ページある本のうちたったの3箇所とかだったので頭を抱えましたが、調べものの時間も楽しかったです。

2.本のタイトルについて

普段、タイトルの類は直感的に早々に決まることが多いのですが、今回は非常に非常に難産でした…
始めから「平和への祈り/願い」「模様」の意味を織り込みたいと思っていました。有名な漢詩や四字熟語をもじったものにしようかと色々調べたのですが、ピンとくるものがなかなかみつからず…この路線は断念しました。
漢字ベースで考えて決まらなかったのでいっそひらがなにしようと思い、一見どこで区切るのかわからない まじないのようなひらがなタイトルを検討しました。
「いのり あやなし」まで決まった後、五文字かつ「i(できれば「し」)」の音で終わる単語を探して、「ありあかし」にたどり着きました。この言葉を見つけた時はしみじみしたものです。
タイトルはいつもなるべく5と7(と8)の音で構成するようにしており(語呂がいいので)、今回は7・5になっています。
また、タイトル上にくっついているマークは「祈」「綾」「有」「明」の4文字(篆書体)をグラフィックに落とし込んだものです。

3.表紙の絵について

中の絵が全部決まってから最後に描きました。最初は小黒だけを描く予定でしたが、小黒を取り巻く環境や「祈り」というテーマを考えるほど 他のキャラクターの存在が不可欠になっていきました。
“今(と、これから)”を感じるムードの絵にしたく、現時点で一番新しいwebアニメ時間軸のキャラクターたちを描いています。(映画キャラもいますが)
webアニメ時間軸なので 風息はもういません…しかしあまりに寂しかったので、風に乗る葉っぱを風息の魂の断片だと思って描きました。そして 小黒は葉っぱの存在に気がついているという描き方をしています。小黒という妖精の真芯の部分を構成するもの(=これから先の物語の根幹をなすもの)の一つとして風息の存在がずっとあり続けるはずだと漠然と感じているためです。
天虎をチラリとでもどこかに入れるべきだったと 後から思いました…きっとフレーム外にいる!


4.各絵について

【日】(無限・小黒)
・師弟の旅を描きました。小黒8歳くらい。
・最初に開いたページに 広大な風景が見開きでバーンと出てくるといいなと思いました。
・実はこの絵だけとても早く仕上がっており、去年のチームジョイのファンアート企画に送っています笑。
・描いている頃に丁度藍渓鎮で無限が棚田を歩いている描写があり、奇遇〜などと喜びました。
・中国の実在する場所にキャラクターが居る様子が描きたくて、「元陽棚田」を参考に背景を描きました。美しいところなのでぜひ調べてみてほしい!
・「日」「月」「星辰」の絵は 時代は違えど地続きの同じ世界だという意味を込めたくて、
空(「月」では水面)がなんとなく繋がるようにしています。本当になんとなくですが…!

【山】(小黒)
・故郷の森(山)でスヤスヤ眠る小黒。まだ無限と出会う前です。
・森の草花が小黒を包み込む感じというか、ゆりかごとかおくるみのような存在だったらいいなと思いながら描きました。
・手前にぼやけている花たちは 一応中国の山に生える野花を色々調べて それになんとなく似せています。(でも甘めの調べ方なので本当になんとなく)

【龍】(老君)
・どのモチーフをどのキャラで描くかを考えた時に、真っ先に決まったのがこの絵です。龍は中国で神を表すモチーフ。老君をおいて他にはいませんでした。
・文様を本のテーマにした以上、神のモチーフは安売りしたくない!と思い、他のページに龍のモチーフを使わないよう気をつけました。(他ページにはひとつも出ていない…はず)
・袖部分がユラっとなっているのは、姿形に捉われない様をなんとなく表現したかったという感じです。
・龍の鱗部分を描くのがさすがに面倒で、ショートカットできないものかと素材を色々探したのですが いいものがなくて結局自分で1枚1枚描き込んだのが思い出深い点です。

【火・藻】(玄離)
・「火」と「藻(=水)」は元々独立した文様ですが、“対になる意匠”との説明を見つけてもう玄離/阿根しかありえないではないか!!と思いました。
・作中の描写から 自分の中では火=玄離、氷(水)=阿根の印象が強く、
表に人格が出てくるときは なんというか 互いの存在を打ち破って現れているというイメージがあります。(うまく言えない)
ので、氷(阿根)を割って炎とともに現れる玄離という様子を描きました。本のあとがきに書いた「彼の印象をそのまま描いた」の意図はこういうことです。
・全体的に掛け軸の絵みたいなイメージをぼんやり持って描きました。なので線画はところどころ筆っぽくて、テクスチャには麻布っぽいものを使っています。
・この絵、一見玄離しかいないのですが、左目付近の氷に…実はよく見ると…👓

【月】(老君・清凝)
・清凝が成人する少し前くらいのイメージです。
・今は月が出て明るいけれど これからどんどん暗い深い夜がやってくる…という時間帯のイメージ。改めて言うと苦しいのですが 藍渓鎮だけは「ピカピカの明るい結末が待っている」という作品ではないかもと思っているので
そのあたりをほのめかすようなムードにしてしまいました。
・元々 絵の重心を下げる癖があり、「日」「月」「星辰」は本来“上(空)”にあるものだということでなおさら…なので、思い切って重心をあげてみました。
・婉曲的な表現がしたくて、月を直接描かず、水に映る像として描きました。
・「日」と同じく実在する場所を背景にしたくて、「九寨溝」を参考にしました。水が透き通って美しい有名な渓谷です。
・元々「藍月谷」というおあつらえむきすぎる名前の場所を見つけており ここを選んで描きたかったのですが、俯瞰構図で見せるのに不向きな地形であったことと 段々になった特徴的な地形が棚田と被ってしまい、泣く泣くやめました。

【黻】(無限)
・「ふつ」と読み、一対の弓が背中合わせになった様子を表す文様です。「黻」「黼」は 対を成す意匠というわけではないのですが、漢字の作りや音の響きがとても対っぽく、文様の意味を見た瞬間直感的に 無限が黻で風息が黼!!!となってしまいました。本のド真ん中の見開きに持って来たいなと思ったので ページネーションを調整しました。
・模様でいっぱいの絵にしたのですが、模様チョイスに拘りました。無限の服を構成する主な模様は 虎(武勇・魔除けを表す)、寿山福海(絶えぬ寿と尽きぬ福を表す)、波濤文(特別な意味はないのですが無限らしいなと思いました)などなど…
・一番気をつけたのは、権力者を表すモチーフ(麒麟、鳳凰、龍など)を使わないことです。彼は非常に秀でた類稀なる存在ではありますが、王や神ではなく「人間」として描写されていて、そこが彼らしいと思っています。
・服の形は 今から400年前の武人の服をなんとなく参考にしました。(詳しい方々からだいたいあってると言われてホッとしました…!)

【黼】(風息)
・「ふ」または「ほ」と読み、斧を表す文様です。「断ち切る、果断」という意味があるので、映画版の風息をイメージして描こうと思いました。映画での彼は立ち位置としてはどうしてもヒール寄りになってしまいます。顔の角度や影の落ち方はそういった意識から。「黻」の無限には朝や昼の光があたっているイメージですが、風息に差しているのは暮れゆく夕日の光です。
・模様をなるべく植物で構成しようと思ったのですが、参考にした伝統的な衣装に描かれる植物は殆どが花で 女性の服に華々しく描かれており、目指す絵の方向とのギャップがあったため扱いに困りました。なるべく華々しさ嫋やかさが全面に出ないように気をつけつつ、最後は「まあ妖精だしな(性別にさしたる意味はない)」と開き直りました。笑
・服の真ん中にある大きな刺繍は蝶と木蓮。木蓮の花言葉は「自然への愛、高潔な心」。実は以前からなんとなく風息には木蓮というイメージあったのですが、改めて花言葉を調べたらぴったりだったので嬉しかったです。
・他には水仙や蝙蝠など 吉祥文様をチョイスしています。
・無限との体格差に気をつけました。風息の方がスマートな腰つき。

【粉米】(風息)
・「ふんべい」と読みます。ド難産の一つで 最後まで描いていた絵です。
・「黼」で風息をヒールのように描いてしまったので、このままではだめ!風息が大事に愛されている絵を描かなくてはと強く思いました。「粉米」=米で花を象ったもののことで、穀物(=自然)が風息を慈しんでその愛情が米に花の形をとらせている、というイメージを持ちました。
・風息も生きることを無条件に祝福される存在であったはず。それはこの世の全ての命も等しくそうだと思います。
・花を周囲に散りばめましたが 花言葉へのこだわりがたっぷりあります。サンダーソニア=「祈り、愛らしい」、メランポジウム=「あなたはかわいい」、ルコウソウ=「繊細な愛」、アングレカム=「いつまでもあなたと一緒に」、マダガスカルジャスミン=「清らかな祈り」

【宗彜】(無限)
・「そうい」と読みます。「黼」に対して「粉米」を描いたように、「黻」に対して描いたのがこの宗彜です。無限のこれまでの人生に触れるものが描きたかったです。
・構図が全然きまらず、ど難産だったもののひとつです。
・宗彜(=先祖を祀るための酒器)から溢れた酒に、無限が今まで出会ってきた人々が映し出されています。友人、同僚、宿敵、妻子…
・酒が左上に流れ、そこに映る人々も大凡そちらの方向を向いていますが、無限は右方向を向いています。生命の生き死にの流れの中にいる彼らと、その流れに乗らず今も生き続ける無限という対比です。(後ろの人々の中に今も生き続けているキャラがいたらすみません)
・無限は自分と逆方向に進む彼らに思いを馳せますが、後ろ髪を引かれるように振り返ることはありません。普段彼らに捉われて歩みを止めることはありませんが、折に触れて彼らのことを思い出し、忘れません。私の思う無限像です。
・無限は 彼の記憶の中にいる色々な人々と同じく 風息のこともずっと忘れないはず(たとえここに映る風息が無限の方を振り返っていなくとも)だと思っています。

【華蟲】(哪吒)
・「かちゅう」と読みます。日本語表記版だと「華虫」なのですが、蟲の方がかっこいいのでこちらの表記にしました。
・5色の羽を持つキジのことを指しますが、鳳凰を意味する場合もあるので、神仙から選ぼうと思いほぼ自動的に哪吒に決まりました。色鮮やかな点も似合いそうだと思いました。
・『夕暮れ時、蓮のウォールアートのそばを哪吒が通ると、差し込んでいた夕日の光が強くなり、蓮の絵が動き始めて キジの絵が壁の中に舞い込んでくる』みたいな場面をイメージして描きました。頭の中の妄想を映像として出力する機能が欲しいです。。
・神様オーラを全面に出すか ストリートな雰囲気でまとめるかとても迷い、後者寄りになりました。次の「星辰」もたまたま現代っぽい雰囲気になったので、見開きになんとなく時代の統一感が出たのはよかったかも。

【星辰】(小黒・小白)
・小白宅のベランダで 小黒と小白が話をしている様子です。
・「日」「月」と同じく、実在する中国の場所を背景の参考にしようと思っていたのですが、あの規模のマンションがあるような都会と 満天の星が見える場所というのをどうしても両立できず…
街灯りを星に例えるのはどう!?と思い立ちました。灯りの下にはたくさんの家庭がある…と思うと 自分の中では本のタイトルと印象が地続きになり とても納得感がありました。
・「星辰」は“世の中を照らし福をもたらすこと”を象徴する文様ですが、この本に込めたい祈り/願いはまさにそういうものだったので、この絵を一番最後に持ってこようと思いました。
・「月」は “これから夜が深くなる”という時間帯のイメージでしたが、「星辰」は“ここから夜が明ける”時間帯をイメージしています。(小白小黒がものすごく夜更かしなことになってしまいますが…笑)
物語の展開が明るい方向に向かっていって欲しいという、これも祈りのひとつです。

5.参考文献

十二章の情報が欲しくて本を買ったと上述しましたが、素敵な本だったのでご紹介させて!

◎紫禁城の后妃と宮廷芸術
明・清の宮廷芸術の展示の図録です。十二章の説明を求めて見つけた本ですが、宮廷衣装の見やすく詳細な写真が沢山載っていることが何より素晴らしく、ここ数年の中で一番良い本の買い物をしたと思いました…!!!装飾の多い「黻」「黼」あたりの資料として重宝しまくりました。 たまたま中古のものを発見し購入できて幸運でした。
https://hamonika-koshoten.com/?pid=89288994

◎日本・中国の文様事典
日本と中国の文様を紹介している本です。歴史や文様の成り立ちなども載っており非常に学びの多い本だと思います。中国の文様は後半に載っており、現状 前半(日本の文様)については全く読んでいないので笑、これからそっち方向の絵を描くときにもお世話になりそう!(https://amzn.asia/d/2enDCAF

6.作業中のプレイリスト

中国人歌手の周深さんが大好きなのですが、彼の曲の イメージに合ったものでプレイリストを作って延々聞いていました…!!美しい曲ばかりで全部おすすめなので是非聞いてみて欲しいです。曲のラインナップはこちら↓

・煙花易冷(周深カバー版)
・大魚
・情是何物
・請篤信一個夢
・画绢
・歸處
・與卿
・荒城渡
・彼岸花
・濃情淡如你
・念歸去

「情是何物」は自分の中で老君のテーマ曲で、「龍」を描いている時に一曲ループしていました!元々曲調だけ聞いて 藍渓鎮ってかんじだな〜などと思っていたら、歌い出しの歌詞が「世間に問う、愛とは何か(意訳)」だったのでびっくりしました。48話の老君の台詞を思い出さずにはいられない…

ほかにも 「煙花易冷」は「日」を描いているとき、「歸處」は「宗彜」を描いているときに多めに聞いていたので自分の中ではテーマ曲感が強いです。(歌詞の意味とかは考慮していません、曲調だけ…)


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