在宅診療科(2年目7月)

 亀田総合病院の在宅診療で1ヶ月を過ごし、未経験の分野で楽しい経験と多くの学びがありました! 特に、これまでは想像するしかなかった患者の日常生活への理解が深まり、病院から出ることでその地域での生活がより見えてくるようになると、患者のコンテキストの中に自分も入り込んでいる感覚となったのが面白い体験でした。McWhinney下巻の「患者を家でケアすることで医師自身の職業人としての人生が非常に豊かになることを過小評価してはいけません」という部分が少しだけわかるようになり、多職種連携の中での医師の役割や、家庭医としてのスキルの拡大が、職業人としての充実感をもたらすことを実感しました。
 
在宅医療を通して得た感覚
 患者を家で診るのは初めての経験でした。これまで想像するしかなかった患者の生活の中に急に入ることになって、外来で少しずつ積み重ねていったものが一瞬で深く体感したことが、在宅医療と家庭医療の親和性を感じた部分です。PCCMでは患者のコンテキストを俯瞰しているような感覚でしたが、自分もそのコンテキストに深く関わり、影響を与え合う家族志向ケアの文脈も同時に感じました。家庭医としての思考体系の接続と拡張を実感しました。
 色々な患者さんの家に訪問して、ヘルパー同行で一緒に生活を支える手助けなどをしていると、実際に患者さんがどのように生活しているのかを肌で感じることができました。これからは外来診療において想像している患者さんの生活を今までよりリアルに思い浮かべることができるようになると思います。

コミュニケーションとクリエイティブな感覚
 外来以上にコミュニケーションの重要性。在宅診療では医学知識はもちろんのこと、外来よりもさらに深いコミュニケーションが重要になると思いました。深い関係性の中で生まれる「生き方」への話し合いが、患者にとってホームである場所で行われることの価値がとても高いと思います。安全性の保たれた空間、深い関係性、傾聴、間、言葉が組み合わさって豊かになっていくのを感じました。また、そのような大事な瞬間はふと訪れますが、たわいのない雑談がもたらす効果も大きいことに気付かされました。専門職として、Cure, Care, Healの体現をできるように人間的にも成長していきたいと思いました。
 自分の内面への気づきとしては、コミュニケーションを試されている瞬間がとてもクリエイティブで楽しいと感じていることです。場と繋がって、自分の身体的感覚と言葉がその空間に影響をダイレクトに与えてしまうことが、普段の医療行為と全く異なったプレッシャーを与えてくれます。そこに在り続けるための訓練は專攻医のトレーニングでは行えないと思うので、さまざまな本からヒントを得て実践していくしかないと感じています。

臨床スキルの適用と発展
 在宅医療の奥深さはやはりリソースが限られている中での判断と対応であるとも言えます。総合診療医は、その場にあるものをどのように組み合わせて最適な対応ができるかを問われます。地域、病院、診療所、さまざまな制限があるなかで、在宅バックと家の環境しかない中でどうするのか、頭を捻って考えることにも楽しみを感じました。これはこれまでにどのような経験をして知識を積み上げていたかに依存することでもあるので、まだまだこれから勉強をしていかなくちゃいけないものだと思います。
 また、多職種連携とその中での医師の役割をしっかりと認識することも必要でした。Cure, Care, Healの全てを医師が担わなくてはいけないのではありません。1人の人間のさまざまな側面を多面的に癒すためには色々な人の関わりが必要です。その中で、医師にしかできないCure、そして見立てをできるだけ正確に共有することが多職種連携における医師の役割であると教わりました。より顔の見える関係を作ることが私たちにも患者さんにも重要であると思います。

まとめ
 訪問診療が家庭医の力を大いに伸ばすことを実感しました。生活背景を一瞬で知ることができ、藤沼先生の本にある病いへのアプローチ(FIFE, Life history, salutogenesis, interpretive medicine)を実感する場だった。外来では患者の生活をイメージすることが難しかったが、この経験を得てよりクリアに実感できるようになったと思う。
 家に伺ったことで、家族が本人の健康に及ぼす影響をまざまざと感じました。そして、様々な人生にふれて自分自身の人生にも影響を及ぼしてくれました。
 医療の本質を忘れずに、診断や治療はあくまで手段であることを認識しました。患者の日常生活において、患者である時間はほんの一部に過ぎないということも理解しました。

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