彼の人は保守なのだろうか。

自分自身は政治信条的に保守だと思ってきたし、今もそう思っている。祖国への愛国心もある。日本の伝統や歴史への敬意を持っているし、ご皇室への敬愛の念もある。選挙権を獲得してからしばらくは保守政党に票を投じてきた。実家も自身も保守系の新聞を購読してきたし、教科書問題の時に(名前はあえて出さないけど)教科書の内容を変えようとする団体に入会していたこともある(懐かしいな)。

その自分が最近思うのは、彼の人は本当に保守なんだろうか?っていう疑念、疑問。

保守とは何かっていう自分の整理も兼ねて、つらつらと述べていきたいと思う。ただ、これは、自分なりの定義や考えであって、政治学的には間違っているのかもしれないので、その点はご容赦を。

保守って何だろう?と考える。

「保守とは思想ではなく、態度である」みたいなのを何かの本で読んだことがあるんだけど、まさにその通りで、別に「憲法9条改正」とか「夫婦別姓反対」とか「靖国神社への参拝問題」というのは、論点としては大切なんだけど、保守か否かという点では正直些末なだと思う。同じ保守でも多少のばらつきがあるし。。。

態度とは何か?僕なりにずっと考えてきたのは、歴史とか伝統、過去の先人たちへの敬意や謙虚さ。

保守は、現在の自分たちが一番賢いなんて態度は取らない。先人たちが長年続けてきたものには、彼らの真摯な洞察と未来への誠実な思いがあるっていう推測や敬意があるので、尊重するべきという態度を取る。(だからこそ、伝統なり歴史へのこだわりになる)。賢くもない現在の我々が何か変えようとするときにより謙虚に、過去の彼ら(右だろうが、左だろうが)の意図や真意に耳を傾けて、より慎重に当たるべきという態度。だから、何かに変えようとするときに急進的ではなく漸進的態度を取る(人類は直線的に進歩している、現在の人間が抜本的に刷新してもよい、するべきとする革新とは違うところ)。

それは、現行憲法に対しても同じ(正直、最近の右側の主張に違和感を持っている)。現行憲法の成立過程に多少の疑義があるのはわかる(江藤淳氏など多くの保守論者から指摘されてる)。ただ、それを受容する過程で先人たちの真摯な議論を経て成立したはずで、そこには彼らなりの戦争への反省や新国家や日本国民への思いとかがあったはず(無かったはずがない)。本来の保守ならば、「マッカーサー憲法」とか「押し付けられた憲法」と切り捨てるんではなく(そういう言い方はある意味先人への冒涜だと思う。先人たちはただ何もせず受容したのか?)、彼らの考えを尊重しつつ、また敬意を払いつつ、どのように憲法を改正するべきなのかっていう冷静な議論をするべきなのではないか(少し前の保守政治家の多くに、現行憲法に対する一定の理解や尊重する気持ちがあったように思う)。

保守は、過去の先人への敬意だけでなく、未来のヒトへの畏れ、ひいては歴史に対する畏れも持つ。後世の歴史家からどのように筆誅を受けるのか、を畏れる。ただ、それは現在の歴史を都合の良いように改ざんしたり、抹消したりするのではなく、後世の人々が可能な限り公正に判断できるように記録をあるがままに残す。

例えば、故中曽根康弘氏について様々な書籍を読んでいて通底するのは、「私は正しいのか?」という内省と歴史への畏れ(『自省録―歴史法廷の被告として― 』という書籍もある)。その謙虚さ、真摯さ、深い思索が彼を戦後の代表的政治家にしている。

また、沖縄返還交渉にあたった若泉敬氏の『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス 』は何に対して向けられた言葉か。それは、未来の人間に対して、「自分のやったことは、他に方法が無かったことだと思うけど、後世の人間はどう判断するのだろうか」っていう謙虚な思い。

そもそも歴史を改ざんするというのは、極めてプリミティブで野蛮な事だというコンセンサスをそろそろ確立するべきだし、自身の行動を文明か野蛮かと内省する意識を日本人はもっと多く持つべきなんじゃないかな。いじめとか差別の問題もそうなんだけど、日本人には、他者の人格への敬意とか、物事に対するの真摯さ、敬虔さが無いと思えるのは僕だけだろうか。。

彼の人の態度はどうか。記録はシュレッダーしましたと平然と言いのける神経、記録を残そうという意識もない。まるで、政変後「トロツキーはいませんでした」「林彪はいませんでした」と言わんばかりに写真を修整したり、党史から抹殺してきた共産主義国家を想起させる。日本の保守が戦後ずっと言ってきた「道義国家」とやらにはどこに行ったのか。

彼の人の態度は、保守と言えるだろうか?

最後に、重光葵氏の有名な和歌を紹介して終わろうと思う。

『願はくば 御国の末の 栄行き 吾名さげすむ 人の多きを(将来祖国が栄えて、降伏文書に署名した自分の名前を蔑む人が多くなることを願う)』

我々は、まだ見ぬ未来の人々に誇れるような祖国を残すべく努力していると言えるだろうか。



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