流通経済大学サッカー部・中野雄二総監督が大いに語る、ユニバのこと、今後の大学サッカー強化のこと~前編

流通経済大学サッカー部総監督である中野雄二。
大学サッカー界のみならず、今や日本のサッカーシーンにおいて、欠かせない重要人物でもある。

私事でもありますが、中野さんとの出会いは今から13年前の刈谷で行われた、JFL合同セレクションだった。当時、大学サッカーに対する知識がほとんどなかった自分にとって、「なぜ大学サッカー部の中野総監督がここにいるのか?」という疑問しかなく、初対面ではあるものの「なぜ流経大サッカー部のスタッフはこのセレクションに参加したのですか?」という話を伺ったが、そこで帰ってきた言葉に心を打たれ(文字数の関係から、ここでは詳細を割愛させていただきます)、大学サッカーを知るという点ではなく、「中野雄二」という人をもっと知りたいし、この人の改革案をもっと多くの人に知ってほしいと思い、ずっと追いかけるようになった。

そして今回、大学サッカーと社会人サッカーというテーマでインタビュー取材(※2019年7月2日、流経大フットボールフィールド応接室にて実施)を行ったが、その本題に入る前に雑談的に始まったユニバーシアードの話や、大学サッカー界の強化をどうしていくのか?という、興味深く刺激的な話にどんどん発展していったので、それをここで紹介していきたいと思います。

なお、以下のインタビューに関しては、背景の説明などを必要と感じた部分以外は、中野総監督の言葉をそのまま文章に起こしております。

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中野:わざわざ流経大フットボールフィールドまで来てくれてありがとうございます。ユニバ(※イタリア・ナポリで開催された第30回ユニバーシアード)の選手団はもう現地入りしていますが、今大会、僕はスタッフとしてではなく、(大学連盟の)技術委員の一人として視察に行くので今週末での現地入りになりますが、「とりあえずローマに行ってから移動する」ということしかわからないんですよ(笑)

――今大会はブラジルから急遽イタリア(ナポリ)に変更されましたからね。

中野:ブラジル(ブラジリア)での開催予定でしたが、2015年に開催を返上してしまい、2016年に入ってから急遽ナポリに決まりましたが、その時点で選手村の新設は間に合わないと言われていました。また、昨年大学選抜チームの遠征でナポリに行きましたが、「治安が良くない」という印象は持ちましたね。街のあちらこちらで、資金難などから建設中止になってしまった鉄骨だけの建物がたくさんあるし、街や道路はゴミだらけで「すごいことになっているなあ…」と驚いたと同時に、ここに宿泊させるのはいろんな意味で危ないとも思いました。そんなこともあり、選手と同行スタッフ以外はローマから移動になったようですが、選手の宿泊所に関しても最初から街の状況を考慮され、ナポリ港に8000人収容できる客船を呼んで、そこを選手村として使う予定だと聞いていたのですが、大会の2か月くらい前になってから、これも急遽なんですが大会側から「サッカー競技の選手団に関しては、申し訳ないですがイタリア国内の大学施設を利用していただくことになります」という通達が来たので、僕も彼らがいまどこに宿泊して、どこで合宿しているのかわからない状態なんですよ(笑)。

――そんな状況で選手たちは大丈夫なのですか?(笑)

中野:いまのところ、僕のところにはスタッフや選手から何も連絡が来ていないので「大丈夫なのかな?」とも思っていますが、まあ何もないということは満足しているのかも知れませんが、逆に不満だらけなのかもしれませんが、不満の場合って中々言い出しにくいというのもあるかも知れませんからね(笑)

 また、わからないついでになりますが、今大会は急遽変更されたこともあり、どの競技でも規模(出場枠)が2/3ぐらいに縮小されましたし、そもそも開催しない競技も出てしまいましたが、サッカーもこれまで16カ国開催でしたが、今回は12だけになり、3チームの4グループのグループリーグ戦と決勝トーナメントいう形になりましたが、なんか非公式な話ですが、6/6の2グループになる話もあるとかいろいろ言われていて、僕も現地に行くまでわからないんですよね(※結果的に、本大会は当初のレギュレーションどおり、3チームの4グループ/勝ち上がった8チームによる決勝トーナメントという形で開催された)。

――そういえば、今大会がユニバーシアードにおけるサッカー競技は「最後」と言われていますよね?

中野:そうですね。確かに「サッカー競技は今大会が最後」と言われています。でもね、これって中国がユニバに出られていなことが大きく影響しているんですよ。ユニバの出場国の割り振りですが、前回大会のベスト8がそのまま出場枠を得ることになり、残り8枠を各地の代表で争うことになりますが、ここ10年近くはアジアに割り振られている4枠のうち、日本が1枠を常に維持していますし、韓国も比較的出場枠を確保し続けているため、中国がコンスタンスに出場権を得られていない状況が続いていしまっているんです。

(※ここ数年の男子中国代表のユニバーシアード出場歴だが、2011、2013、2015と3大会連続で出場権は得たものの、決勝トーナメント進出は2011年のみ。直近2大会は地区予選落ちし、本大会出場を逃している。)

 中国の国家主席である、習近平さんは大のサッカー好きとしても知られているじゃないですか?そんな習主席の意向もあり、国家プロジェクトとしてどんどんスタジアムなどハード面の充実を図っているし、その一環で作られたスタジアムや施設に対して、税金の免除なども行っているそうですが、「ソフト(選手、技術)」の充実が進んでいない。だから岡田(武史)さんも一時期、あちらの指導者として招聘されましたが、とにかくソフトを充実させたいそうで、僕のところにも中国(の大学)から「何年間か(中国)に来てくれないか?」というオファーを受けこともありましたが、僕はイヤだったのですぐに断りましたが、そしたらエージェント側は「では、中野さんが持っている繋がりの中で、良い指導者がいたらとにかく紹介してほしい」とも言われたこともあるんです。まあ、要はてっとり早く日本がやってきた育成システムを取り入れて、実力の面でも早く追いつきたいということなんですよ。ただね、岡田さんも含めて、行った人はみんなすぐに帰ってきてしまっているところなんか見ても「上手く行ってないんだな…」というのはわかりますよね。

 で、日本ではユニバ(ーシアード)と言えば「大学生の大会」だし、知名度は高くはないし、ユニバと比べたら「アジア大会の方が格上」という意識を持つ人の方が多いと思いますが、中国ではユニバがオリンピックに続く大会という位置づけとされているんです。僕が監督として行った2011年の深圳大会では、ユニバーシアード専用レーンが道路に用意され、宿舎から会場までの移動はどの競技でも先導者車つきだし、会場までの道は渋滞どころか信号待ちすらない快適な移動だっし、会場施設や宿舎なんかも豪華で、会場スタッフの受け応えなんかもVIP対応の連続で、ホントやることすべてが「ケタ違いだよな…」と感じましたが、大学生のスポーツ祭典なのに、アジア大会の総予算を上回る、日本円にして2兆円の予算を割いて開催ということを聞いてホントびっくりでしたが、そういうところに「オリンピクに続く大会」というところが出ていましたね。

 サッカーというものに対して、国家レベルで力を入れているし、中国国内でプロリーグに続く位置にある大学サッカー界をとにかく強化したい。また、オリンピックに続く大会と認知されているユニバーシアードを若手選手の強化舞台と考えていたのに、日本や韓国の前に結果を出せないどころか、出場枠も取れていない。そんな感じが続いている中で、少し前から「中国主導で、ユニバのサッカー競技に替わる大学生の世界大会を新設する」という話が出てきたんですよ。それもね、出場国の遠征費から宿泊費、大会運営費、すべて中国側が負担するという形だったのですが、それと同時に「世界大会(※)を新設するから、ユニバのサッカー競技はやらなくても(廃止しても)いいのでは?」という流れも出てきたんです。

※国の代表同士が対戦する形の大会ではなく、各国代表となった個別の大学が参戦する形の世界大会

 当然、日本にも中国からこの大会への参加の打診はありました。ただ、この大会の開催時期が10~11月ということらしく、この時期は各地域の大学リーグは、どこも佳境を迎えている時期なので、そこで大会参加のためにリーグ戦を中断する訳にもいかない。また、仮にですが、リーグ戦を中断とかしてしまうと、今度は他の連盟が組んでいるサッカーカレンダーとの兼ね合いで、(会場を抑えるなどの部分で)厄介なことにもなりかねないので、日本としてはあくまでも「ユニバでのサッカー競技継続」「新設大会には参加できない」というスタンスであることを伝えたんです。ただ日本以外の国は、「遠征費、宿泊費、全部負担します」という中国側の働きかけもあり、ほとんどの国は中国に説得されてしまっていたんです。そんな流れがある中で、昨年FISUの総会が行われた際に、今後の実施競技を決める投票があったのですが、そこで日本以外の国はみんなサッカー競技廃止案に賛成してしまったために、サッカー競技は2019年大会限りが決定し、中国主導で準備された世界大会の各地域予選も合わせて動き出したんです。

――しかし、これまでの中野総監督がチャレンジしてきたJFL参戦や社会人リーグ参戦などから考えてみると、中野さん、流通経済大学単体としては、参加してみたかったという思いはありませんでしたか?

中野:僕個人というか、流通経済大学としては出場したいと思いました。ただこればかりは、一つの大学の意思だけで決められるものではないじゃないですか? 流通経済大学が学連の意向も確認せず「出ます」と言えるわけがないし、単独大学チームで優勝を争う大会なのだから、どこの大学が出るのか?というのはしっかり決めなければいけません。もし日本も出場するのであれば、出たい大学を集めて予選をやるのか? それともインカレとかのタイトルを獲得したチームに出場権を与えるのか?などを決めるために、技術委員会、理事会それぞれに議題として提出し、手順を踏まないことには前へ進めない。ただどちらにせよ、大会にチームを派遣することになれば、どうしてもリーグ戦の中断は必要になってしまう。そしてこの大会の参加については、韓国側も同様の問題があり、大会参加については歩調を合わせて「出場を見送る」という形を取ったんです。

でもちょっと前に、この大会のアジア予選が行われたのですが、韓国の大学サッカー連盟は「参加しない」と決めたはずなのに、韓国のミョンジ大学(明知大学校)が勝手に(単独で)参加してしまい、アジア代表枠を獲得してしまったんです(笑)

僕も「日本と申し合わせて出ない」と決めたはずなのに、なんで韓国の大学が出てしまったの?と、いろいろ疑問に感じましたが、後から話を聞いたらミョンジュ大学の学長がFISUの理事かなんかみたいでして、FISU側から「出て欲しい」という要望があったらしく、仕方がなく予選に参加したそうなんですよ。

でもこのように、ユニバでのサッカー競技が廃止となり、さらに新設の大学サッカー世界大会が始まることもあり、もう一度「日本も2020年に行われるアジア予選に参加してみては?」という話が中国の大会事務局から技術委員会に連絡があったんです。ただ、そういう連絡が来た中で、次のユニバ(2021年大会)が中国の西都で開催することが決まってしまったんですよ。さっきも話しましたが、ユニバはオリンピックに続く格付け(位置づけ)の中国ですが、地元開催であれば、サッカー競技があれば中国は「開催国枠」として、自動的にユニバに出られるようになる。(サッカー競技に)出られないから「新規大会」を打ち出した中国ですが、出られるのであれば止める(無くす)理由もないじゃないですか? だから今、まだ非公式な話ではあるのですが、「もしかしたらユニバでのサッカー競技が復活するかもしれない」と技術委員会だけではなく、サッカー協会内でもそんな話をする人も出てきたんですね。でもこの噂みたいな話が、大学サッカー界の強化に関してあまりよろしくない方向に動くかもしれないんですよ。

これまで、大学サッカーの強化は2年に1回行われるユニバを中心に、サッカー協会から強化費が出ていたんです。ユニバの年は1300万円、合間の年には800万円という額が、サッカー協会から支給され、これをユニバに向けての準備(デンソーチャレンジやその他海外遠征費)に使ってきたのですが、ユニバ(でのサッカー競技)自体が消滅してしまった今、協会からの強化費支給が無くなってしまう危機的な状況でもあるんです。また、最終的に理事会では「新設の世界大会には参加しない」という方針を取りましたが、ユニバなきあと、大学サッカーの強化はどこに焦点を置くのか?という問題も出てきてしまっているんです。

そんなこともあり、大学サッカー連盟としては各大会をリサーチした上で、参加チームの年代が近いということを考慮し、23歳以下の選手が中心となる「トゥーロン国際大会」に、大学選抜チームで参加させてもらえないか?と、田島会長をはじめとした協会幹部、そしてJFA技術委員会に打診したんです。そんな事情もあり、今回のトゥーロンでは大学連盟の吉見さん(章さん、元明治大学/2007ユニバ代表監督)を団長に据えてもらい、団長という役割をこなしながら「大学連盟単独で参加しても実力・運営面でやりきれる大会なのか?」という部分も視察してもらったのですが、帰国後に吉見さんからは「とてもではないけど、実力面だけではなく、運営面から見ても大学連盟のスタッフだけでやりきれる大会じゃない。完全にプロの大会でしたよ」という報告を受けたんです。まあ、吉見さんからの報告もあったとおり、この大会を「大学選抜」で挑むのは難しいという現実は、技術委員会でも受け止めなければいけないとなりましたが、実はこの報告だけではなく別のところからの「要望」ものもあり、学生選抜を送り込むことが難しいだろう…という話になったんです。

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今回はここまでで、後半は次回に続きます!

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