表紙タイトルあり

第1回 ガンダムは観る前にブームが先にやってきた

 それはおそらく1980年の2月。岩手県盛岡市の小学5年生だったある日、同級生の1人が「今、東京ではこういうのが流行ってんだぞ」と言って、そいつのアニキが読んでいた雑誌を持ってきた。
 マチルダ中尉が表紙のアニメージュ。1980年3月号。
 マチルダ中尉は言わずもがな機動戦士ガンダムの登場人物だ。
 アニメージュという雑誌の存在自体は知っていたが、当時の私にとってはもっと上の歳の人たちが読むものだと思っていた。実際、その少し前に宇宙戦艦ヤマトはブームになっていたが、そのブームを担っていたのは自分より上の世代だったわけで、アニメージュも当然その当時の高校生~大学生ぐらいがターゲットだったのではないか。
 いずれにしても、当時の私の情報収集のメインは、子どもの文芸春秋と呼ばれる『コロコロコミック』。なかでも内山まもる著「ザ・ウルトラマン」~かたおか徹治著「ウルトラ兄弟物語」という、ウルトラ漫画を楽しみに生活していたのだった。
 その時点ではたぶん、マジンガーシリーズも終わり、石森ヒーローの登場も減っていたため、『テレビマガジン』はもう買ってなかったんじゃないかと思う。
 その1年前には「劇場版ウルトラマン」をSY内丸という盛岡の松竹系映画館に見に行っているはずだ(その1年前というのは、4年生から5年生に進級するタイミングで福島市から盛岡市に転校してきたのだった。盛岡で劇場版ウルトラマンを上映しているかどうか、相当心配した記憶がある。初代ウルトラマンは雑誌等でストーリーはさんざん頭に入っており、なんなら頭の中でほとんど想像で再現してあるぐらいだったのだが、なにせ家庭用ビデオなど普及していない時代である。実際に動く映像としてはこの時が初代ウルトラマンの初見だった。実相寺昭雄監督作品。引っ越し早々狂喜して見に行った。何といっても併映が、いまや伝説の円谷プロとタイのチョイヨープロダクション合作「ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団」だったのだから。ハヌマーン!)。
 その夏には劇場版「銀河鉄道999」を満員の盛岡東映に見に行っている。そう考えると、すでに世の中はアニメブームだったんだな。
 しかし、こうして書いてみるとこの辺の時系列は、記憶がかなり曖昧になっているなと実感する。いずれ、きちんと整理してみなければ。
 いずれにしても、「東京で流行ってんだぞ」と言われても、当時の岩手県の民放テレビ局は日テレ系列とTBS系列の2局だけで、ガンダムが放映されていたテレビ朝日系列はネットされていなかった。なのでガンダムも当然ながらその時点でクラスの誰も見たことがない。
 その日、休み時間にそのアニメージュを読ませてもらいながら、ある特集に瞬く間に引きずり込まれてしまった。アニメーターの小松原一男さんの特集。大好きだったデビルマンやゲッターロボ、グレンダイザーの作画監督もしていて、遡れば物心ついたころに好きだったタイガーマスクでも作画監督を務めていたそう。さらに松本零士原作のキャプテンハーロックも描いているという。この特集を見て、「やっぱり劇場版999はハーロックと同じ人が描いていたのか!」と驚き納得したのだった。
 自分が大好きだったアニメは、同じ人が作画していたという事実に驚いて、その日はそのことがずっと頭を離れず、結局そのアニメージュ3月号を翌日に買ってしまうことになったのだった。
 ちなみにこの号は、雑誌では異例の重版がかかったそうだ。確か、ガンダムの本放送はその1月に終了しており、このアニメージュ3月号では勝手に映画案なるものを考え特集していた。
 そして、このメイン特集のガンダムの記事を読み込んでいるうちに、まだ見たこともないガンダムにどんどん引き込まれていくのだった(当時は、自分だけでなくクラス全体がガンダムブームになったように思いこんでいたが、よくよく考えてみると、盛り上がっていたのは自分だけだったのかもしれない、という気がしてきた)。
 ガンダムに惹かれたのはまず、なんといっても敵メカがどうやら毎回同じものが登場するらしいということだ(ザクのこと)。
 それまでの、例えばマジンガーZでは、敵メカは毎回違うものが登場してはマジンガーにやられていくという繰り返しだった。でも、たまにはマジンガーをギリギリまで苦しめる敵メカというのも登場したりするわけなので、「それなら、毎回違うメカを出すより、その強いメカをたくさん作って攻撃した方が良いんじゃね?」と常々思っていたのだ。
 それが、敵メカ(モビルスーツ)が毎回同じでたくさん出てくるのだ。
しかし、映像としてのガンダムは未だ見ていない。
 アニメージュには毎月ガンダムが特集されている。
 ザクが見たい。
 そんな時、学校近くのレコード屋さんで、1枚のチケットらしきものを手渡される。
 「機動戦士ガンダム上映会」
 なんだこれ!?
                               (続く)

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