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帰属の象徴としての仮想通貨

先週から、過激派イスラム武装組織ハマスへの仮想通貨による寄付金の問題が話題となっている。このニュースを見た時に、多くの人は仮想通貨がテロ組織支援に使われた、という悪い印象を持つだろう。私も当然そのような印象を持った。世界中どこにいても簡単に資金を送り届けることができる仮想通貨は、やはり便利であり危険だ。しかし、今回の件については、寄付する側の立場に立って考えてみると、改めて違った仮想通貨の性質が意識される。

なぜ、人は相手が過激派組織であっても寄付しようと思うのだろうか。それは寄付者が過激派組織のことを信仰しているからである。このように信仰の話をすると、「この世界は共同幻想によって成り立っている」という考えが、「サピエンス全史」の流行もあって、支配的となるが、ここではそのような月並みな考えは一度捨てて話をする。確かに寄付者の心の中には過激派組織への信仰心というものが存在するのだが、彼らが本当に大事にしているのは“組織への帰属意識”ではないだろうか。組織(コミュニティ)に貢献することで、自分が組織の一員であることを確認し、何かしらの満足感、安心感を得ているのである。

このように考えた時に、仮想通貨における分散性そして透明性の議論は、一般的な見方とは真逆の方向に進む。コミュニティへの帰属意識を目的にトークンを保有あるいはそれを使った活動をするのであれば、それが分散的であるかどうかは全く関係がなくなる。透明性についても、外部にコミュニティ内の情報が漏れないよう、内部に限って確保すべきという結論になる。このような状況は社会で当たり前に見られる。何でも良いが“会員権”が存在するものがその例だ。ファンクラブやサービス会員といった一般的なものから、合言葉やシンボルマークを“会員権”とするコミュニティまで。

仮想通貨は、時として新しい経済圏の創造を可能にするイノベーションであると賞賛されるが、まずは既存社会における帰属の象徴としての役割を強めていくのではないかと今回考えた。カードで管理されている会員情報なども将来的にはトークンで、かつブロックチェーン上で管理されるようになるに違いない。その意味では既存社会のアップデートという枠組みを超えないのかもしれないが、価値の移転が可能という点ではやはり仮想通貨は革新性を備えている。その特性を生かしながら、コミュニティ内の活動と帰属の象徴としての仮想通貨をどのように結びつけるか。武装組織ハマスの件から、この先の個人によるコミュニティ帰属の在り方が少し想像された。

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