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死んだ父親が「あの世はある」と伝えてきたのかもしれない話。


4月4日、父が死んだ。
91歳。
母と弟に見守られ、
今時珍しく自宅で死んだ。
四年前に脳梗塞で半身不随になり、
何度か入院したものの
「うちに帰りたい」と言い続けて
82歳の母が介護した。
訪問看護や入浴サービスをはじめ
毎日たくさんの人に支えてもらったおかげもあって、自宅での看取りができた。

ものすごく頑固で根性のねじくれた
人だった。
私は何を頑張ってもついに一度も
褒めてはもらえなかった。

小学校の時、体育が苦手な私が一度だけ
「オール5」だったことがある。
その時成績表の保護者覧に父が書いた
言葉は忘れない。
「調子者に出鱈目な評価をつけるようでは
迷惑です」
ぷぷぷ。酷すぎる。
今、考えてもすごいと思う。

さて、この父は
国民学校の6年の時に満州で敗戦を迎えた。トウモロコシ畑を機関銃の弾が流れる中を逃げたとか、女の人たちを守るためにひとつ上の兄が先に行って狼煙が上がったら自分たちが進んだとか、その上の兄さんは上陸した戦車に踏み潰されたとか、
お姉さんの遺体が焼けなくて困ったとか。
帰国する船では次々と人が海に飛び込んでいった、とか。

私は小さい頃からよく父の話を聞かされた。

最後に言うのは、

「いいか。死んだら全部おしまい。」
「神様なんてもちろんいない。」

宗教はどれも全否定。
世界三大宗教をはじめ、
大きいのも小さいのもUFOもお化けも
妖怪ももちろんいない。
死後の世界なんてあり得ない。
科学もダメです。
人間の考えることなんて、と人間も否定。

きっと辛かったんだろうなとは思った。
夜中によくうなされていた。

そして時々親戚の葬儀や法事で故郷に帰るとお寺のお坊さんに向かってクソ坊主めと
言い合いになっているのも何度か見た。

さて、そんな父は80を過ぎた頃
検査入院をしました。
その日、CTの検査を異様に怖がっていたのを思い出す。

「死ぬかもしれない」
「まさかぁ!検査だよ検査!」

父は診療放射線技師でした。

買い物をしていると、父の行った病院のICUから連絡が入る。
「急いで来てください」
父は、造影剤によるアナフィラキシー様
ショックで意識を失っていた。

意識が戻って話せるようになると、

「結構いいもんだと思ったよ」
「どこも痛くなくて楽なんだ」
「上から自分を見てるんだよ」
「若い先生たちが大騒ぎだ」
「注射を用意してないんだから
  まずいよなぁ」

アレ?
それはお父さん、
タマシイが抜けてますよ。

「お父さん、やったね!
      臨死体験だよそれ」

「いやあ、兄貴が(先に亡くなっている)
    しっしってするんだよ」
「川渡るのやめたよ」

などと言っている。
ここぞとばかり、「だからあの世はあるって言ってるのに。やっと信じる?」

ニヤニヤして返事はなかった。
けれど不思議な話やあの世の話に
怒り出すことも無くなった。
歳だからかなぁ。
でも、お父さんは地獄行きだから
心配しなくても大丈夫だよ、
と皆で笑った。


その父も今月の4日に亡くなった。
造影剤の件から10年以上経っている。

実家で父に会うと、たまにその話になり
あんなに「死んだらおしまい」と
言い切っていたのにねぇ。
さぁどうする?とふざけると、返事はない。


「お父さん、お願いがあるんだけど。
そのうち死んだら、絶対に連絡してね。
なんでもいいから。
鈴を鳴らすとかノックするとか。
あの世があったら『あるよ!』と
合図送ってね。」

やはり無視されました。


さてさて、ここ数日。

台所でご飯を作っていると、
突然真っ暗になり、すぐに電気がついた。
そのあと自分の部屋の小さい扇風機が
突然回り始めた。

「あーびっくりした〜」

とその時はすぐに忘れていた。

翌朝、この扇風機のそばで新聞を読んで
いると、またスイッチが入って新聞が
カサカサいう。もしや?と思った私は

「お父さん、もう一回!
     もう一回お願いします!」

と天井に向かって声に出してみた。
何も起こらない。

翌日。
またビィーンと回った。
ようやく、もしかしてもしかすると
あの約束の合図かもと思った。

さっきもお風呂場で「あと一回お願いします」と心の中でつぶやいてみる。

合図、来るかなぁ。

死ぬ2、3日前のこと。
父は目を閉じたまま、「やかましい!」
「やかましい!静かにしなさい!」と
寝言を言っていたようだ。

それを聞いた私は
「親戚一同が迎えに来たな」とあとから
思いました。


父さん、合図ありがとね。
昔、グーでパンチしてごめんなさい。
父さん、育ててくれて長生きしてくれて
本当にありがとう。
私ももう少し頑張るよ。

みなさん、
死んだら終わりではないようですよ。



            終わります👻



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